北はいつから「核保有国」入りしたか:トランプ大統領の「核保有国」発言

トランプ米大統領は決して口の堅いタイプではない。むしろ今聞いたばかりの情報を直ぐに口に出さないと落ちつかないタイプではないか。同大統領は13日、北朝鮮を核保有国と呼んでいる。今年に入って少なくとも2回目だ。発言内容は間違っていないが、正式に核保有国と呼ばないことが米国を含む西側のスタンスだった。トランプ氏の発言を聞いた金正恩総書記は「それみろ、米国がわが国を核保有国と呼んだぞ」と側近たちと大喜びだろう。

プーチン大統領と金正恩総書記 2024年6月20日 クレムリンHPより

トランプ氏が言うように、北が核保有国(核兵器国)メンバーとすれば、北との非核化交渉といったテーマはもはや意味がなくなる。トランプ氏は「賢明な指導者」と褒める金正恩氏との米朝首脳会談が実現した場合、核拡散防止条約(NPT)に基づいて、「核軍縮」と「核管理」について話し合うことになる。

ちなみに、NPT第9条3によれば、「核兵器国」とは、1967年1月1日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国をいう。すなわち、米ロ中英仏の5か国だ。ただし、インド、パキスタン、イスラエル、そして北朝鮮も核を保有している。しかし、それらの国を「核兵器国」と正式に認知すれば、NPT体制が崩壊するから、それらの国を核兵器国とは呼ばないわけだ。

ウィ―ンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は3日の定例理事会の冒頭演説の中で、北朝鮮の核関連施設の近況について報告している。曰く「寧辺(ヨンビョン)の5MW(e)原子炉が約60日間の停止期間を経て、2024年10月中旬に運転を再開したことを確認した。この停止期間は、原子炉の燃料交換を行い、第7次運転サイクルを開始するためと考えられる。また、放射化学研究所に蒸気を供給する施設の稼働を含め、新たな再処理キャンペーンの準備を示す強い兆候が観察された」という。

また、「北朝鮮は2025年1月下旬、金正恩総書記が核物質生産基地および核兵器研究所を視察する写真を公開している。写真に写る遠心分離機のカスケードや施設の構造は、遠心分離濃縮施設の配置や寧辺のウラン濃縮工場の構造と一致する。北朝鮮が2024年9月に未申告のカンソン(江先)施設の濃縮施設の写真を公開したことに続くものだ。江先と寧辺における未申告の濃縮施設の存在は、金総書記が兵器級核物質の生産計画を超過達成するよう指示したことを裏付けている。江先および寧辺のウラン濃縮工場が稼働を継続している兆候があり、また寧辺の軽水炉(LWR)も運転を続けている兆候がある。LWRの隣接地では、支援インフラの追加が確認された」という。

寧辺の5MWの原子炉は激しく老化しているから、それを修復して原子炉活動を再開するためには多くの費用と時間が必要となる。北朝鮮は5MWの原子炉の再開をちらつかすことで米国を核協議に誘導しようとしているだけで、今後はウラン濃縮活動に力を入れてくるはずだ。ウラン濃縮施設で兵器用ウランを入手する作業は使用済み核燃料の再処理施設でプルトニウムを入手するより容易な上、監視衛星から隠蔽する上でメリットがあるからだ。

豊渓里(プンゲリ)の核実験場については、大きな変化は見られず、引き続き核実験をいつでも実施できる状態が維持されている。北朝鮮の核計画の継続は、関連する国連安全保障理事会決議やIAEA理事会決議に違反している。グロッシ事務局長は「北朝鮮は関連する国連安保理決議に完全に従うこと、NPTの保障措置協定を全面的かつ効果的に履行するために速やかにIAEAと協力すること、そして、IAEA査察官が不在の間に生じた問題を含め、未解決のすべての問題を解決するよう求める」と述べている。

明確な点は、北朝鮮は核兵器を自国存続の保証と考えているから、核カードを放棄することは絶対にないことだ。朝鮮半島の非核化は金正恩総書記体制が続く限り、考えられない。

北朝鮮は昨年6月、ロシアと安全保障・防衛分野などを網羅した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結する一方、約12000人の兵士をロシア軍を支援するためにウクライナに派遣するなど、ロ朝両国が軍事同盟の関係を深めている。北朝鮮側がプーチン大統領の要請を受けて弾薬や大砲などの武器供給のほか、兵士も派兵しているとすれば、北側はロシアから何らかの代価を得ていると考えて間違いないだろう。具体的には、ロシアから核関連、軍事衛星、原子力潜水艦関連の技術支援を得ているはずだ。

ドイツ民間ニュース専門局ntvによると、ウクライナでの戦闘で使われている北朝鮮製ミサイルが突然、より正確に命中するようになったという。北朝鮮の部隊がウクライナに派遣された当初、西側軍事専門家は北製ミサイルの性能の悪さを嘲笑していたが、今年に入ってミサイルの命中度が劇的に向上したという。ロシアとの軍事協力の成果が出てきているのだ。

なお、北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)は8日、金正恩総書記が海軍の原子力潜水艦や艦艇を建造する造船所を視察したと報じた。正恩氏は「海軍戦力の精鋭化、核武装化」が重要な課題だと強調している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年3月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。