「サラリーマンは搾取」という意見を聞いてはいけない

黒坂岳央です。

SNSなどでよく見るものに「サラリーマンは経営者、資本家の奴隷でしかない」という否定的な意見だ。こうした意見に「そうだそうだ!」と賛同する声や、「本当はやめて悠々自適な生活をしたいけど、自分は脱サラして独立する力もないのでできるだけサボって抵抗してやる」みたいな声もよく見る。

結論的にこうした意見を聞くと損をするのは、何より仕事をするサラリーマン自身だと感じる。

筆者のこの意見を聞くと「お前は独立して彼らを利用する立場でポジショントークだ」と感じられるかもしれないが、自分が言いたいのはそういう表面的な話ではない。そしてサラリーマンに何かを誘導するインセンティブを持つビジネスもやっていない。これはただの主張である。

仮にタイムマシンがあれば、サラリーマンをやっていた時期の自分に同じ話をするだろうし、自分の子供にもサラリーマンという立場に否定的なことは絶対に言わない。そう思う理由を取り上げたい。

west/iStock

仕事を頑張って得をするのは「自分」

自分がサラリーマンで働いている時、眼の前の仕事は自分のキャリアアップのため、という気持ちで真剣に取り組んでいた。

「サラリーマンは経営者に利用されている」という意見があることは当時から知識として知っていたが、「そんなことはどうでもいい」と思っていた。その理由は「仕事は自分のためにするもの」と考えていたからだ。そしてその考えは今も変わらない。

確かに自分が会社のために頑張れば得をするのは経営者や株主だが、自分自身も確実に得をする。つまりwin-win-winの関係だ。実際、自分は仕事を頑張って複数回転職をして、年収アップを実現してきた。

こうした話をすると「R>Gの数式」を持ち出して「サラリーマンがいくら頑張っても、労働収入は投資収益を超えられない」などと理屈で反論したくなる人がいるだろう。しかし、サラリーマンで働く以上はビジネススキルを高めれば確実に市場価値が高くなり、リターンとして返ってくる事実がある。所得を増やして、余剰資金を投資に回せばRとGの両取りができるのだ。

以上のことから、「仕事を頑張るより、サボる方がコスパがいい」といった意見に自分は全く賛同できないのだ。

「経営者や株主を喜ばせるために働くのはバカらしいから手を抜け」というのは、ひねくれ者で心が歪んでしまった人の意見に聞こえる。別に彼らが喜んでも自分は損をしないし、むしろ上司に認められればよりハイスキルの仕事を任されるので手を抜くより頑張った方がどう考えても得である。力をつけて自分が経営者やフリーランスになったり、投資家になればいい。だが、腐って何も努力をせず、その結果、ビジネススキルや実績がなければ何も始まらない。

サラリーマンを辞める人の動機

そして自分を含め、サラリーマンをやめて独立するような人は「搾取されるのが嫌だから」ではなく「自分のやりたいことが独立しないとできないから」という理由の方が圧倒的に多いだろうと考えている。

これには意識調査の統計データなどが存在しないので肌感覚でしかないが、少なくとも自分の周囲の経営者、フリーランス、投資家の中には「自分やりたい仕事に集中したいから起業した」とか「投資が好きで好きでたまらないから、1日中相場にピッタリ張り付きたいから」という動機の持ち主とばかりと接してきた。

自分がサラリーマンをやめる時、「搾取されるのが嫌でやめた!」という被害者意識はまったくなかった。むしろ、会社ではあまり貢献できないことも多かったのに、それでも周囲は優しくしてくれて、自分に安定的に給与を支払ってくれてたくさんのスキルや経験を積ませてくれた。本当にありがとう!という気持ちである。今もそれは同じだ。

サラリーマン時代に身に着けた仕事の進め方とか、ビジネスコミュニケーションスキルは独立した今もすごく役に立っている。

仮に自分が「自分は搾取されている気の毒な存在なのだ」と思い違いをさせられたら、それは不幸でしかないだろうと思う。日々の仕事にやる気を失い、スキルアップをして転職をしてより良い仕事を見つけ、ドンドン上を目指したいという考えをへし折られていただろう。かといってそれを聞いて独立できるわけでもない。メリットは皆無である。故に話を聞くべきでないと思うのだ。

そして搾取されていると感じたからといって、人間は独立するエネルギーにはできない。なぜなら独立直後に待っているのは大抵の場合、サラリーマン時代には絶対にない、ハードワークと経済的不安定な世界だからだ。

「一度しかない人生を丸ごとベットしてやりたい!」というものがない人にはまったくおすすめできない世界だ。

あまり考えられないが、仮に「搾取されるのが嫌だから独立」という人がいて独立したなら、今度は「自分は取引先や顧客に不当に搾取されている!」という別の被害者感情を持つだけである。「仕事は自分のためにやっている」という、健全で当たり前な考え方の方が仕事も前向きでできるはずだ。被害者意識はテイカー思考そのものであり、テイカー思考のままでは仕事も人間関係もうまくいかないことが多くなるだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。