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昨年末に受け取った喪中はがきは、例年になく多かった。首都圏では、火葬場も順番待ちで、1週間も待たされることがあるという。コロナの流行は収束したものの、わが国の死亡者数は減っていないというのが、国民の実感であろう。実際、人口動態統計の速報によると2024年の年間死亡数は、1,618,684人で、コロナの流行が始まった2020年の1,384,544人と比較して234,140人多く過去最高であった。
わが国で超過死亡を論じるにあたっては、国立感染症研究所(感染研)の発表が公式となり、メディアでも取り上げる。図1には、感染研の発表によるコロナの流行が始まった2020年1月以降の超過死亡の推移を示す。
コロナの流行によって死亡者数が激増した欧米諸国とは異なり、2020年の前半は、わが国では、かえって過小死亡であった。2021年4月12日から、高齢者を対象にコロナワクチンの接種が始まったところ、翌週から超過死亡が見られるようになり、この傾向は2023年2月5日の週まで続いた。ところが、2023年2月12日の週から、突如、超過死亡はみられなくなり、さらに、2024年の9月8日の週からは、連続して過小死亡が続いている。

図1 日本における過去5年間の超過死亡の推移
国立感染症研究所
感染研の発表では、2024年の9月から、過小死亡が続いているが、国民の感覚とは大きくずれている。
感染研では、超過死亡の算出は、アルゴリズムによって予測死亡数を算出し、予測死亡数と観測された死亡数との差でもって、超過死亡や過小死亡の判定を行っている。一方、欧州連合統計局は、コロナの流行が始まった2020年以降の超過死亡を、コロナの流行する前の2016年から2019年までの月別死亡数の平均値との差で算出している。
筆者は、感染研の発表で2023年に入ると、突然、超過死亡が見られなくなったのは、予測死亡数が嵩上げされたことによることを指摘したことがある。

人口動態統計により、感染研の発表で超過死亡が見られた2022年9月と、過小死亡であった2024年9月との月間死亡数を比較したところ、2022年9月は125,463人、2024年9月は124,773人とほとんど変わらなかった。感染研の発表とは異なり、欧州連合統計局に準じて算出した超過死亡は、2022年9月が23,298人、2024年9月が、22,608人であった。この値の方が、国民の実感に近い。
そこで、欧州連合統計局の方法に準じて、日本の超過死亡数を算出し、ヨーロッパ諸国の超過死亡と比較してみた。人口動態統計では、2024年については、11月、12月の死亡数がまだ発表されていないので2023年の値を代わりに用いると、2020年1月から2024年12月末までの超過死亡の合計は880,054人である。
高齢化の進むわが国では、超過死亡がみられるのは当然だという意見もあるので、年齢調整した死亡数も示す。年齢調整することで、年齢構成の異なる集団の死亡数を比較することが可能となり、高齢化の影響を無視できる。宜保美紀氏の計算によると、同期間におけるわが国の年齢調整後の死亡数は、351,278人であった。
武見大臣発言「日本の超過死亡の原因が高齢化にあることは明白だ」は本当か?

超過死亡は、コロナワクチンの接種と関連するので、図2に、100人あたりのコロナワクチンの総接種回数を示す。日本のワクチン接種回数は、2022年の8月までは、イタリア、スウエーデンと変わらなかったが、それ以降、両国の接種は増えていないが、日本は接種を進めており、現在は、世界でもダントツの接種回数となっている。一方、ブルガリアとルーマニアの接種率は30%ほどで、追加接種はほとんど行われていない。

図2 コロナワクチンの総接種回数
Our World in Data
図3は、流行の始まりから、2024年12月末までの、各国における超過死亡の推移を示す。超過率は、各月の超過死亡を該当する月における4年間の死亡数の平均値で割って算出した。超過率は、平均値が10,000人、その月の死亡数が12,000人であれば+20%、死亡数が8,000人であれば-20%になる。

図3 ヨーロッパ4カ国と日本における超過死亡の比較
欧州連合統計局のデータから筆者作成
ブルガリアとルーマニアは、2022年4月までに、コロナの流行に一致して、超過率が100%に達するピークが見られた。そのあとは一転して、2024年12月末まで過小死亡が続いている。
スウェーデンでは2020年12月末までに2回、イタリアでも、2021年4月までに3回、20%を超えるピークが見られたが、それ以降は、目立ったピークは見られていない。両国ともに、2024年1月から6月までの間は過小死亡が観察された。
4カ国で超過死亡のピークが見られたのは、ワクチン接種が本格化する前で、超過死亡の原因は、コロナによる感染死と考えられる。ブルガリアとルーマニアは、2023年以降は、全ての月が過小死亡であった。2024年になると、イタリアでは12ヶ月のうち7ヶ月、スウエーデンでも、4ヶ月が過小死亡で、10%を超える超過死亡が見られた月はなかった。
ヨーロッパ諸国と異なる経過を示したのが日本である。2020年には、ヨーロッパでは、コロナによる感染死の激増で、大幅な超過死亡がみられたが、日本では、逆に、1月、2月には過小死亡が見られ、年間を通して超過率は5%以下であった。ワクチン接種が始まってからは、かえって超過率が上昇し、2022年の8月以降は、一貫して20%前後の超過死亡が続いている。日本の超過率は、5カ国の中で、2021年12月までは、最も低かったのが、2022年の8月以降は最も高い国になっている。
ヨーロッパの4カ国で見られた超過死亡は、ワクチン接種の始まる前に、コロナの流行に一致したピークが見られたが、わが国では、ワクチン接種の開始後に、持続的に超過死亡がみられ、ヨーロッパのように明確なピークが見られない。とりわけ、ワクチン接種率が低いブルガリアやルーマニアは、日本と対照的に、2022年4月まで超過死亡の大きなピークが見られたものの、それ以降は、一貫して過小死亡が続いている
ワクチン接種が普及した2022年の秋以降は、ワクチン接種率が高い日本で超過死亡が見られたのに、接種率が低いルーマニアやブルガリアでは過小死亡がみられるという、ワクチンを打つとかえって死亡者が増えることを示す現象が見られる。この現象を説明するのに、ルーマニアやブルガリアは2022年の4月までに大きな流行があったので、ハイリスクのグループはこの時期に死亡しており、それが、以後続く過小死亡の原因となったことも考えられる。
そこで、筆者は重回帰分析を用いて以下のような検討を行なった。

超過死亡のように、いくつかの要因の関与が考えられる場合に、重回帰分析によってそれぞれの要因がどれくらい超過死亡に影響しているかを分析することができる。すなわち、重回帰分析で超過死亡を目的変数、ワクチンの追加接種回数やコロナ死亡者数、コロナ感染者数を説明変数とすれば、ワクチンの追加接種が超過死亡に関与しているかを明らかにすることができる。
Our World in Dataには重回帰分析に必要な目的変数や説明変数が含まれており、今回は39カ国の以下のデータを用いた。
目的変数Y:2022年10月1日〜2023年1月31日の人口100万人あたりの超過死亡
説明変数X1:2022年12月初旬の人口100人あたりの追加接種回数
説明変数X2:2022年10月1日〜2023年1月31日の人口100万人あたりのコロナ死
説明変数X3:2020年1月12日〜2022年9月30日までの人口100万人あたりのコロナ死
説明変数X4:2022年10月1日〜2023年1月31日までの人口100万人あたりのコロナ感染者数
X3によって、ワクチン接種前の超過死亡が、その後の超過死亡に影響したかを知ることができる。
その結果、説明変数のなかで、X1のP値は0.04で統計学的に有意であり、X3のP値は0.34であった。すなわち、ヨーロッパの4カ国は過小死亡となっているのに、日本で超過死亡が続いているのは、ワクチン接種を続けているからであって、ワクチン接種前にハイリスクのグループが死亡したからではないことを示している。
日本を含むリアルワールドデータの検討によって、コロナワクチンには死亡予防効果は見られず、未接種群と比較して接種群の方が、かえって死亡率が高いという結果とも一致する。
リアルワールドデータによるコロナワクチン接種回数別全死因死亡率の検討

感染症専門医は、超過死亡の増加、とりわけワクチン接種との関連については否定的である。昨年11月に発行された日本内科学会誌に掲載されたワクチン特集記事で、谷口俊文氏は次のように述べている。
様々なコホートデータからSRS-CoV-2に対するmRNAワクチン接種後に死亡率が高くなるようなデータは認められていない。しかしながら日本では超過死亡に関する解釈の誤りであたかもワクチンにより死亡者が増加したかのような誤情報を流布する人たちが存在するために注意が必要である。
誤情報と決め付ける前に、考えが違う立場から意見を戦わせる討論が必要ではないか。残念ながら、コロナワクチン接種をProとConの立場から検証する討論は実現していない。