今年1月のエチオピアとソマリランドの間の協定成立以降、深刻な対立を見せていたエチオピアとソマリア連邦政府が、交渉を通じた解決を目指す合意を成立させた。来年2月からさらに具体的な協議を両国間で行っていくという。
トルコによる調停の結果だ。合意成立は、調停者エルドアン大統領の姿とともに、アンカラで発表された。
折しもシリアでトルコが支援してきた勢力が、アサド政権を倒して首都ダマスカスを制圧したばかりのところである。中東から東アフリカにかけて、トルコの存在感が一気に高まった印象である。
これは偶然ではない。トルコは、エチオピアとソマリアの間の調停に意欲を見せて、何カ月も前から取り組んできていた。トルコは、ソマリランドと一定の良好な関係を持ちながら、ソマリアの領土の一体性の維持を支持する立ち位置を取っている。従来からリビアのような地中海沿岸のアフリカの国に深く関与してきているが、近年は紅海沿岸にも権益を広げる動きを見せてきていた。
今回の調停の成功で、トルコの地中海から紅海にかけての地域における存在感はさらに増大した。ジブチに基地を持ち、「自由で開かれたインド太平洋」を掲げる日本にとっても、いよいよトルコの影響力が、自国の関心対象地域に及んできたということになる。
私は11月にソマリアで聞き取り調査を行ったが、ソマリア連邦政府関係者やエチオピア政府関係者は、相互に譲歩はできないものの、両国の関係改善の道は残されているニュアンスをずっと醸し出していた。まずもってソマリアにおけるエチオピアの存在が大きい。エチオピアがソマリアから撤退した場合、アルシャバブ掃討作戦にも大きな影響が及ぶことが懸念されていた。
今回の合意では、エチオピアがソマリアの領土的一体性の保全を侵害しないことを約束する代わりに、ソマリア連邦政府がエチオピアの海洋へのアクセスの確保について保証をすることが謳われた。両国が核心的利益で妥協をしない形をとりながら、歩み寄った形だ。
エチオピアとソマリアの関係悪化とその余波については、私は何度か書いてきた。
とりあえず最悪の事態が回避されたことは、歓迎してよいだろう。ただし今後、ソマリランドがどのような反応を見せるのか、ソマリア駐留のアフリカ連合ミッションへの影響はどうなるのか、エジプトはどのような姿勢をとるのか、などは、引き続き注意を払っていかなければならない点だ。
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