小児に対するコロナワクチンの有効性:リアルワールドデータの分析から

Nadzeya_Dzivakova/iStock

最近は、麻疹や百日咳の流行の影に隠れて、小児のコロナ感染について、メディアが取り上げることも少ない。

日本小児科学会は、これまで数回にわたって、小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方を発表してきた。筆者は、日本小児科学会の会員ではあるが、これまでの小児科学会の考え方について批判的な立場をとってきた。

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最新の考え方は、“2024/25シーズンの新型コロナワクチン接種に対する考え方”として昨年の10月に発表されているが、これまでと同じく今回も、生後6ヶ月〜17歳の全ての小児へのワクチン接種を推奨している。しかし、わが国では、生後6ヶ月〜4歳のコロナワクチン接種率は4.5%、5歳〜11歳においても24.5%に過ぎず、小児科学会の提言が保護者に受け入れられているとは思えない。

小児科学会は、小児へコロナワクチン接種を推奨する根拠として、

  1. 0〜4歳、5〜11歳での発症予防効果が、それぞれ、63.8%、76.8%あること
  2. 5〜25歳における死亡抑制効果が42%あること

をあげているが、いずれも海外の成績であって、日本のデータに基づいたものではない。コロナワクチンの有効性を示す研究として、6つの論文が引用されているが、日本の論文は、新潟大学から報告された1報のみである。その論文では、393人の入院患者を対象に入院予防効果が検討されているが、75%の入院予防効果が示されているが、接種からの経過期間は記載されていない。なお、感染予防効果は検討されていない。

Comparison of Clinical Characteristics of Children Infected With Coronavirus Disease 2019 Between Omicron Variant BA.5 and BA.1/BA.2 in Japan

コロナ感染の重症度は人種差が著しい。米国のコロナ感染による小児の死亡率は、わが国の10倍にも達する。わが国の小児へのコロナワクチンの適応を検討するには、日本人小児を対象にした研究に基づくべきである。

また、ワクチンの有効性を検討するにあたっては、ワクチン未接種のグループと、接種したグループを大規模に、それも長期間にわたって比較したリアルワールドのデータが最も有用である。残念ながら、わが国には、このような研究は、これまで、報告されていない。

ところが今回、4月18日〜20日に開催された日本小児科学会学術集会で、国立感染症研究所(現、国立健康危機管理研究機構)から、11の政令指定都市から得られたリアルワールドデータをもとに、小児に対するコロナワクチンの有効性を検討した研究が報告された。

住民基本台帳をもとに、コロナの感染情報はHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等把握・管理支援システム)、コロナワクチンの接種情報はVRS(ワクチン接種記録システム)のデータを突合して得られた結果である。研究対象者総数は、1,767,230人に達する。

表1には、BA4/5流行期における、コロナワクチンの感染予防効果を示す。2回接種の感染予防効果は、5〜11歳では、接種からの経過期間が3.2ヶ月の時点で33%であった。12〜17歳の検討では、接種からの経過期間が9.6ヶ月であったが、感染予防効果は2%であった。

表1 日本の小児に対するコロナワクチンの感染予防効果(BA4/5流行期)
国立感染症研究所

表2には、同じくBA4/5流行期におけるコロナワクチンの重症化予防効果を示す。2回接種の重症化予防効果は、5〜11歳では、接種からの経過期間が3.9ヶ月の時点で45%であった。12〜17歳でも、接種からの経過期間が11.2ヶ月で49%であった。

表2 日本の小児に対するコロナワクチンの重症化予防効果(BA4/5流行期)
国立感染症研究所

これまで、コロナワクチンの有効性の評価は、主に感染予防効果や重症化予防効果で行われてきたが、最近は、未接種群と接種群について、全ての原因による死亡(全死因死亡数)を比較することが重視されるようになってきた。その理由として、交通事故死でも、PCR検査が陽性ならばコロナ死とされると揶揄されるように、コロナ感染による死亡と判断するのが困難であることに加え、ワクチンの副作用による死亡が認識されるようになったことによる。

そこで、大阪市の開示データを用いて、小児におけるコロナワクチン接種群と未接種群の全死因死亡率の比較を行った。10歳未満では、ワクチン接種群の死亡はなかったことから、対象を10〜19歳の202,797人とした。

この年齢層の2回目ワクチン接種率は、大阪市は全国で最も低く、39%であった。2021年4月1日から2024年2月29日までの期間に、ワクチン接種群の死亡数は8人、未接種群の死亡数は9人であった。追跡期間を考慮して、人年法を用いて両群間の死亡率を比較したところ、2回以上接種群の10万人年あたりの全死因死亡数は4.3人で、未接種群の2.5人を上回った(表3)。

表3 10〜19歳におけるコロナワクチン接種群と未接種群の全死因死亡率の比較
大阪市開示データ

ランダム化されていないワクチン接種群と未接種群の生存率を比較する場合、ワクチン接種前の死亡は、未接種群に入れられるので、未接種群は接種群と比較して死亡率が高くなる。このバイアスはimmortal time biasと呼ばれている。今回の検討では、未接種群の死亡率は、接種群の死亡率より低いことから、このバイアスを考慮しても、接種群の死亡率は未接種群を上回ると考えられる。

今回のリアルワールドデータに基づくコロナワクチンの有効性の評価は、小児科学会が引用する海外の報告よりも、わが国の小児におけるコロナワクチンの適応を議論するにはより有用な情報と考えられる。さらに、先が長い小児にとって、mRNAワクチンへのDNA混入は深刻な問題であろう。

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日本小児科学会は、現在も、6ヶ月〜17歳の全ての小児へのコロナワクチン接種を推奨しているが、わが国における小児に対するコロナワクチン接種率をみるかぎりでは、小児科学会は子どもを育てる保護者からの信頼を失っていると言わざるを得ない。

小児科学会は、わが国で得られた最新の情報をもとに、小児におけるコロナワクチンの適応について再考するべきではないだろうか。