中野サンプラザ、今どうなってる? 白紙化から5カ月、再整備の現在地

加藤 拓磨

winhorse/iStock

2025年6月30日の野村不動産との基本協定解除(計画白紙決定)後、中野区は、新たな計画策定に向けた動きを進めています。

それまでの顛末の詳細は「サンプラザ再開発計画白紙へ:中野区議会からみた顛末」をご参照ください。

サンプラザ再開発計画白紙へ:中野区議会からみた顛末
動画でもご報告させていただいております。 1. 概略 中野サンプラザの再開発計画(総工事費2639億円)は2024年7月、施行予定者である野村不動産が東京都へ施行認可申請をした。その翌月8月に、突如して900億円超の増額...

1. 計画白紙決定とその背景

当初の再開発計画は、2025年6月19日の中野区議会で、野村不動産を代表とする施行予定者との協定を解除する議案が可決されたことにより、完全に白紙となりました。計画白紙の主な原因は、建設費の高騰などによる事業費の大幅な増大で、当初計画での事業成立性の維持が困難になったためです。

しかし、議会では、区と施行予定者間で計画の見直しが再三行われ、計画が二転三転した結果、東京都への事業認可申請が一年以上遅れたという事実も、白紙に至る大きな要因として指摘されています。

現在の状況と今後の予定(2025年11月現在)

中野サンプラザ西側にあった旧中野区役所の低層棟は解体され、2025年11月よりバスターミナルとして運用が始まっています。これは、新サンプラザの再開発とは別に同時並行で進められていた当初計画通りの整備です。

現在残っている旧中野区役所の高層棟(本体9階建て)は、来年度に解体設計を行い、再来年の解体が予定されています。

図1 中野駅新北口駅前広場整備に伴うバス停の移転
出典:建設委員会資料

一方、中野サンプラザは現在、具体的な計画がないため、当面その姿を残したままです。

中野区は、新たな再整備計画を具体化するため、以下の3つのステップで進める方針を令和7年6月現在で示していました。

  1. 区民・団体と意見交換を実施し、計画の基本方針や機能について意見を聞く。
  2. サウンディング型市場調査を9月~12月に実施し、民間事業者のアイデアと市場動向を把握する。
  3. 上記結果と社会情勢を踏まえ、2026年3月に再整備事業計画修正素案、事業スキームの方向性の報告をする。

しかしながら、3のスケジュールは以下のように建設委員会で変更が報告されております。

現在、区民との意見交換会は数回実施され、サウンディング型市場調査にフェイズを移していますが、ゴールポストは後退しております。この遅れの背景には、協定解除後、再整備計画の議論をどこまで遡るべきかについて、中野区行政、区民、議会の間で考え方がまとまっていないことにあると考えます。

中野駅周辺まちづくりの計画策定の歴史は長く、2006年の「中野駅周辺まちづくりグランドデザイン」まで遡ります。先のサンプラザ再開発の出発点となったのは2012年改定の「中野駅周辺まちづくりグランドデザインVer.3」であり、その後2018年「中野駅四丁目新北口地区まちづくり方針」、2020年「中野駅新北口駅前エリア再整備事業計画」が策定されました。

議論の遡り方について、中野区行政は2020年策定の「中野駅新北口駅前エリア再整備事業計画」まで、多くの区民・議員は2018年策定の「中野四丁目新北口地区まちづくり方針」までと考えているというミスマッチが、議論を停滞させている要因の一つと推察されます。

図2 「まちづくり計画の沿革」と「計画白紙後の議論の遡りライン」

また、現存する中野サンプラザの再利用を求める声も根強く、再利用と再整備それぞれのメリット・デメリットを客観的に評価した上での計画策定が求められます。

事業採算性も極めて重要なファクターであり、今後のサウンディング型市場調査の結果を基に、どのような建物が建設可能なのかを詳細に分析する必要があります。

3. 再整備計画が完成するまでの対処策

(1)現存サンプラザにデジタルサイネージ

私の提案で中野サンプラザの固定資産税2.2億円および、権利変換・売却を行う場合にかかる100億円の法人税は今後発生しないため、大きな財政効果を得ました。しかしながら現存するサンプラザを維持管理コストは年間3000~5000万円程度といったところです。その費用を埋めるため、デジタルサイネージで広告収入を得るものです。

中野サンプラザが閉館している今だからこそ可能な「壁面の活用」です。新宿や渋谷のようにサイネージが乱立するエリアと異なり、サンプラザに巨大なサイネージがひとつ設置されれば、特に中央線数十~百万人の乗客に向けた広告効果は極めて大きいです。

例えば、中野のアニメ関連企業の広告を想定し、サイネージを4分割して異なる4企業のキャラクターを同時に映し出すなど、中野区はアニメのまちであると話題性のある企画も可能で観光資源になりえます。加えて、中野四季の都市で開催されるイベント情報を流すことで、中野区全体のブランド力向上にもつながると考えます。

図3 中野サンプラザにおけるデジタルサイネージのイメージ

(2)隣接する中野セントラルパークのにぎわい強化

中野サンプラザの再開発は頓挫しましたが、地域のにぎわいを絶やすわけにはいきません。中野駅西側改札から四季の都市へ直結するデッキが完成すれば、にぎわいの動線は一層強化されます。

四季の森公園におけるイベント広場と芝生広場のレイアウトチェンジを提案します。

図4 中野四季の森公園の芝生・イベント広場入替の提案

現状、イベント広場は中学校や住宅に隣接しているため、酒類販売を主目的としない、煙対策を行う、騒音を伴うイベントは原則不可とされ、利用が限定、イベント事業者からの評判は芳しくありません。

一方、芝生広場については地下水位が高い、窪地により水はけが悪い、日射条件が悪いなど芝の成長不良や長期閉鎖が課題となっています。ちなみに後に紹介するPLATEAUでは日影を表示することが可能です。

図5 PLATEUを活用した日陰のシミュレーション

これらを総合的に解決するため、両広場のレイアウトを入れ替え、音の発生をエリアに閉じ込める志向性のある音響設備を活用した騒音対策や、中学校との距離を確保した飲酒可能な環境、日当たりがよい芝生エリアを整備することで平日イベント開催の実現が可能となります。デッキ工事が始まる今こそ、改めてこの提案を行うものです。

図6 現在の芝生広場に超指向性スピーカーを設置した際の騒音量シミュレーション

4. 今後の中野サンプラザ再開発へ向けての提案

以下は、筆者が区議会で中野区に対して行った具体的な提案です。

(1)分析ツールの活用

再開発において区民への説明責任を果たすためにも、区は事業の是非を迅速かつ的確に判断できるよう、様々な分析ツールを使いこなせる体制を整えるべきと考えます。

そこで3D都市モデル「PLATEAU」を活用することを提案しました。プロジェクト開始当初の2020年頃は、専門知識がなければ扱うことが難しい状況でしたが、近年「PLATEAU VIEWER」が大きく進化し、知識がない区の職員でも活用可能、直営での検討を実現します。ビューアは誰でも無料でブラウザから利用でき、手軽に都市空間を把握できます。

一方で、プロ仕様としては高度なソフトウェアの専門的知識を要しますが、ソフトは無料で入手できるため、発注業務においては、十分に導入検討の余地があります。

PLATEAU VIEWERの利用は非常に簡便で私自身、過去にGISソフトを扱った経験があり、半日ほどで主要な機能を習得できました。GISに触れたことがない方でも、一定のITリテラシーがあれば1〜2日程度で使いこなせると考えます。

PLATEAU VIEWERに中野区の情報はすでに実装されており、例えば「1000年に一度」とされる想定最大規模降雨、いわゆるレベル2洪水時の浸水深、建設の用途の色分け表示が可能です。

図7 中野区の建物データ(色分け:L2洪水時の浸水深)

図8 中野区の建物データ(色分け:用途)

中野駅北口周辺の再開発をVIEWER上でシミュレーションする場合、現存する中野サンプラザや旧区役所を取り除き、任意の高さのビルやアリーナを配置できます。

図9 中野駅北口周辺(中野サンプラザ・旧区役所あり)

図10 中野駅北口周辺(中野サンプラザ・旧区役所なし)

図11 中野駅北口周辺(150mビル設置)

図12 中野駅北口周辺(150mビル・アリーナ)

(2)旧サンプラザの収益構造の客観的分析

現存する中野サンプラザの再利用の可能性について、区は真摯に検討していないのではないかという疑念が、区民との信頼関係を損ねる原因となっています。

例えば、固定資産税および株式会社まちづくり中野21の借入金利子分の支払いが不要になったことによる年間4億円以上の収益試算を区が否定しなかったにもかかわらず、説明資料では年間純利益が平均1~2億円の表記が据え置かれています。

そのため区が中野サンプラザの再利用の可能性について真剣に検討していないという根本的な疑念を生じさせ、民との信頼関係を損ねる原因となっています。

例えば旧サンプラザではどのセクション(レストラン、ホテル、バンケット・会議室、結婚式場、オフィス、ホール、テナント、ボーリング場、フィットネス・プール・テニスコートなど)の利益が高かったのかなど、収益構造に関する客観的かつ詳細な分析をすることで説明責任を果たすとともに、次期サンプラザの参考にすべきです。

図13 中野サンプラザを再利用した場合の課題
出典:[中野駅新北口駅前エリアのまちづくりに関する意見交換会と説明会]資料

(3)最新アリーナの運営手法に学ぶ

アリーナの機能や運営手法を調査するため、中野区議会建設委員会(委員長:著者)は10月30日に兵庫県神戸市の「GLION ARENA KOBE」を視察しました。GLIONとは神戸市に本社を構える、輸入車及び国産車合わせて30ブランドの正規ディーラー事業を主とした企業で、ネーミングライツによるものです。

同アリーナ開発は2011年策定の「港都 神戸」グランドデザインより始まった港湾開発の一部です。アリーナ事業主体はNTT都市開発、スマートバリュー、NTTドコモで、収容人数11,000人、敷地面積は約23,700㎡、延床面積は約32,200㎡です。

主な用途はバスケットボールチーム神戸ストークスのホームゲーム、音楽興行、スポーツ興行、e-sports、式典、法人イベントなどです。バスケットボールの年間30試合に加え、いくつかの音楽興行が観覧できる10人のVIPシートは1千万円を超える金額でも全200席分が完売、年間収益の大きな確保に繋がっています。

同アリーナは神戸市から30年の定期借地、民設民営であり、30年間の経営で黒字を出さなければなりません。今年4月の竣工ですが、現在のところ、動員計画を上回る好調な結果を出しています。

サンプラザ再整備におけるアリーナはお荷物の施設ではなく、独立採算でドル箱であると考える施行予定者でなければ、共に歩いていけません。施行予定者にはアリーナを黒字運営できるノウハウが不可欠です。

GLION ARENAの建築面積は粗々な計測ですが約12,500㎡、大きさは140m×90m程度、一方、サンプラザで従前アリーナ建設を予定していた北側の土地の形状は140m×110m程度であり、GLION ARENAと同等もしくはそれに準ずるサイズのアリーナ建設が可能性です。敷地面積は双方同サイズです。

アリーナのサイズ等の検討にあたり、B.LEAGUE新B1リーグの2026-27シーズン以降は収容人数5,000人以上、かつスイートルームの設置の基準が参考になります。また2025年のバレーボールネーションズリーグ日本ラウンドの会場である千葉ポートアリーナの収容人数は7,512人です。

定期借地権とした場合、どのようなアリーナが建設可能か、サウンディング型市場調査を実施すべきと考えます。

(4)大きなビジョンを描く

2025年11月21日、アメリカ大使館商務部のフォーラムに招待され、北広島市副市長の講演を拝聴しました。

令和5年に北広島市にできた日本ハムファイターズのエスコンフィールドHOKKAIDO誘致のため、北広島市は都市計画公園条例を改正し、きたひろしま総合運動公園に限り建蔽率を40%、さらに立体駐車場で10%の上乗せ、敷地の一部を商業利用できるように公園区域から外すこと、新駅設置および駅周辺の整備を北広島市が担うことなどを日ハムに提案しました。

図15 エスコンフィールドHOKKAIDO
出典:北広島市HP

またエスコンフィールドの計画メンバーの方が紹介した都市計画家ダニエル・ハドソン・バーナムの「Make no little plans」という名言が今の中野区に必要だと考えます。

「小さな計画など立ててはならない。それは人の血を騒がせるような魔力をもたず、それ自体も恐らく実現しないだろう。壮大な計画をつくるのだ。気高く理にかなった図式は、ひとたび記録されれば決して絶えることはなく、我々が消え去った後も生き続けるものとなり、常に成長し続けていくのだということを忘れずに,希望を高く掲げ、働こう。あなたの合言葉は秩序であり、道標となるものは美である。」

中野区には血を騒がせる大きなビジョンがありません。

中野区がこの先、「中野サンプラザの建替」や「中野駅周辺の再開発」といった大きな変革期を迎える今だからこそ、その計画を「ただの箱物づくり」や「小さな利害調整」で終わらせてはなりません。