憲法32条の裁判を受ける権利を否定する鈴木わかな裁判長ら:雁琳カンパ罪vs北村紗衣

訴訟制度の根幹の否定

雁琳カンパ罪vs北村紗衣東京地裁判決

北村紗衣「被告が寄付金を集めるビジネスモデル、他人を煽ってお金を集める行為が勘案された」
危機管理体制どうなってるんだこの事務所… 北村紗衣「被告が寄付金を集めるビジネスモデル、他人を煽ってお金を集める行為が勘案された」 北村教授への誹謗中傷について、東京地裁が加害者に220万円の高額賠償判決を命じました - 武蔵小杉合同法...

武蔵大学人文学部准教授(現教授)の北村紗衣が雁琳(旧ネーム「永観堂雁琳」、本名:山内翔太)から名誉権・名誉感情侵害の不法行為が行われたとして東京地裁に訴えた民事訴訟の判決が令和6年4月17日にあり、慰謝料200万円と弁護士費用20万円の合計220万円の請求が認容された事案。

雁琳カンパ罪】と形容されるように、本判決では雁琳のカンパ募集投稿が慰謝料増額事由となっており、その不合理性は既に上掲記事で指摘していますが、本稿は別の側面から判決の異常性と裁判官の不適正性を論じます。

憲法32条の裁判を受ける権利を否定する鈴木わかな裁判長ら

東京地裁の鈴木わかな裁判長らの論は実質的に憲法32条の「裁判を受ける権利」を否定するものです。

確かに、「カンパで同調者が煽られるから慰謝料増額」と司法が判断しようが、応訴が禁止されたり手続の中で不公平な扱いを受けるということは制度上はありません。

が、お金が無い弱者がスラップ訴訟を受けた時に詰みます

「訴訟になると(長引くと)勝てないから高額な和解に応じざるを得ない」

とか

「弁護士費用が払えないから本人訴訟するしかなくまともな主張もできない」

「まともな弁護士を雇えずに変な主張構成をされて裁判所の判断をバグらせる相手方の無茶苦茶な主張にも適切に反論できず、真実とは異なる認定を裁判所に為される」

といった事態が、十分な資金が無いと発生しかねない。

「本人訴訟でも勝てる」なんて、極めて限定された人物と状況だけ。

このように、制度が用意されていても実質的に「裁判を受ける権利」が満足に得られない状況が生じます。ここまで国がフォローしろという規範は憲法32条からは導けませんが、現実としてそういう実態が生じ得る。

私的制裁・自力救済の禁止をルールとして設けたその反面、司法権によって公平な状況を作ってあげましょうというのが「裁判を受ける権利」の本質でしょう。

その訴訟制度の根幹部分を裁判所が逆巻きにしたんですから、批判されて当然です。

もっとも、カンパ募集の際に原告を誹謗中傷する内容を入れ込んでいたり、誹謗中傷ツイートを引用リツイートする形で行ったから、という事なら理解できます。

しかし、本件ではそういう事情はありません。

誹謗中傷を行ったアカウントからの投稿だから煽りだ、といった理屈は、震災時に「朝鮮人だから井戸に毒を入れただろう」と言うレベルの差別であり許されないでしょう。*1

そして、現実の具体的な法体系からも逆行したものです。

総合法律支援法の民事法律扶助事業の整備にも反する鈴木わかな裁判長の雁琳カンパ罪

総合法律支援法

(民事法律扶助事業の整備発展)
第四条 総合法律支援の実施及び体制の整備に当たっては、資力の乏しい者その他の法による紛争の解決に必要なサービスの提供を求めることに困難がある者にも民事裁判等手続(裁判所における民事事件、家事事件又は行政事件に関する手続をいう。以下同じ。)及び行政不服申立手続(行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)による不服申立ての手続をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)の利用をより容易にする民事法律扶助事業が公共性の高いものであることに鑑み、その適切な整備及び発展が図られなければならない。

総合法律支援法では民事法律扶助事業の整備が規定されています。

もちろん本法のこの規定は、憲法32条の裁判を受ける権利の実質的保障を手厚くするためのものです。詳しい経緯は日弁連が書いています。

日本弁護士連合会:民事法律扶助における利用者負担の見直し、民事法律扶助の対象事件の拡大及び持続可能な制度のためにその担い手たる弁護士の報酬の適正化を求める決議

まさか国が用意した制度で訴訟のための金を事前に得ることは「同調者を煽る」ものではないが、民間人が自身の人脈を使って努力して金を集めることは「同調者を煽るから損害拡大」だというのでしょうか?

前掲記事でも指摘したように、カンパ募集ツイートには何ら北村紗衣を貶める誹謗中傷文言もなく、誹謗中傷の内容のある投稿を引用しているものでもありません。

次に、「雁琳に対してカンパをする者」は、必ずしも「原告を貶める投稿を広く伝播して同調する者」であるというわけではありません

例えば「雁琳の投稿はよくないけど、訴訟で司法的非難を受けるようなものではない」もしくは「司法的非難を受けるべきものとしても応訴の負担分は軽減させてあげたい」という立場・見解の者も居る可能性がある。

それに、仮に「北村を貶める投稿に賛成している者」が雁琳にカンパをしたとしても、それだけでは「北村を貶める投稿を再伝播」することにはなりません。カンパ行為それ自体によっては、そのような意思や行動はどこにも表れないからです。

結局、本件のカンパ募集により「北村に対する誹謗中傷投稿の内容を再伝播させる」者が登場する可能性は極めて例外的な場合にしか存在しないと言うほかなく、さらに、別人格である彼らの行為による雁琳の責任を問うためには、そのような者の行動を雁琳氏がカンパ募集に関連した言動によって導いた、という因果関係が無いといけません。

しかし、それが示されていない以上は「同調者を煽ったから損害拡大」は何ら根拠の無い妄想に過ぎません。

これはX(旧Twitter)という双方向コミュニケーションツール上でのアカウントによる発信であるか、それ以外の書籍やテレビ放送での発信であるかで違いはないハズです。

*1補足として「杉田水脈いいね罪」判決との関係。あれは「いいね」の対象ツイートが誹謗中傷投稿と紐づいているという大前提がある。「背景事情」として従前の杉田氏の言動が考慮されたのは、その「いいね」の意味内容の確定のため。雁琳カンパ罪はそういう前提を全く欠くのに無理やり「同調者を煽る」などと書いている。

東京地裁 Wikipediaより


編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。