自民党安倍派を巡るパーティー収入不記載問題は、昨年の今頃までには東京地検特捜部による100名体制の捜査の結果、不記載が高額だった数名の議員と派閥の会計責任者を除く多くの不記載議員が不起訴などになり、幕が引かれたはずだった。だのに、一部メディアの「裏金問題」とのレッテル貼りに過剰反応した当時の岸田総理が、派閥解消やら不記載議員の大量処分やらに走って火に油を注ぎ、事態を自らの総理総裁辞任にまで発展させた。
それに輪を掛けたのが、その岸田氏の後押しで悲願の総裁となった石破氏だった。前任者が首を差し出してまで沈静化させようとしたものを、総裁選中に否定していた早期解散を打ったのみならず、不記載議員を非公認にするという「一事不再理」の原則を踏みにじる挙に出たのである。
当然、自民党とその側杖を食った公明党は大敗し、少数与党に転落する羽目に陥った。その後の石破内閣の体たらくは、口にするのもおぞましい。
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この少数与党は、予算を人質に取った野党の、「裏金問題」を使っての揺さ振りに抗し切れず、また夏の参院選に惨敗を繰り返したくないとの老婆心もあって、政倫審未済の不記載議員をお白州に送り出した。が、特捜の厳しい取り調べで何も出なかったのだから、政倫審でそれ以上の何かが出るはずがない。そんなことはやる前から自明であった。
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そこで野党が繰り出した次の一手が、安倍派元会計責任者の参考人聴取だ。当然、筆者は前記の政倫審と同様の結果になると考えていた。が、そこでは、今まで筆者の胸中にわだかまっていたあることについて明らかにする新しい証言がなされたのである。今は、やって良かったと思っている。
そのわだかまりとは何かといえば、総理を辞して派閥の会長となった安倍氏が令和4年4月に中止を指示したことが、「派閥の政治資金パーティー券販売ノルマ超過分の『還流』」だったのか、それとも「政治資金報告書への『不記載』」だったのかという問題だ。今までこれを明確に報じた記事を、筆者は寡聞にして存じない。
聴取した安住予算委員長は、安倍元総理が中止を指示したのは「還流」だったと元会計責任者が証言した、と述べた。安倍氏が「不記載」を認識していたのに「還流」にだけ言及するとは考え難い。安倍氏も「不記載」を知らなかったのではなかろうか。そしてその年の8月、幹部会合で再開が決まったのも「還流」だった。「還流」は、政治資金収支報告書にちゃんと記載するなら何も問題はない。
修正すれば済む形式犯とはいえ、不法なのは「不記載」なのである。これに関して元会計責任者は、旧安倍派の幹部議員が政倫審で異口同音、不記載は派閥の会計責任者の指示だったと証言したことについて、「(不記載を)指示したつもりはない。事務局長に就任する前から派閥にいた議員はそれまでのやり方を踏襲していた」と述べた。
政倫審で弁明した安倍派議員の大半は「不記載」の認識がないか、或いは認識するも派閥の指示なので帳簿をつけるなり、別管理するなりしていたようだ。
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だからこそ起訴されなかったのである。いつ頃から始まったかも、知らない者が大半だ。であれば、決して褒められたことではないが、自民他派閥や野党議員の不記載とどこに違いがあるというのか。
だのに、立憲の野田代表はこの参考人聴取を取り上げ、飽きずに「裏金問題」と口にし、還流再開の経緯を巡る派閥幹部との主張が食い違うとして党としての再調査を求めた。総理は「真相解明に向けた国会の努力に、自民党として全面的に協力する責務がある」というのである。(手取りを増やそうとしない石破総理と同様に)参院選での大敗を目指しているとしか思えない。
野党6会派の国対委員長も国会内で会談し、この問題の全容解明のため、令和7年度予算成立後に西村康稔、世耕弘成両衆院議員、落選した下村博文氏、引退した塩谷立氏に対する参考人招致を行うよう与党側に求め、自民が受け入れない場合は予算案採決に応じないことで一致した。
参考人聴取後の関係者への取材で、元会計責任者が特捜部の当時の取り調べに対し、「再開を求めたのは下村氏だ」という趣旨の供述をしていたこと、及び下村氏自身がある議員からの再開要望を元会計責任者に話したことは認めつつ、「命令や指示ではない」と話したことが報じられている。
忘れてはならないのは、「再開」されたのは「還流」であることだ。政治資金収支報告書に記載しさえすれば「還流」自体に問題はない。過去の「不記載」は収支報告書の訂正で既に正されている。この問題、もういい加減にしてはどうか。取り組むべき政治課題は山積している。