第三次世界大戦の予兆
日本を含め、各国は財政・経済の健全性を考えるどころではない戦時体制優先の時代に入ってしまったようです。ある統計によると、世界の紛争件数は23年が59件で、戦後最多になったそうです。トランプ氏が米大統領に勝利し、世界情勢はますますその危険度を増していくでしょう。
米国は世界最大の民主主義国でありながら、トランプ氏の政治手法は権威主義(権力を元首、政党が独占して統治する政治体制)に相当するとみられています。民主主義国家を離れ、それと独裁国家の中間の権威主義国家に米国は流れていく。多国間協議の枠組みも嫌い、2国間の交渉(ディール)で圧力をかけてくる。「トランプ独裁」の時代が来そうです。
日本政治では、キャスティング・ボートの握った国民民主党に、少数与党の自公政権は振り回わされ、「103万円の壁」(所得税が課税)とか「106万円の壁」(社会保険料の支払い義務)で大揺れです。どう見直すかは必要であるにしても、劇的に変わり始めている世界情勢をどのように生き抜いていくかの議論が国会から全く聞こえてきません。
時々、意見を拝聴している日銀OBとの懇談が先日ありました。いつもは緻密な経済分析から始まるのに、先日は真っ先に「世界の政治・安全保障環境は、第2次世界大戦以降、最大の危機に直面している」との指摘を聞かされました。「経済、金融財政政策のことを考えていても虚しい」というのです。
すでに仏学者のエマニュエル・トッド氏は「第3次世界大戦がはじまっている」の書著を書いています。米大統領にトランプ氏が就任することになり、その過激な思想、戦略、閣僚人事を思うと、「政治・安全保障関係の戦後最大の危機」が現実味を増してくる。
そう思っていましたら、ロシアがウクライナを大陸間弾道ミサイル(ICBM)で攻撃したとの情報が21日に流されました。核弾頭を搭載し、米本土を攻撃できる長距離ミサイルです。まだ脅しに使っている段階であるにせよ、ロシアがウクライナ戦争で核兵器をどこかで使ってくる可能性はあります。
その直前の19日には、プーチン政権が改定した「核抑止抑止力の国家政策指針」(核ドクトリン)は、核攻撃に踏み切る要件を緩和し、「ウクライナのような場合、核保有国の参加や支援を受けた場合、共同攻撃とみなす」などとしています。
そんな国際情勢の緊迫化の中で、2024年、英国、フランス、日本、米国などの多くの国で、政権党は敗北しました。欧州では、極右、極左を含む過激政党が台頭しています。トランプ政権が「アジアの問題はアジアで責任を持て」などといいだしかねず、そうしたら日本国内の政治論争も様変わりするに違いない。
台風の目になりかねないトランプ氏が、経済的にどこまでもつかを考えることはまた、別の話です。先の日銀OBは「現在、米国は株式市場を中心に、トランプ・ユーフォリア的な楽観論が高まっている。先行きについては、来年の夏には転機(曲がり角)に来ていると思う」との予想です。
トランプ氏の経済政策は拡張的な財政政策を進め、「インフレ、バブル、低金利」が基本になっています。それによって「景気の一段の加速と物価の大幅上昇、資産バブルの崩壊というリスクを抱え込む。そのうちに長期金利が上昇し、株価、商業用不動産価格バブルが崩壊する」というのです。
もっとも国内経済が悪化すると、対外的な強硬政策をどんどん打って行く。そうした可能性はあります。経済的な立場が弱くなればなるほど、さらに対外的に強くでてくるのでしょう。政治家は危機を好み、危機になると、権力を振るえるチャンスがきたと考える。
日本に目を向けると、金融政策について、いつ金利引き上げがあるのかが注目されています。今もって「物価上昇率が安定的に2%を持続」が目標になっています。私はもう、2%目標などは放棄すればいいと思います。そうなったところで、国民生活、経済が快適になるわけではない。各国の経済情勢、レベルがまちまちなのに、一律に2%という目標を持ち続ける意義が分かりません。
インフレ率がとっくに2%を超しているのに、いまだに日銀は動こうといません。起きているのは、国民に対するインフレ税の状態になっていることです。円安によって、名目GDPが上昇し、その分、税金がふえている。政府はそれを歓迎しています。税率を上げなくても、税が増収になからです。
政府債務残高の名目GDP比は、24年が251%、25年が248%の見込みです。財政赤字は改善したようにみえても、円安などによる物価上昇の結果です。物価上昇の負担は国民がかぶります。国民民主や他の野党はなぜ、「103万円の壁」などにこだわり、インフレ税という増税が行われていることに目を向けないのか。
今後はどうなるでしょうか。米国経済は再びインフレに向うでしょう。トランプという「政治的要因」からくる財政膨張、国際情勢の緊迫化、関税引き上げ、国防費の増加、グローバリゼーションの縮小など、物価を押し上げる要因が並んでいます。その影響を日本も受けるでしょう。
世界は国際情勢の緊迫化とともに物価高、インフレに向う。「経済どころではない時代」ですから、中央銀行が利上げしようにも、政治的な抵抗を受けることになります。日本は国内事情に合わせて金利政策を考えるという習性から抜け出せません。国際的な物価高の再燃は、日本の事情などお構いなしにやってくる。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年11月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。