12月12日のNature誌のNews欄に「China leads research in 90% of crucial technologies — a dramatic shift this century」と言うタイトルの記事が出ていた。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)がまとめたもので、中国が74項目の国家の利益を左右する重要技術に関わる研究のうち、66項目(89%)に相当する分野で世界をリードしているというのだ。この中には、核エネルギーや小型衛星などが含まれる。
21世紀初頭には、米国が対象技術の90%以上で首位で、中国がリードしていた分野はわずかに5%未満だったものが、2024年には立場が完全に逆転した。米国が今でも優位に立っている分野は、量子コンピューティングや気候工学など、わずか8分野にとどまっているそうだ。これは世界的危機的状況と言えるのだが、日本には危機感が乏しい。
中国のこの大逆転劇は、長期間の研究開発投資による世界最先端の論文発表の増加によるものだ。自国が注力してきた「先端・新興技術」において特に強みを発揮している。日本のように省庁の担当課長の気まぐれで始め、課長が変わるとすぐに投げ出すようなシステムでは、世界に勝てるはずもない。
高市総理は「日本を世界にてっぺんに!」という。そうなって欲しいが、「なぜ、日本が急激に失速してきたのか」の根源的な理由を把握して解決しない限り、日本の浮上はない。その理由は明らかなのだが、指摘されることは稀だ。
- まずは、長期的なゴール・目標がないこと
(50年後の世界を予測することが不可欠なのだが、目先のことに追われて、足元だけを見て判断している。長期的目標がないから、スピード感がなく、何かをしているふりだけなので、さらに遅れていくのだ。遅れを取り戻すのではなく、30‐50年後には世界の頂点に立つための発想と計画が必要なのだ) - ゴールを目指すためには1年単位ではなく、少なくとも5年単位の年次計画が必要
(細々と、そして、ちまちまと評価しても時間の無駄である。もちろん長期的なビジョンがなければ、中期的な計画はできない。年度計画に追われているゲノム医療など、この典型的な事例だ) - その分野で信頼できる人物をリーダーにして最低でも5年間は任せる
(専門家でもなく、ビジョンのない人たちが評価しても何の役にも立たない。単なる雑音にしかならないようなコメントをすると、計画のブレーキや障害物になっても、アクセルや後押しにはならない) - 周辺環境の変化に対してフレキシブルな運用を任せる
(これだけ変化が急激な時代に、中長期計画に盛り込まれた各年度の計画などに固執すれば、時代遅れとなる。生成AIが登場して3年になるが、5年前の予想・想像をはるかに超える変化が起きている現実を見ればわかるはずだ) - 必要な予算を確実に確保する
(必要とされる予算の半分や10分の1の予算でとりあえず様子を見るなどという悠長な姿勢で失敗し続けてきた現実を直視すべきである。5年ですべきところを10年もかければ、計画が達成されたとしても世界から取り残されるに決まっている。イノベーションが重要と言うが、どうすればイノベーションが生まれるのか、なぜ、日本からイノベーションが生まれないのか、何の反省もない。イノベーションには速さが不可欠だ)
世界で最も最先端のことを考えている人がいれば、凡人が評価できるはずもない。イノベーションは一種の大きな賭けから生まれる。この賭けに投資する民間人・民間企業がいてこそ、真のイノベーションは生まれるはずだ。
90%の可能性が謳われている計画に賭ける?風土の日本の企業ではイノベーションを生むのは厳しい。90%の可能性があれば、賭けと呼ぶものではないのだが、日本では10%失敗のリスクがあれば賭けるレベルだと誤解しているようだ。
たとえ1%の可能性であっても、それに投資することを「賭け」と呼ぶ。ただし、口のうまい詐欺師に騙されないことが肝要だし、目利きが重要だ。
このまま中国がリードし続けると世界はどうなってしまうのか?と不安が広がる。

習近平国家主席 中国共産党新聞より
■
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年12月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。







