外国人労働者政策:広報による国民的合意形成モデルの実装

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(前回:外国人労働者政策:司令塔機関に求められる視点

外国人労働者政策と情報公共インフラの構築

外国人労働者政策は、単なる労働力補填にとどまらず、国家戦略的な制度設計と位置付けられる。その根幹には、「社会的納得性の確保」と「政策運営の正統性の保障」があり、いずれも国民との合意形成を不可欠とする。

この点において、広報は単に「政府の意図を伝える技術」ではなく、政策そのものの社会実装を支える基盤、すなわち情報公共インフラを構築する行為だ。国民は広報によって政策の設計根拠、実行プロセス、論点構造を認識し、議論に参加する権利を獲得する。

広報制度の試案:司令塔機関における情報開示の構造

外国人政策に対し慎重な世論が根強い現状において、議論の活性化と政策推進の両立が求められる。そのためには、政府方針の明示のみならず、各政党の政策についても、ひと目で比較・理解できる形で公表される仕組みが必要である。

提案する広報制度では、次のような情報開示の枠組みを設ける。

【政府発表】政府として最低限公表すべき項目

  • 業界別の労働力不足状況と外国人の分野別受け入れ見通しを、中長期視点で定期公表
  • 本件に関する課題と整備計画の一覧、ならびに進行状況の随時更新

【各国政政党の発表】政党ごとの政策情報をわかりやすく比較できる仕組み

  • 政党別に、外国人の分野別受け入れ見通しを中長期で公表
  • 政党ごとの課題別政策概要を、必要に応じて更新し一覧で表示

政府発表のみならず、国政政党の政策や受入れ人数を一覧で確認できるという点において、まったく新しい試みとなる。

このような仕組みにより、政府・政党ごとの政策情報の「履歴をたどるように閲覧できる状態」(=ログのような時系列閲覧)を実現し、政策の変遷と一貫性を可視化できる。これによって国民の「知る権利」が確保されるとともに、報道機関が高品質な報道や討論企画を構築する際の素材ともなり得る。

この広報設計は、単なる「PR」ではなく、議論の素材を提供する「公共的な情報インフラ」であり、国民が政策を自ら考えるための基礎環境となる。

感傷的言説の克服と論理的正統性の創出

現在の外国人労働者政策に関する議論では、左右両極から「行き過ぎた受け入れに反対」「人間にファーストもセカンドもない」といった、数的根拠の乏しい感傷的な言説が先行し、構造的な政策論が十分に届かない状態が続いている。

こうした言説に対抗し、制度設計に基づく合意形成を促すには、政府が責任をもって「数値・課題・手続の情報」を開示する広報構造を整備し、「国民の参加によって形成される合意」の場を提供することが重要である。これは、民主制度の新たなモデル構築とも言える。

広報制度の実装が意味するもの

以上のような広報制度設計は、外国人政策のみならず、他の社会的争点にも応用可能な「合意形成モデル」として機能する。これによって、選挙時の論点整理や政治判断の合理性も向上するだろう。

もちろん、制度の導入には政治的・実務的なコストが伴う。しかし、それは「政策への国民参加の制度化」という理念に照らして、十分に投資に値するものである。

追記(政治的フェアネスの観点から)

なお、外国人政策に関する司令塔機能の必要性については、日本維新の会が比較的早期から提言しており、2025年8月2日放送のテレビ番組において吉村代表も「我々が最初に言っていた」と言及している。本稿では制度設計の議論を主軸とするが、こうした発言の先行性にも敬意を払いたい。

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