高卒と大卒が同じ給料でスタートすると何がどうなるの?と思ったときに読む話

JR東日本が「大卒と専門学校、高校卒者を同じ処遇で採用する」というニュースが話題となっています。

【参考リンク】JR東日本、高卒・専門卒も総合職に 学歴で差をつけず

JR東日本、高卒・専門卒も総合職に 学歴で差をつけず - 日本経済新聞
JR東日本は28日、2026年度の採用計画を発表した。高校や専門学校、短期大学を卒業した人も、大卒や院卒と同じ総合職の対象とする。給与水準も総合職と同じ水準に増やす。学歴にかかわらず優秀で多様な人材の獲得を目指す。新たに「海外戦略職」の募集も始める。東南アジアで

「学歴で差をつけるなんて時代遅れだ」と歓迎する人も多いですが、「それじゃ優秀な大卒以上の人材は集まらないだろう」と現実的な目線で見る人も少なくないようです。

確かに筆者の感覚でいうと「経営陣が東大卒ばっかりで東大大好きな会社」と「学歴関係なしの実力主義の会社」があったら、前者に行く東大生は少なくない気がしますね(苦笑)

なぜJR東は学歴ごとの処遇を見直すんでしょうか。そもそも学歴にはどういう意味があるんでしょうか。いい機会なのでまとめておきましょう。

ferrantraite/iStock

学歴とは、より高賃金で重要な仕事を任されるレールへの乗車チケットのようなもの

従来、一般的な日本企業では、大卒や専門、短大、高校卒といった最終学歴ごとに初任給が設定されていました。

たとえば、

博士課程修了   :27万円
修士卒      :24万円
学卒       :22万円
短大・専門卒学校卒:20万円
高校卒      :18万円

みたいな感じです。

入社後はそれぞれの初任給から、毎年すこしづつ昇給していくことになります。

まあその先は各企業ごとに色々制度も異なりますし、人によってメチャクチャ優秀な高卒者や、ぜんぜんお話にならない大卒者も普通に出てくるので逆転するケースもあるんですが、少なくとも従来は全体で平均すれば賃金カーブの差は歴然とついていましたね。

なんて書くとやっぱり大卒は優秀なんだな!と思う人もいるかもしれませんが、ここで重要になってくるのが「評価制度」と「コース別採用」です。

日本企業で働いている人ならみんなわかると思いますが、賞与や昇給の査定なんてどこのJTCでも結構いい加減なものですよね。

これまでも何度か言及しているように、多くの会社では人事部が設定した分布に基づいて管理職が評価をばらまき、人事部が決めた基準で賞与や昇給額を決めているだけです。

具体的に言えば「30歳大卒なら昇給はこのレンジで、高卒ならそれより低くてこのくらいで」みたいな感じです。

つまり、個人差はあれど、学歴ごとの賃金カーブの差というのは、そのほとんどが人事部があらかじめ敷いたレールということになります。

そしてもう一つの重要な要素であるコース別採用ですが、それにより各人は事前に与えられる仕事が大まかに決定されることになります。

一般的にいうと、付加価値の高い基幹業務を担い、幹部候補として全国転勤や残業もばりばりこなす総合職、現場業務中心で転勤や異動の限定的な地域採用職(企業によっては事務一般をこなす一般職も)などがあります。

これらのコースはほぼそのまま学歴で振り分けられます。大卒以上は総合職、それ以外は地域採用や一般職といった具合ですね。

つまり、学歴によっては入れるコースが異なり、コースによって与えられる仕事が違うということになります。

そう考えると、先の図の印象も随分変わってくるのではないでしょうか。

「学歴はお金を生み出す武器」というよりは「学歴はより高収入の保証されたレールに乗るための乗車券」と言うべきでしょうね。

でそのチケットによって「お前は高卒だから給料はこのくらいで、ピーク時もこんなもんでいいだろう」みたいに決め打ちされるわけですよ。

「そんなステレオタイプで人の人生を限定するな!」と怒る人もいるでしょうが、年功序列制度というのはそういうものなんですね。文句がある人は年功序列制度(とそれに基づいた終身雇用制度)に言いましょう。

余談ですが、最近一部の政治家が「大学の無償化」を看板政策として掲げています。

たぶんそういう政治家って、冒頭で出した賃金カーブをイメージし、大卒者を増やせば高賃金の人が増える→経済成長だ!って短絡的に考えてるんでしょうね。

でも上記のロジックからすれば「高賃金のレールの座席数自体は変わらない中で、単に乗車チケットだけが乱発される」という状況になるだけです。

経済成長どころか、大卒チケットは手に入れたけれども、どこにも座れない人間があぶれるだけでしょう(当然ですが高卒者用の椅子にも今さら座れないはず)。

これと言って何のとりえもない文系事務職希望が増えるだけで、建設業や運輸、介護といった業界の人手不足はさらに悪化するんじゃないでしょうか。

以降、

・ジョブ型と学歴別コース別採用は水と油
・JRが学生に発しているメッセージは、すべてのビジネスパーソンにとっても肝に銘じるべき

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Q:「ホワイトカラー>エッセンシャルワーカーの価値観はどうやったら変えられますか?」
→A:「10年以内にガラッと変わる気がしています」

Q:「転勤制度はジョブ型移行でどう変わるんでしょうか?」
→A:「転勤制度とジョブ型は本来両立しないはずですが……」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2025年3月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。

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