オーストリアで目下、極右政党「自由党」と保守中道「国民党」の間で連立交渉が行われている。同国では昨年9月29日、国民議会選挙が実施されたが、新政権はまだ成立していない。総選挙から新政権誕生までの期間は9日現在で133日目となり、戦後最長記録を更新中だ。
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オーストリア自由党公式サイトから、2025年2月08日
「自由党」と「国民党」両党の連立交渉前は、「国民党」と「社会民主党」、リベラル派政党「ネオス」の3党連立交渉、そして「国民党」と「社民党」2党間の連立交渉がそれぞれ実施され、暗礁に乗り上げた経緯がある。「自由党」と「国民党」の連立交渉は3回目となり、交渉が成立しなければ、もはや2つのシナリオしか残されていない。一つは議会解散し繰り上げ選挙を実施するか、専門家内閣を組閣するかだ。
「自由党」と「国民党」の連立交渉自体は先月10日から始まったばかりで、交渉期間はまだ30日余りしか過ぎていないから、交渉が遅すぎるといえないが、一般の国民は昨年9月末から4カ月以上、新政権の誕生を待っているのだ。
ところで、「自由党」と「国民党」の連立交渉が正式にスタートする前、国内総生産(GDP)比で3%を超えた財政赤字について、欧州委員会から財政規律違反を問われ、過剰財政是正手続き(EDP)が開始される危険があった。両党は約63億ユーロの歳出削減案をEU側に提出し、幸い、了解を得た。両党が合意した歳出削減案は国民に緊縮を強いるものが多いが、EUからEDPを受けるといった不名誉な事態は回避できた。幸先のいいスタートを切ったのだ。
連立交渉は先月20日から本格的に始まった。13のテーマ別に小委員会が開かれ、大筋で合意が実現したといわれた。もちろん、親欧州派の「国民党」とEUに批判的な「自由党」の間には対立点はあるが、妥協できないハードルではないからだ。ただ、ここにきて新たな問題が表面化したのだ。閣僚の割り当て問題だ。
「自由党」案の閣僚振り分けでは、自由党が首相ポストのほか、財務相と内相のポストを握る。一方、国民党は副首相のほか、外相、家庭相、経済相、社会相を振り当てるというものだった。それに対し、国民党のストッカー党首代行は「わが党は財務相と内相のポストを要求する」と主張し、自由党案に強く反発。同国のメディアは「自由党と国民党の連立交渉は暗礁に乗り上げるかもしれない」と報じるほど、両党間の対立は一時期、解決の見通しが立たなかった。
そこで6日、ファン・デア・ベレン大統領はストッカー代行党首とキックル党首を個別に呼び、これまでの連立交渉の成り行きについて報告を受けている。その直後、国民党側から「自由党との交渉は来週初めから再開する」という短いステートメントが出てきた。
現地のメディアによると、「国民党は財務相を断念し、自由党に譲るが内相ポストは譲れない」というのだ。キックル党首は「前政権が残した国家財政の赤字を解決するためにも財務相が必要だ。また、移民、難民問題を解決するためにも内相ポストが不可欠だ」と説明してきた。「国民党の内相、自由党の財務相」の妥協案に同意するかは目下不明だ。
自由党から財務相が出てくれば、各省の関係省も自由党の財務相抜きで政策論争は出来ない。資金の出所の財務省は閣僚の中でも最もパワフルな省であることは変わらない。
「国民党」は「内相ポストは移民、難民問題を統括するという立場上重要だ。そのうえ、外国情報機関との連絡の拠点でもあるから、そのポストを(極右党)自由党には渡せない」というのだ。「自由党」はロシアとの人脈があるといわれてきたこともあって、「自由党」が内相ポストを握れば、欧米の情報機関との関係が難しくなるという懸念があるからだ。
いずれにしても、オーストリアで極右政党自由党主導の新政権が発足する可能性が出てきたことで、国内外で「キックル政権の発足を阻止すべきだ」という声が高まってきている。
ちなみに、クルツ政権時の国民党が財務相ポストを掌握していた時代、議会で財政問題を説明していた当時の財務相がゼロ一つ忘れて少ない額の予算を発表し、それを後で指摘されて慌てて訂正するといったハプニングがあった。財務相ポストには党派とは関係なく、財政問題に精通した政治家が就任すべきだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。