三菱銀の貸金庫事件で連想する日銀は政府の貸金庫

Robert Way/iStock

巨額の国債が詰まっている

三菱UFJ銀行で行員が4年半にわたって、貸金貨から顧客の現金や貴金属を盗んでいた事件が起きました。被害総額は時価10数億円だそうです。60人分の資産で、減っていることに気づいた顧客の問い合わせで発覚しました。まあ、盗まれていることに気が付かない富裕な利用客が大勢いるのに驚きます。

その後、続報らしい続報がないところをみると、被害額の確定、証拠固め、法的な解釈などに手間取っているのでしょう。貸金庫には銀行が損害保険をかけているにしても、貸金庫の管理責任を担っていた行員の犯行ですから、頭取以下10数人のトップらに1人平均1億円、計10数億円を弁償させたいくらいのとぼけた事件です。よくある「役員賞与30%を6か月、返済」などという甘いものでは済まない。

現金は預からないということになっていても、同行の貸金庫規定は「①公社債、株券、契約書類、権利書類など②貴金属、宝石、手形、小切手、それらに準じるもの③預金通帳、印鑑など」を預かることになっているそうです。貴金属などは、購入した際の領収書を提出してもらえば、証拠になる。公社債、株券も取引を示す書類があるはずだし、まあ犯人はこれら盗むことはないでしょう。

問題は現金です。現金は原則は預からないことになっているにしても、貸金庫規定には「現金は預からない」と明記していないので、銀行側に弁償責任があるという専門家もいます。現金の保管場所にすることに利用者が魅力を感じ、貸金庫を使う人が多いに違いないし、銀行側は見逃していたのかもしれない。

通常は、貸金庫の中身を銀行がチェックすることをしないから、いくら保管されていたのかも分からない。「5億円、保管していたから、5億円を弁済せよ」という利用客がいたとしましょう。貸金庫が一般的なサイズなら1億円でも無理だから、虚偽の申告と分かるにしても、被害額の確定は簡単ではない。

60人分の弁済処理が済んだとしても、被害に気が付いていない顧客が他にもいるでしょう。全支店の貸金庫をチェックしてみる必要がある。金融庁はそういう指示をだすでしょう。指示は全金融機関に及ぶかもしれません。とにかくとてつもなく、厄介な窃盗、盗難事件です。

ふと思ったのは、「日銀こそ政府・財務省の貸金庫化しているのではないのか」という死角です。三菱UFJの貸金庫事件は「利用客に貸すための貸金庫」です。「貸金庫化している日銀」というのは、日銀が政府・財務省の貸す資金を用意する金庫のような存在になっている」との意味です。

「現金の保管場所としての貸金庫」(金融機関)と、「資金(財政資金)を政府に貸すために用意しておくための金庫」(日銀)です。財務省は財政資金を調達するため、国債を発行すると、日銀が短時日でこれを流通市場から購入(残高は590兆円)し、その分が市場に資金供給されます。日銀は円資金をいくらでも、市場に供給できます。そのほかETF(上場投資信託)など70兆円(時価)を購入しています。

アベノミクスの主軸であった異次元金融緩和(2013年から)で、マネタリーベース(通貨供給量)は2024年には700兆円近くに急増しました。植田新総裁になって(2023年)から、異次元金融緩和の修正に着手したものの、そんなテンポではあまりにも遅い。

物価の安定、決済機能の保全、信用秩序の維持などが日銀の役割であるとしても、異次元緩和策が導入されてからの日銀は政府・財務省の「貸金庫」に変身してしまったのです。日銀の「貸金庫」には、600兆円の国債、70兆円のETFなどが資金供給の見返り(担保みたいなもの)として、うず高く保管されている。

消費者物価は日銀目標の2%を超えて1年以上になるのに、「賃金と物価上昇の好循環」を確認するにはまだ時間がかかるとかいって、利上げには尻込みしています。12月にも次の利上げがあると予想されていたのに、1月以降になりそうです。インフレ状態だと、税収が増えるので財政当局は歓迎するのです。

物価は当初の目標を達成しているのに、なんだかんだと理屈をつけて、利上げに尻込みをしています。その間、GDPはドイツに抜かれて世界第4位に転落し、1人当たりのGDPはOECDの最下位まで落ちています。円安で購買力平価でみた円のレベルは1970年前の1㌦=360円レベルとの試算もあります。三菱UFJ銀の貸金庫事件より、こちらもほうが重大な問題です。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年12月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。