新成人と成人式の課題:18歳成人時代、この国の未来を考える

要点まとめ

成人年齢が18歳に引き下げられたことで、18歳・19歳の若者が新成人となる社会が始まった。しかし、成人式が20歳を対象とする現状や自治体の前例踏襲により、18歳成人の理念が十分に活かされていない。また、被選挙権年齢の引き下げも含め、若者の社会参画を本格的に促す仕組みづくりが必要である。

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アスリートや芸能界など新成人は幼い頃から大活躍してきた

今年も成人の日を迎えた。

新成人の皆さん、本当におめでとうございます。

今年新成人となった18歳の世代の著名人と言えば、女優の當真あみさん、パリオリンピック銀メダリストの高飛び込みの玉井陸斗さんとスポーツクライミングの安楽宙斗さん、400m個人メドレー6位の成田実生さん、サッカーで出場したフェイエノールト(オランダ)所属の古賀塔子さん、女優の渡邉このみさん、鈴木夢さん、乃木坂46の冨里奈央さん、AKB48の徳永羚海さん、坂川陽香さん、SKE48の平野百菜さん、紅白にも出場したME:Iの村上璃杏さん、山本すずさん、海老原鼓さんもこの世代だ。

若い著名人については疎いので、「この人も入れた方がいい」などあれば、ぜひアドバイスをいただきたい。

一方で、メディアで「新成人」の世代代表として取り上げられている代表格は、芦田愛菜さんと鈴木福さん(20歳)だ。ドラマ「マルモのおきて」が放送された2011年から14年が経った。当時の子役としてブレイクしていた本田望結さん、谷花音さん、小林星蘭さん、鈴木梨央さん(20歳)などが、一気に今年、20歳となった。他にもNiziUのMIIHIさんとNINAさん(20歳)、ME:Iの飯田栞月さん、石井 蘭さん(20歳)なども新成人として紹介されていた。個人的には娘の知り合いなどもいて親近感のある世代ではある。

ただ一体、何歳が「新成人」なのかを整理しておきたい。

新成人は久しぶりに前年増となり109万人に

2022年4月1日、「18歳成人」とする民法の一部を改正する法律が施行された。

総務省が昨年末12月31日に「新成人」の人口を公開しているが、そこで示されている「新成人」は、もちろん「18歳」となる世代を示しており、2024年1月から12月に新たに成人に達した人口(2025年1月1日現在の18歳の人口)としている。

この1年間に新たに成人に達した人口は昨年から増加し109万人となった。人口は減少傾向になっていることから、当然、「新成人」の人口も減少傾向にある中で、久しぶりの前年より増加となった。

2022年の成人の日に、「最後の20歳成人の成人式。世界から遅れる日本は若者が活躍できる18歳成人時代の構築を」と題してコラムを、翌2023年の成人の日には、「新成人は341万人で過去最多!18歳成人で初の成人の日。若者の声を聞ける国になれるか」と題してコラムを書いた。

指摘したのは、「新成人のいない成人式」になることについてだ。

なぜ18歳成人になり、20歳だけの成人式が全国で行われるのか

筆者の地元、市川市でも「二十歳の集い(成人式)」なるものが成人の日の前日1月12日に実施された。

市川市の公式サイトを見ると、民法の改正に伴い、2022年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられたが、市川市では、2022年度以降の成人式についても、現行どおり20歳を対象に開催することが説明されている。

こうした18歳成人になったにもかかわらず、実質的な成人式が20歳を対象として実施された事例は、市川市に限ったことではなく、全国に1,741市区町村がある中、ほとんどの自治体で同様に20歳を対象にして実施されている。

つまり、「新成人が1人も出ない成人式」が全国中で実施されることになったのだが、皆さんは、このことに違和感は感じないのだろうか?

「新成人が1人も出ない成人式」が全国中で行われる理由とは

市川市教育委員会による20歳を対象とする理由を見ると、以下のようにされている。

  • 18歳を対象とした場合、受験や就職準備の時期と重なり、式典に参加できない方が増えることが懸念される。
  • また、同様の理由で、新成人を中心とした実行委員による式典の企画運営が困難となるため。

非常にお粗末な理由だとは思うが、それぞれの理由について考えてみる。

まず、1つ目の理由についてだが、成人式については、成人の日に行うことが一般的ではあるが、地域によっては、夏休みなどの帰省時期に合わせて実施されるような地域もある。

市川市の理由は、18歳を対象に成人式を行ったとしても、成人の日に合わせて実施することが前提に「できない理由」が示されているだけであり、できないので「新成人」でない世代を対象に行おうというのは、むしろ「これまで行ってきた成人式を継続することが、どうすれば正当化できるか」という後付けの理由に過ぎない。

ちなみに冒頭に書いたように、今年の市川市の「二十歳の集い(成人式)」は1月12日に実施されており、そもそも成人の日に行われていなかったりする。

後半の実行委員会の議論も的はずれである。なぜこれまで教育委員会が実施してきた実行委員会形式をこれまでと同様のスケジュールで実施することを前提とすることしか考えないのだろうか。

行政は本来、それぞれの政策・施策・事務事業の全てに政策目的があり、その目的に合わせて、それぞれをより政策目的が果たされる形で検討・実施されていかなければならない。しかし一方で、多くの自治体では、こうした政策形成が殆どできず、前例主義で昨年やったことを今年も同じようにと物事を考えようともせずに継続したりするものだが、そうした悪い意味での「お役所仕事」の象徴的な「できない理由」の羅列でしかない。

誰のための「成人の日」と、「成人式」なのだろうか

ここで念の為に言っておくが、私個人として、「新成人」を祝う気がないということではなく、個人的に振り袖を着ないでもいいのではないかと言っているわけでもない。これまでもその時代の若者の声を国や地域が取り入れていくべきだとし、その最前線で若者参画を求め続けてきた。むしろ今年も今後も、この国や地域のために、その未来を担う「新成人」をしっかりと祝い、むしろ祝うだけではない価値あるものにするべきだと思っている。

我が家でも数年前に長女が20歳で成人を迎え、振り袖を着せて写真撮影なども行った。昨年は次女が18歳で成人を迎えた。親として、どのタイミングで振り袖を着せたいや、成人をこのタイミングで祝いたいは、それぞれに考えがあることだと思う。

ただ、そのことと、行政が市民の税金でイベントを実施するということでは、意味が大きく異る。税金を使って実施するからには、政策目的と効果を明確に説明する責任があるからだ。

ちなみに市川市の公式サイトでは、「成人(大人)になるあなたへ」として、「成人の日」や「成人式」についての説明が書かれている。

「成人の日」は、1948年に制定された「国民の祝日に関する法律」に、「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます日」と規定されています。年の始まりとともに、全国各地で「成人式」が執り行われ、新成人の門出が祝われています。かつての「元服の儀」が正月に最も多く行われていたことや、松の内の日を選んで、当初1月15日に定められましたが、1998年の法改正により、一月の第二月曜日に改められました。この「成人式」は、終戦直後、多くの人が心に傷を負うなかで、未来を担う若者たちに希望を持ってもらうために埼玉県蕨町(現在の蕨市)で企画された「青年祭」が由来であるとされています。市川市では、「新成人の門出を祝い、大人の自覚を促す」という趣旨のもと、昭和31年より成人式「新成人の集い」を開催しています。

とされている。

このどれを読んでも成人の日は新成人を祝うものであり、それ以外の成人を祝うとすることの説明はまったく成り立たない。

憤りを感じるのは大きく3つの点

個人的に、今回の問題で憤りを感じているのは大きく3つだ。

最も重要だと思う1つ目は、18歳選挙権から18歳成人まで、自分たちは15年から20年かけて、この国の未来を大きく変えていこうと働きかけてきた。この背景には、未来を担う若者たちが活躍できる社会にしていこうと、世界では多くの国が18歳から成人として選挙権も与えており、日本においても世界標準になることを目指した。

一方で、現状のあたかも「20歳が新成人であるかのような自治体の扱いやメディアの発信」は、同時に、ようやく成人となり選挙権が与えられた「18歳や19歳が成人ではない」という誤った印象を拡大し、法の趣旨であった「18歳,19歳の若者の自己決定権を尊重するものであり,その積極的な社会参加を促すこと」を否定することになりかねない点だ。

2つ目は、民法等の改正による一連の18歳成人により社会の仕組みは大きく変わった。法令改正や施行までの期間で官民で検討して準備してきたことではあるが、消費者問題など様々な問題が発生しないかと懸念する方などもいる状況である。

成人(大人)になるあなたへ」と題した市川市の公式サイトでも、消費者庁や千葉県、消費者センター、銀行、国民生活センターなどからの注意冊子が添付されている。

こうしたことから考えれば、むしろ注意を伝えたり啓発しなければならないのは、従来通りの20歳の方々ではなく、むしろ制度改正によって影響の出る18歳と19歳なのではないだろうか。にも関わらず、後付けのように平気な顔で20歳の式典で情報共有することで、新たに成人となった18歳や19歳に対して全く働きかけを行わないことを正当化している点だ。

3つ目が、EBPM(Evidence Based Policy Making =証拠に基づく政策立案)の必要性などが求められる時代において、これからの行政は、アウトカム(政策の成果・目的)に基づいての実施が大前提になり、これまで実施してきた政策・施策・事務事業についても、その必要性と効果によって見直していく必要性があるにもかかわらず、この転換期に自らの役割と考えることを放棄し、「できない理由」だけをならべ、「赤信号みんなで渡れば怖くない」と護送船団方式で前例踏襲を決め、意味のない政策を全国で今後継続して実施することを決めたことだ。

「18歳,19歳の若者の自己決定権を尊重するものであり、その積極的な社会参加を促すこと」はどこへ・・・

民法の改正に伴い、成年年齢を18歳に引き下げた理由について、法務省では、

「近年、憲法改正国民投票の投票権年齢や、公職選挙法の選挙権年齢などが18歳と定められ、国政上の重要な事項の判断に関して、18歳、19歳の方を大人として扱うという政策が進められてきました。こうした政策を踏まえ、市民生活に関する基本法である民法においても、18歳以上の人を大人として取り扱うのが適当ではないかという議論がされるようになりました。世界的にも、成年年齢を18歳とするのが主流です。成年年齢を18歳に引き下げることは、18歳、19歳の若者の自己決定権を尊重するものであり、その積極的な社会参加を促すことになると考えられます。」

と書かれている。

各自治体は今一度、何のために成人年齢を18歳としたのか、成人の日とは何のための日だったのか、成人式は何のために実施されていたのかという視点に立って、何をどうすべきかを考える必要があるのではないだろうか。

「18歳成人」については、2018年に書いた『法案成立で2022年から「18歳成人」は何を変えるか』なども参考にしてもらえればと思う。

2015年に選挙権が18歳に引き下げられたことは記憶にある方も多いと思う。この選挙権年齢引き下げは戦後初となる70年ぶりの拡大となり、歴史的にも大きな変革であり、私自身はこの選挙権年齢引き下げを大学生だった2000年から15年もかけて仕掛けて実現した。

国民投票法の付則に明示されていることから、この選挙権年齢の引き下げの後も宿題として残っていたのが成人年齢の引き下げだった。

この辺りについては、2016年に『どこよりも詳しい「18歳成人」解説。被選挙権年齢引き下げにつなげ!』にも書いたように、「18歳成人」や「18歳選挙権」は、第1次安倍政権であった2007年5月に成立した日本国憲法の改正手続に関する法律(以下、国民投票法)がきっかけになっている。

その附則第3条第1項の「満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。」と明記されたことから始まった。

詳しくは、著書『子ども白書2016 18歳「成人」社会~「成人」とは何か~』(本の泉社)なども読んでもらえればと思うが、私たちの仕込んだこの国民投票法の仕掛によって2015年5月に「18歳選挙権」が実現、「18歳成人」へと繋がった。

さらに宿題として残るのが被選挙権年齢の引き下げ

初の18歳による国政選挙が行われたのが2016年だった。自民党では党の政策決定を行う政務調査会に「若年成人の教育・ 育成に関する特命委員会」を設置し、初回会合では、私が有識者として招かれ、成人年齢引き下げに関する課題と同時に、被選挙権年齢引き下げを含めて、若者を当事者として参画させながら育てていく環境整備の重要性などを指摘したことを思い出す。

「18歳選挙権」と「18歳成人」の実現でもさらに宿題として残るのが、「被選挙権年齢の引き下げ」だ。

世界各国の被選挙権年齢を比較してみると、17歳が1.0%、18歳が33.3%、20歳が0.5%、21歳が29.2%、23歳が2.6%、25歳が28.2%、28歳が0.5%、30歳が4.6%となっている。

選挙権年齢と異なり、被選挙権は世界の傾向は大きく18歳、21歳、25歳の3つに分かれる。

これは、被選挙権年齢を選挙権年齢と合わせて18歳としている国と、当時21歳が成人年齢の主流であった中で成人年齢と被選挙権年齢を合わせていた国、成人年齢よりさらに高い年齢に被選挙権をおいていた国とに分かれていたためだ。

一方で、ドイツ、フランス、英国、スウェーデンなど欧州諸国は成人年齢引き下げなどのタイミングで軒並み被選挙権年齢は18歳へと引き下げられている。

日本の被選挙権年齢は、国際比較で使われる下院に当たる衆議院議員をはじめ都道府県議会議員、市区町村議員、市区町村長までが25歳、上院に当たる参議院議員と都道府県知事が30歳となっている。

被選挙権年齢も先進国とされるOECD(経済協力開発機構)の加盟国(36カ国)で見ると18歳が21カ国(58.3%)と過半を占める。

先進国は未来に対して当事者となる若者の声に耳を傾けるとともに政治参画を促す方向に制度変更する傾向があり、近年もフランスが2011年に法改正を行い下院の被選挙権年齢を23歳から18歳に、英国も2006年の法改正で21歳から18歳に引き下げている。

先進国で下院の被選挙権年齢が25歳に残る代表的な国には、日本のほか米国や韓国が挙げられていたが、昨年、韓国では18歳に引き下げられて大統領選挙なども行われた。

日本においては、昨年行われた衆議院総選挙でようやく20代国会議員、大空幸星(自民26)小竹 凱(国民26)橋本 幹彦(国民29)の3名が誕生した。

海外の研究においては、被選挙権年齢が相対的に低い国は、若い政治家の数が多くなる兆候があることも報告されている。

2019年に『【若者の立候補意識調査】被選挙権も18歳に引き下げると、45万人の若者が立候補する』というコラムも書いたが、被選挙権年齢の引き下げによって、立候補をしようという意志のある若者はこの国にもいる。

この国の未来を考えれば、未来により大きな責任を課されるとともに、その当事者となる若者たちに政治の世界においても活躍してもらう環境を創っていくことは、この国の未来にとって非常に大きな価値を生み出すのではないだろうか。