再生可能エネルギーとして、これまで太陽光や風力に注目が集まってきましたが、にわかに地熱に注目が集まっています。
資源エネルギー庁は「地熱フロンティアプロジェクト」を立ち上げ、1970年代に実施された「サンシャインプロジェクト」以来、半世紀の時を経て地熱エネルギーの分野が活性化しています。本日は「なぜ地熱なのか」について書きたいと思います。
これまで地熱エネルギーは、2030年を目標に開発が進められてきました。しかし、地熱発電の割合は総発電量のわずか1%という控えめな目標が設定されているにもかかわらず、その達成が困難な状況に陥っています。
現在、第7次エネルギー基本計画の策定が進められる中で、地熱エネルギーの割合を引き上げる流れになっています。いよいよ地熱フロンティアプロジェクトが本格的に動き出します。
地熱発電の魅力
なぜこれまで地熱エネルギーが十分に活用されてこなかったのか。その理由を整理する前に、まず日本の地熱エネルギーの潜在能力について説明します。
日本には約2,347万キロワットもの潜在能力があり、これはアメリカ、インドネシアに次ぐ世界第3位の規模です。
地熱エネルギーには、いくつかの利点があります。まず、昼夜を問わず安定的に発電できる「ベースロード電源」としての性質を有しています。太陽光発電や風力発電が天候条件に大きく左右されるのに対し、地熱発電は化石燃料に近い安定性があります。この安定性は、自動車産業や鉄鋼業など、電力を多く必要とする製造業を有する日本にとって大きなメリットです。
また、太陽光発電には使用済みパネルの廃棄といった課題がありますが、地熱エネルギーにはこうした問題がありません。さらに、地熱発電は非常に長寿命です。
私自身、東日本大震災後に九州の八丁原地熱発電所を訪問したことがあります。この発電所は九州電力が運営しており、すでに減価償却を終えた上で、低コストで安定的に発電を続けています。この長寿命という特性は、地熱発電の大きな利点の1つです。
地熱エネルギーの最大の特長は、すべて国産でまかなえる点です。日本はもともとタービンなどの製造技術に強みを持っており、地熱発電の設備をすべて国内で生産することが可能です。一方で、太陽光パネルは現在ほとんどが輸入品であり、国産化が進んでいません。
このように、国産であるという地熱エネルギーの強みは、日本にとって非常に大きな価値を有しています。
地熱はなぜ普及しなかったのか?
地熱発電がこれまで普及しなかった理由の1つに、民間企業にとって非常に高いリスクがある点が挙げられます。地熱資源がありそうな場所を調査し、試掘を経て発電が可能になるまでには、少なくとも10年かかると言われています。そのうえ、調査の結果、期待通りの熱源が見つからない場合も多く、この不確実性が大きな障害となっていました。
今回の「地熱フロンティアプロジェクト」では、独立行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)」が民間企業に代わり資源調査や試掘を行う仕組みを導入しました。これにより、地熱発電として利用可能になった段階で、そのプロジェクトを民間企業に引き渡す形を取ります。
この枠組みによって、民間企業が負うリスクを大幅に軽減することが可能となりました。この取り組みは、超党派議員勉強会「マグマプロジェクト」の一環として我々が提案したもので、「国が前面に出るべきだ」との主張が実を結びました。
さらに、地熱発電の普及には、多くのプレイヤーとの合意形成が必要です。例えば、国立公園内で開発を行う場合、環境省の許可が必要です。私が環境大臣を務めていた際も、地熱発電を国立公園内で開発できるよう政策転換を図りましたが、環境保護の観点から調整には時間を要しました。
また、地熱発電所は温泉地に近い場所に設置されることが多いため、温泉業界から反対の声が上がることもあります。地熱発電と温泉は基本的に異なる地層を利用するため影響は少ないと考えられていますが、不安を払拭するためには業界との対話が必要です。
加えて、国有林で開発を行う場合、「林地開発許可」を林野庁から取得する必要があり、これが民間事業者にとって大きな負担となっていました。
しかし、「地熱フロンティアプロジェクト」によって、政府が許認可を一括処理する枠組みが整備され、事業者の負担が大幅に軽減される見通しです。
残された課題としては、地熱発電の権利を法律で明確に定める必要があると考えています。具体的には「地熱法」を制定し、民間事業者が安定的かつ積極的に開発を進められるよう、法的な基盤を整えたいと思っています。実現すれば、地熱発電のさらなる普及が可能になると確信しています。
次世代地熱への期待
米国では「クローズドループ」と呼ばれる技術が実用化に向けて進展しています。この技術は、地中に管を設置して流体を注入し、その流体を地熱で温めて循環させる方式です。これにより、従来の地熱発電では開発が難しかった地域でも発電が可能となります。この技術の確立は、地熱発電の適用範囲をさらに広げると期待されています。
また、小説『マグマ』を執筆した作家・真山仁氏が有望視してきた「超臨界地熱発電」の技術も、一時は停滞していましたが、再び注目を集めています。これらの次世代地熱についても、政府は全面的に支援すべきです。
現在、日本国内でAIやビッグデータ、半導体産業を発展させるためには、膨大かつ安定した電力供給が必要です。震災以降、日本は電力消費を抑える方向に舵を取ってきましたが、今後は最先端技術を支えるための安定的な電力供給を確保しなければなりません。そのためには、地熱発電だけでなく、さまざまな再生可能エネルギー、原子力発電、さらには化石燃料をCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)技術で補完することも重要です。
私が地熱発電を推進する最大の動機は、安定した電力供給が日本経済の豊かさに直結するからです。子どもたちの未来に豊かで持続可能な日本を残すために、今を生きる政治家として、できる限りの努力を続けていきたいと考えています。
編集部より:この記事は、衆議院議員の細野豪志氏(自民党・静岡5区)のブログ 2024年12月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は細野豪志オフィシャルブログをご覧ください。