最近なぜ感染症の流行が続くのか?

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百日咳や麻疹の世界的な流行が報道されている。わが国でも、今年の3月末までの患者数は、すでに、昨年を上回っている。専門家は増加の原因として、ワクチン接種率が下がったことで、抗体保有率が低下した可能性をあげている。

図1には、百日咳患者数の推移を示す。2019年には、1万6千人に達していた患者数が、コロナの流行とともに激減、2021年〜23年は千人以下であった。2024年には3千200人、今年は、3月半ばで、すでに3千人に達しているが、それでもコロナ禍前の患者数には及ばない。ジフテリア・破傷風・百日咳混合ワクチン(DPTワクチン)の接種率も、2021年が96.7%、2022年が95.9%、2023年が96.2%と低下してはいない。

図1 百日咳患者数の推移
国立感染症研究所感染症疫学センター

日本は、WHOから2015年に麻疹の根絶が認定され、それ以降は海外から持ちこまれる以外には麻疹患者の発生はみられてない。AERAに掲載された記事によると、今年の患者数は3月19日の時点で32人である。同じく、根絶宣言された米国でも、麻疹が大流行しているというが、米国の患者数は、3月27日の時点で483人であった。

麻疹の予防にはワクチンが有効であり、日本小児科学会は、生後12〜24ヶ月における接種率を95%以上に保つことを目標にしている。

図2には、2015年以降の麻疹患者数と、ワクチンの接種率を示す。2020年〜22年の患者数は、一桁だったのが、2023年には28人、2024年には45人と増加し、今年は確実に前年を上回ると考えられる。

しかし、コロナの流行が始まる前の2019年の患者数は、744人であり、最近の増加は、コロナ禍で海外との交流が途絶えて、患者数が激減したのが、海外との交流が活発となり、患者数がコロナ禍以前に戻りつつあるとも考えられる。ワクチン接種率も、ほぼ95%前後で、現時点では麻疹の流行をワクチンの接種率に求めるのは無理がある。何らかの原因で、免疫力が低下し、これらの感染症の流行を招いた可能性は考えられる。

図2 麻疹患者数とワクチン接種率の推移
国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト/厚生労働省

それでは、他の感染症における患者数の推移はどうだろうか。梅毒の患者数は、コロナ禍以前には6千人前後であったのが、2022年以降は倍増している(図3)。

図3 梅毒患者数の推移
厚生労働省

さらに、気になるのは激症型溶血性連性レンサ球菌感染症の激増である(図4)。2023年までは、千人を超えることがなかったのが、2024年には、一挙に1,751人となり、今年も同様に増加が続いている。激症型溶血性連性レンサ球菌感染症は、“人食いバクテリア”とも言われ、敗血症などの重篤な症状を引き起こして急速に多臓器不全が進行することがあり、その死亡率は30%にも達する。

図4 激症型溶血性連性レンサ球菌感染症患者数の推移
厚生労働省

コロナワクチンの接種が始まった2021年以降、わが国では死亡数の増加が著しい。図5は、人口動態統計をもとに、感染症、なかでも敗血症を死因とする年齢調整死亡率を示す。2010年以降、一貫して低下してきたのが、コロナワクチンの接種が始まった2021年からは反転し、2023年には、ともに、超過死亡が観察された。

図5 感染症/寄生虫症と敗血症の年齢調整死亡率の推移
人口動態統計をもとに宜保美紀氏作成

筆者の所属する名古屋大学小児科関連6病院における小児急性肺炎患者の入院数の推移を検討したところ、コロナの流行以降激減した入院数も、2023年には回復し、一部の病院はコロナ禍以前を上回っている(図6)。

図6 小児急性肺炎入院患者数の推移
名古屋大学小児科同門会会報

感染症の増加を反映して、抗菌剤の販売量も2023年には増加し、一部の抗生剤は品薄で入手困難となっている(図7)。

図7 全国抗菌薬販売量の推移
国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター

いずれの指標でも、2023年以降、細菌性、ウイルス性を問わず感染症の増加が著しい。

ワクチンは、標的となる病原体のみに特異的な予防効果があるとされてきたが、最近の研究では、標的となる病原体以外に対しても非特異的な効果があることが示された。BCGのような生ワクチンでは自然免疫をトレーニングすることで、非特異的な感染予防効果が得られる。

パンデミックの初期には、わが国のコロナウイルスの感染者数や死亡者数が、欧米諸国と比較して圧倒的に少なかったことを、BCGの非特異的な感染予防効果で説明することが可能である。

コロナ流行初期における日本の低い死亡率をBCGで説明できるか?

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一方、非生ワクチンでは、標的以外の病原体についてはかえって感染しやすくなることが判明した。アフリカで小児を対象にDPTワクチンを接種したところ、DPTワクチン接種後に死亡率が38%増えたことが報告されている。

Association of BCG, DTP, and measles containing vaccines with childhood mortality: systematic review

コロナに対するmRNAワクチンは、非生ワクチンである。IgG4抗体は、免疫寛容をもたらすことが知られているが、mRNAワクチンのブースター接種によって、血中IgG4抗体の増加が観察されている。

Class switch toward noninflammatory, spike-specific IgG4 antibodies after repeated SARS-CoV-2 mRNA vaccination

2023年以降、全世界的に観察されている一連の感染症の流行は、コロナワクチンによる負の非特異的効果と考えることはできないだろうか。現在、高齢者に肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されているが、肺炎球菌ワクチンも非生ワクチンであるだけに、ワクチンの負の効果についても検証できるような監視体制が必要であろう。