米地裁、生成AIと著作権の初判決2件でフェアユース認めるも1件は手続的理由

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生成AIの著作権訴訟で、待ちに待った最初の判決が出た。6月下旬、カリフォルニア北連邦地裁の2人の判事が、著作権で保護された書籍をAIモデルの訓練に使用することはフェアユースに当たるとする判決を相次いで下した。同地裁には13人の判事がいるが、原則として一人の担当判事が判決を下す。

米地裁、非生成AIによる著作権侵害訴訟フェアユース認めず」で法律情報サービス、ウェストローを所有するトンプソン・ロイターが、AIスタートアップのロス・インテリジェンスを訴えた事件を紹介した(以下、「ロイター判決」)。

この事件は記事のタイトルのとおり生成AIの案件ではない。判決で判事も、「AIを取り巻く環境が急速に変化していることから、今回の事案は非生成AIを対象にしていることを読者に注意喚起したい」と断わっている。このため、今回の2つの判決が生成AIに対する著作権訴訟の最初の判断となる。

日本の著作権法30条4は、情報解析のための著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用を認めるが、こうした機械学習のための権利制限規定のない米国では、生成AIによる著作権侵害についても権利制限の一般規定であるフェアユースで判定することになる。米国著作権法107条はフェアユースを主張する際に考慮すべき要素を挙げている。

  1. 利用の目的および性質(商業目的か非営利・教育目的かなど)
  2. 著作物の性質
  3. 著作物全体に対する利用部分の量および重要性
  4. 利用が著作物の潜在的市場または価値に与える影響

バーツ 対 アンスロピック事件

6月23日、オールサップ判事はアンスロピック社が自社のLLM(大規模言語モデル)の訓練のために数百万冊の海賊版書籍を使用したことは「極めて変容的」であり、それによって著作物の関連市場に影響を与えることはなかったと判断した(以下、「アンスロピック判決」)。

変容的利用について、米最高裁は1994 年のキャンベル 対 アカッフローズ事件判決で、①変容的利用(transformative use)、つまり別の作品をつくるための利用であれば、第1要素はフェアユースに有利に働く、②原作品を代替する可能性も低いため原作品の顕在的市場および潜在的市場にも影響を与えないので、第4要素もフェアユースに有利になるとして、パロディにフェアユースを認めた。

それ以来、変容的利用にはフェアユースが認められやすい。多くの新技術・新サービスで変容的利用が認められた(詳細は「日本のネット敗戦、真犯人は?」の図表2参照)。

アンソロピックはAIの訓練のために数百万冊のデジタル書籍を取得した。その多くは紙の書籍を購入してスキャンしたものであるが、かなりの数は「海賊図書館」からダウンロードされたものだった。これを知った作家たちが著作権侵害で提訴した。アンスロピックはフェアユースを主張した。

オールサップ判事は以下の三つの行為についてフェアユースの4要素を適用して検討した。

 訓練:判事は「著作物をLLM訓練に用いて新たな文章を生成させることは、本質的に変容的である」としてフェアユースと認めた。コピーの範囲も訓練には必要だったとし、市場に影響を与えていないとした。
 正規購入書籍のデジタル化:保存スペースの節約と検索性のためのデジタル変換は変容的であり、電子書籍市場を代替する意図はないとしてフェアユースと判断。

海賊版書籍のダウンロード:この点については著者側の主張を認め、「すべての要素がフェアユースに反する」とし、海賊版の永久保存について損害賠償と侵害の審理を行う方針を示した。

カッドレイ 対 メタ事件

アンソロピック判決2日後の6月25日、同じカリフォルニア北連邦地裁のチャブリア判事も、カッドレイ 対 メタ事件でメタのフェアユースを認める判決を下した。ただし、理由はオールサップ判事とは異なった。

13名の作家がメタを著作権侵害で訴えた。アンソロピックと同様、メタがコピー書籍のライブラリを使って生成AIを訓練したと主張した。「シャドウライブラリ」から書籍を取得したとされるメタはフェアユースを主張した。

チャブリア判事は市場希釈に関する実質的証拠が欠けていたため、コピー行為および訓練行為はフェアユースと判断した。メタの使用目的は「多様なテキスト生成・機能を持つ革新的ツールであるLLMの訓練」であり、原著作の目的(娯楽や教育のために読むこと)とは異なるとされた(以下、「メタ判決」)。

アンソロピック判決と異なり、同判事は「ダウンロードと訓練」をまとめて一つの変容的使用とみなした。利益追求や悪意ある取得が問題となり得ることは認めつつも、著者側の証拠が不十分であることを指摘した。

市場への影響に関しても、具体的な実証データがなかったため、判断を避けた。ただし、判事は「LLM訓練ほど市場に競合作品を氾濫させ得る著作物利用は他に存在しない」とも述べており、説得力ある証拠があれば異なる結論もあり得たことを示唆している。

判事は、アンソロピック判決にも言及しつつ、「オールサップ判事は変容性に重きを置きすぎて、市場への影響という最も重要な要素を軽視した」と批判した。このように第4要素の市場への影響についてもアンソロピック判決とは対照的な解釈を示した。

また、「本判決の影響は限定的であり、原告側が誤った主張をし、適切な証拠構築を怠ったにすぎない」と付言した。

今後の見通し

アンソロピック判決については、とりあえず海賊版の永久保存についての地裁での事実審理の行方が注目される。

また、両判決は同じ地裁で結論は同じでも、異なる理由にもとづく判断であること、メタ判決は判事も指摘するように敵失的な要因も加わっていることなどから、判決を不服とする著作権者(原告)が上訴する可能性は高い。冒頭紹介した非生成AIのロイター判決もAI企業(被告)が上訴。デラウェア連邦地裁を管轄する第3巡回区連邦控訴裁判所は先月、上訴を受理している。

さらに、他の生成AIの著作権侵害訴訟の行方も目が離せない。「生成AI『ただ乗り』批判のNYタイムズはなぜアマゾンと提携したのか?」で紹介したNYタイムズ 対 オープンAI・マイクロソフト事件のように、メディア業界とIT業界の巨人のガチンコ勝負となった訴訟も控えている。この事件も含め40件に上る訴訟の中には最高裁まで争われ争われる可能性のある訴訟もあり、戦いはまだ始まったばかりである。