自民総裁は上位3人の中では石破茂氏がベストの選択

高市氏では新たな混乱の始まり

自民党総裁選の決選投票で、石破茂氏(67)が高市早苗氏(63)を破り、10月1日召集の臨時国会で首相に選出されます。一回目投票で高市氏が議員票、党員票でトップにつけ、決選投票でも勝つのではないかとのムードを感じた人もいたはずです。

決意を表明する石破茂新総裁 自民党HPより

それが石破氏の議員票が初回(46票)より130票近く増え、逆転勝利となりました。私は、最終段階で絞られた3人の中では石破氏という選択がベストだと、思っていました。特に高市氏による安倍流の保守、タカ派路線は時代の流れに逆行し、また安倍路線に戻ってしまう。小泉氏は人気が高くても、まだまだ政治経験が未熟ですきだらけです。

高市氏は「経済成長をどこまでも追い求め、日本をもう一度世界のてっぺんに押し上げたい。成長、成長、成長ですと」と。掛け声は威勢がよくても、日本の経済的実力を考えれば、「世界のてっぺん」と言い出すのは幼い。日本の「潜在成長率が1%(2024年度)」をどう引き上げるのか。

成長を求め、アベノミクス流の金融財政政策を続けることは、もはや限界にきています。せっかく、岸田政権、植田日銀総裁になって、アベノミクス、異次元緩和からの転換が始まったのに、それを押しとどめるのは愚かです。「日銀の利上げは早い」の発言もひどい。アベノミクスの負の遺産で傷んだ金融財政を正常化するには、2、30年はかかるという悲劇に目を向けてほしい。

「外交的配慮で英霊への追悼を(靖国参拝)を止めることはしない」も問題でした。靖国参拝問題では、A級戦犯(戦争指導者)を密かに合祀し、天皇陛下がその後、靖国参拝を取りやめた。一般兵士を追悼するのならともかく、戦争指導者、戦争犯罪人の合祀に、中国どころか、多くの国民が失望しました。「高市首相の参拝」の標榜は、右翼、保守派の票が欲しかったためです。

皇室問題でも、神話、伝説が入り混じった「男系男子、万世一系」を信じ切っているようです。そんなことにこだわるから、皇室維持が難しくなる。夫婦別姓でも、「旧姓で不動産登記ができる」と発言し、「いやできない」と、直ちに否定されました。法改正で「旧姓を併記できる」ようになっても、旧姓単独では登記できず、あくまで「併記」なのです。

とにかく、高市氏が総裁に選出されず、ほっとしたという議員、国民は多いでしょう。私もその一人です。そんな高市氏も石破氏に決選投票で肉薄したのです。議員票(石破189票、高市173票)、党員らの地方票(石破26票、高市21票)と、ほぼ二分されました。

米国でも、ハリス氏優勢が伝えられながらも、トランプ氏とは僅差の争いになっています。国家の二分は日本でも、格差拡大で進むのでしょう。石破氏の「金融課税の強化」は後退気味です。富裕層の金融所得は源泉分離でなく、総合課税にしたらよいのです。もっとも、富裕層の資金が海外に流出し、株価が下落したら、中間層もダメージを受ける。難しいところです。

石破氏はアベノミクスの修正・停止を明言しませんでした。総裁選を意識して、石破氏に限らず、多くが発言せず、高市氏が「金利に引き上げは早すぎる」と、大規模金融緩和の継続を求めました。他国は利下げに動いているのに、日本は周回遅れです。

石破氏は岸田首相のアベノミクスの修正路線を継承するようです。どこかの段階で、「中央銀行の独立が望ましい。為替対策(円安誘導)、財政ファイナンス(巨額の国債保有)の修正が必要だ」ともいってほしい。

政治資金の流れについては、監査する第三者機関が設立される方向です。これに合わせ、主要国のうち、日本だけにない財政独立機関も設けたらどうでしょうか。いい加減な財政再建目標への警告、中央銀行による国債保有の監視などに取り組んでほしい。

財政再建では、もっともカネがかかっている社会保障制度の改革が不可避です。今後15年で、50兆円の増加になる。現在、高齢者層がカネを食っています。医療保険負担などは現役世代と同率にする必要があります。石破氏はその設計に取り掛かっってほしい。

各新聞の社説では、派閥解消の影響に触れています。「旧派閥の枠組みにとらわれず、適材適所の人事を貫けるかが、派閥なき後の党運営の試金石になる」(朝日新聞)。そうでしょう。一方、「麻生派は高市氏にまとまって投票するよう呼びかけるなど、派閥が一定の存在感を示した」(読売新聞)。

読売のこの箇所は気になります。「派閥が一定の存在感を示した」は派閥の存在に対し、肯定的ともとれる表現です。政策をともに研究、検討する政策集団は必要です。これまでの派閥はカネ集めや、議員数の力で政治力(ポストの配分)を行使する存在でした。

それが裏金問題を引き起こしました。従来型の派閥は解消しても、政策集団は存在すべきでしょう。読売にはそこを十分、考察してほしかった。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年9月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。