「教員働き方改革」は進んでいない:現場から始める真の改革を

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「教員働き方改革」が叫ばれて久しいですが、果たして改革はどの程度進んだのでしょうか?

文科省が教員調整額を引き上げたり、あちこちで教育委員会が教員採用試験の前倒しや簡素化などを行ったりしていますが、受験者は思うように増えないばかりか、早めに採用しても辞退者は増えてしまっています。

教員採用試験 合格しても辞退相次ぐ 追加募集の自治体が12に

教員採用試験 受験者数が減少 試験に合格しても辞退者相次ぐ 追加募集の自治体が12に | NHKニュース
【NHK】教員のなり手不足が深刻となる中、自治体が確保に向けて対策に追われています。教員採用試験の受験者数の減少や試験に合格しても

それでも多くの自治体は、追加募集することで何とか採用予定人数を確保できたようですが、東京都では実際勤務に就いた新任教員の退職者が急増しているようです。

1年以内に退職する新任教員が急増、見せかけの働き方改革だけでしかないのが理由。本質的な働き方改革を!

1年以内に退職する新任教員が急増、見せかけの働き方改革だけでしかないのが理由。本質的な働き方改革を!(前屋毅) - エキスパート - Yahoo!ニュース
 東京都が2024年度に採用した公立学校の新任教員のうち、全体の5.7%にあたる240人が1年以内に退職していた。しかも、その人数は増えつづけており、教員不足に拍車をかけている。|1年以内退職者は増え

いくら間口を広げたところで、「真の教員働き方改革」が進まない限り、穴の開いた桶に水を注ぎこむようなことになってしまいます。また、文科省が決めた「教員調整額の引き上げ」についても、教員の反応は概ね冷ややかです。

給特法改正案への反対署名 研究者ら4万7800筆を提出

給特法改正案への反対署名 研究者ら4万7800筆を提出
改正案の課題を指摘する本田教授(左端)=21日午前、文科省で  国会で審議中の教員給与特別措置法(給特法)の改正案に反対する研究者らが21日、教員に残業代を支給する制度に改めるよう求める署名4万784

同業者としても全く同感なのですが、筆者自身も過酷な教員の勤務条件・職場環境について、過去繰り返し警鐘を鳴らすとともに「真の教員働き方改革」の提言を行ってきました。

真の教員働き方改革実現に向けて

真の教員働き方改革実現に向けて
残業時間の上限を原則「月45時間、年360時間」以内と定めた文科省指針の順守に向け、中教審が公立校教員の長時間労働を是正する働き方改革を文部科学省に答申しました。 教育行政には実効性のある取り組みを要請し、タイムカードで勤務時...

「教員(教育公務員)働き方改革」の提言

「教員(教育公務員)働き方改革」の提言
今の教員の劣悪な労働環境は、以下の4点に集約されると思う。 ①給与・残業手当など、対価の不足 ②あいまいな職務範囲とその拡大(教員が引き受ける仕事の増加)、過労死レベルの超過勤務(サービス残業)増加 ③②により本来業務(授...

突き詰めれば「教員働き方改革」は、下記の4つに集約できると思います。

  1. 教員の職務(校務)の明確化・スリム化
  2. 教員の大幅増員
  3. 働きやすく、やりがいを感じる職場環境の構築
  4. 勤務条件の改善

1について、この数十年間で正式な職務以外に教員が引き受けるようになった雑務・事務・校外指導・過度な保護者対応などが雪だるま式に増えてしまい、「教員の仕事」の境界があいまいになっています。「教員が引き受けなくてよい仕事」、もう一歩踏み込んで「教員がしてはいけない仕事」を明確化法制化し、世の中に周知してもらう必要があります(具体例は筆者記事等参照)。

2について、多様化個性化が進んだ子供たちに対応するため、習熟度別授業、講座別授業、個別学習などが欠かせなくなっており、少人数学級、複数・教科担任制などに対応するため、教員数を大幅に増やす必要があります。

3について、筆者の経験上どんなに忙しく難題を抱えていても、仕事のやりがいを感じることができれば健全な精神状態を保て、プラス思考で頑張ることができます。教員のやりがいは子供たちを教えはぐくみ成長を実感することで得られますが、管理職からの信頼やサポート、教員団のまとまり、同僚の相互扶助などでより高められていきます。

4について、すでに多くの方が指摘されているように、「給特法の廃止・残業手当の支給」「部活指導の職務への位置づけ」などが当てはまります。

「教員働き方改革」の優先順位は、マクロ的には1→4になると考えますが、1の法規部分と2及び4は、政府・文科省が動かない限りなかなか達成できず、どうしても時間がかかります。文科省等の施策が実効性に乏しくあてにならない現状で、一体どのようにして「教員働き方改革」を進めればよいのでしょうか?

こうしている間にも教員はますます疲弊してしまいますから、学校現場で今すぐできる改革から着手していくしかありません。先ほどの4項目のうち、すぐ取り組めるのは1の学校裁量で行える校務部分と3であり、特に3は職務遂行するうえで教員の精神的な支えになるものです。

筆者は公立高校教員時代(40代前半)に、当時県内1、2の超教育困難校で初めて生徒指導主事(生徒指導の責任者)を任されました。

年間百数十件にも及ぶ問題行動・事件が頻発する中、不安よりもやる気が上回って頑張れたのは、

① 校長からの厚い信頼
② 「自分がやるしかない!」という職務のやりがい
③ 積み上げた経験則に裏付けられた自負

があったからです。特に①の校長がドンと構え、私を信用して生徒指導を一任してくれたことが②の使命感、③の自信につながったのだと思います。また、当時の勤務校は教員のまとまりがよく、大半が意欲的協力的であったため、筆者はどんなに忙しく疲弊した時も「学校に行きたくない!」と思ったことは一度もなかったのです。

確かに法改正が絡むような改革は学校だけではできませんが、学校独自にできる改革・改善は思いのほかあるはずです。ぜひ校長には、学校裁量で行える無駄な仕事のそぎ落としを行い校務の効率化を図るとともに、筆者が仕えた校長のように教職員を信頼し自主性・裁量を認めてやる気を喚起する一方、不当な外部圧力には体を張って学校・教員・児童生徒を守る姿勢・行動を示してほしいと思います。

こうして学校内で仕事の効率化ができ信頼関係が構築されれば、たとえ給特法が廃止されずサービス残業が残る状況であっても、筆者が勤めた超教育困難校のように、やりがいを感じる教職員は愚痴をこぼさず前向きに職務に当たれるはずです。

教員が外圧にさらされ「ブラック職場」と揶揄される今だからこそ、特に教育委員会・学校管理職の方は身内の教職員を大切にし、彼らがやりがいを持って働けるような職場環境づくりに邁進してほしいと思います。

このような個々の学校の地道な「教員働き方改革」の全国的な広がりが、県(教育委員会)レベルで改革を推し進めることにつながり、さらには国(文科省)の施策にも影響を与えることで、上記1・2・4の法改正が進む可能性が出てくるのではないでしょうか?