わが国では、小規模な臨床研究をもとにして得られた重症化や入院予防効果が、コロナワクチン接種を推奨する根拠とされている。
しかし、ワクチン接種後に心血管障害などで死亡する症例もあることから、研究者の間では、ワクチンのメリットとデメリットを総合的に評可した全死因死亡率を重視すべきだという意見がある。
京都大学西浦博教授の発表した数理モデルに基づく研究も、コロナワクチンの死亡抑制効果を示す有力な根拠とされている。しかし、西浦教授の研究については、その内容に疑問の声が上がっている。
ワクチンの効果を検討するには、未接種群と接種群の全死因死亡率を、大規模に、しかも長期間にわたって比較したデータがもっとも信頼できる。これまでは、英国国家統計局が、全国民を対象に、ワクチン接種回数別の全死因死亡率を公表したものが、国レベルでは、唯一の研究である(引用3)。
イギリスでは、月毎のワクチン接種回数別の全死因死亡率が人年法を用いて検討された。全年齢層の検討では、2022年は、年間を通して、接種群は未接種群よりも死亡率が高く、ワクチンの死亡予防抑制効果は確認できていない(図1)。
同じく、図2は、イギリスの70歳以上の高齢者について、2021年4月から2023年5月までの期間におけるワクチン未接種群と接種群の全死因死亡率を比較した結果である。
未接種群を1として、各接種群の死亡率を相対危険度(RR)で示されている。1回接種群は、全期間を通して未接種群より死亡率が高かった。2回接種群は、2021年10月までは、未接種群よりも死亡率は低かったが、11月以降は、未接種群を上回る死亡率が見られた。3回接種群も、2022年5月以降は、未接種群の死亡率を超えている。80歳代、90歳以上でも、70歳代と同じ傾向が見られた。
人口80万人の浜松市の開示データを用いて、70歳以上の高齢者におけるワクチン接種回数と10万人年あたりの全死因死亡率が検討されている。イギリスと同様に、2回接種群では2021年2〜3月以降、3回接種群でも2022年8〜11月以降は、未接種群を上回る死亡率が見られるようになった(図3)。日本は、ワクチンの接種開始がイギリスよりも遅れたことがが、時期の違いに反映されているのであろう。
イタリアにおいても、人口が96万人の地域におけるワクチン接種回数別の全死因死亡率が人年法を用いて検討された。この研究では、多変量解析を用いて、年齢や性のほか、糖尿病や高血圧などの基礎疾患の頻度についても補正が加えられた。その結果、1回接種群、2回接種群の死亡率は、未接種群の2.40倍、1.98倍であった(表4)。
A Critical Analysis of All-Cause Deaths during COVID-19 Vaccination in an Italian Province
これまで、リアルワールドデータを用いて、全死因死亡率を検討した研究では、2022年以降になるとコロナワクチンの死亡予防効果は確認されていない。
2022年8月に、京都大学福島雅典名誉教授が、国に対して、コロナワクチン接種者と未接種者の重症化率と死亡率についての開示請求を行なったが、当初、そのようなデータは保有していないことを理由にデータは開示されなかった。
今回、地方自治体がデータを保有していることがわかったことから、国レベルにおいても、データは保有されていると考えられる。これまでのワクチン行政を検証するにあたって、決定的な事項だけに、解析結果の公開が待たれる。