EUの取り組みの崩壊も予想せざるを得ない欧州の苦悩

各国が連携、連帯するのは世のはやりとも言ってよいのですが、その連携にも緩いものからきつい縛りのものまでさまざまあります。そして連帯の本家本元といえばEUが真っ先に上がります。

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長い歴史を経て現在のEUという組織ができましたが、これは縛りが最も厳しい部類だろうと思います。1993年のマーストリヒト条約で加盟各国の財政赤字がGDP比3%以内で債務残高をGDP比60%以内に抑えることとなっています。日本が欧州にあれば債務残高が理由で加盟できないことになります。なぜそこまで縛ったかといえばユーロという通貨を発行するためです。

この厳しい財政規律適用はコロナの時期は各国の個別対策のために一時停止していたのですが、今年からその厳しい財政規律は復活しています。当然、未達の国も出てくるし、各国のポリシーはEU加盟維持のための目標と国内政権維持という一種のダブルスタンダード的な状況が起こりえます。

もちろん、縛り上げることでよいこともあります。かつてギリシャが危機に陥った時、財政規律派の盟主、ドイツがメルケル氏主導のもとその危機を乗り切ったこともあります。ただ個人的に欧州全般を見て思うのはEUができてからイノベーティブではなくなってきたな、という感じがするのです。

「発明や発見、改革や良きアイディアは危機から生まれる」という前提に立てば欧州の状況はEUという甘えに近い保険が機能することで荒波にもまれる状況からは程遠くなり、国民が権利を主張し、政権はポピュリズムに走りやすくなったと思います。

それに追い打ちをかけたのがウクライナ問題でした。ここに来てフランスと英国が派兵、参戦するのではないか、と一部で報じらていますが、これはまだ初期検討段階で確定報ではありません。マクロン氏は乗り気のようですが、英国のスターマー首相はそこまで踏み込んではいません。マクロン氏がスターマー氏に11月に会った際、声をかけ、相談をしたという程度です。

マクロン氏が焦っているのはトランプ氏が就任すればウクライナ支援のプラグを引っこ抜くだろう、そうすればウクライナの劣勢はより鮮明になり、NATOへの実質的な影響は更に大きくなるだろうからその前に手を打っておきたいというものです。

もちろん、これはバイデン氏が長距離砲によるロシア向け攻撃を容認したことと重なっています。ただ、プーチン氏は参戦する国には容赦しないという姿勢を明白にしていることから、それこそ第三次世界大戦のリスクが出てしまうわけです。それ以上に欧州がアメリカと敵対的な政策を進めることで欧米の関係が不安定になることがより懸念されるのです。

トランプ氏はNATOにどれだけ興味があるのかといえば「欧州は十分な拠出金を出していないじゃないか?出さないならアメリカは拠出を留保する」ぐらいは平気でやってのけるでしょう。その時、マクロン氏に「いや、まぁ、トランプさん、そう言わずに…」という揉み手の技ができるとは思えないのです。

そのフランスはマクロン氏が昨年暴挙に出た総選挙策が失敗し、国内政治がガタガタになり、ようやくスタートしたバルニエ首相を中心とする政権も崩壊寸前です。10月に示された25年度予算案に対して少数与党が議会承認を得るために野党に譲歩をしたものの極右のルペン氏を満足させられず、左派も同調し、内閣が今日にも採決なしの議会突破をします。それを受け野党は内閣不信任案を提出、可決されるため、フランスは近年まれに見る政治危機に陥るのです。

為替市場を見るとユーロ独歩安になりつつあります。理由はフランス、ドイツが不安定でEUの長期的取り組み、更にはNATOのあり方を含め、読みづらくなっているからでしょう。

ドイツにしてもトランプ関税には戦々恐々としています。アメリカがEUに対しても10%の関税をかければ輸出大国ドイツが無傷ではいられないというものです。そもそもシュルツ政権がほぼ崩壊し、国内のリーダーシップもない中、ドイツ経済はこの2年間ほぼフラット、つまり成長していないのであります。

その理由はいくつもあるのですが、私がこれかな、と思うのがドイツ人の財政規律への自らの縛りが強すぎ、国内投資が滞ったことで自虐的状況にあるとみています。ドイツとしてはEU財政の盟主として自らを律せずして他人にどう強要できようか、という発想があるはずで、結局、ドイツ自身がEU故にフレキシビリティをなくしてしまっているのです。

ドイツ国内ではVWのストライキが過激になり、経営側と組合側の対立は半端ではなくなってきました。またオランダに本部を持つ世界第4位の自動車メーカー、ステランティスは販売不振で遂にCEOが辞任しました。同社組合は「当然!」という姿勢を示し、自動車メーカーにおける労使の先鋭な対立関係も欧州問題の一端を担っています。

こう見るとEUという縛りが様々な足かせになっている公算はあり、これが構造的問題だとすればいつかはEUの取り組みは崩壊せざるを得ない気もします。もちろんそれは目先の話ではなく、欧州がいよいよ苦境から脱せず、EUの規律が形骸化した時でしょう。その時点で市場は欧州を見限るということです。

実に残念ですが、これが私がみる欧州であり、一枚岩でどこまで留まれるのか、疑問符をつけざるを得ないところです。英国でEU復帰論もありますが、止めたほうがいいと思います。EUは加盟国は膨張するもその制度的矛盾を隠せなくなっているのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年12月3日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。