黒坂岳央です。
いま、世界は「モノの値段」が上がるフェーズから、「人の価値」が劇的に上がるフェーズへと移行している。筆者はこのトレンドを「人命インフレ」と呼びたい。
世界規模の少子高齢化と労働者不足が極まる中、社会の構造、そして個人の人生はどのように作り変えられていくのか?
単なるイチ個人による考察に過ぎないが、考えてみたい。

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AIは人口減少を救うのか?
「今後、人口減少が続いても、AIが仕事を奪うから問題ない」という予測を非常に多く見る。現在はクリエイティブの領域でそれが起きており、今後はロボティクスに波及していく流れは確かに正しい。ボトルネックはエネルギーだが、それも時間の問題と見る専門家もいる。
だが、すべてがAI化は今すぐではない。
ここがポイントである。事務職やクリエイティブは人々が想像もしない速さで置き換えられていっているが、たとえば士業は法律で守られていたり、医療行為も同様に参入障壁は大きい。
「どうせAIが仕事を奪うから自分は生活保護で暮らしてもう何もしない」といっても、仮に生きている間に仕事が奪われない場合は想定シナリオが変わることもあり得る。
また、技術的には置き換え可能でも、エネルギーコストの問題で人間がやった方が低コストとなれば、ロボットではなく人間が仕事をすることになる。人間のエネルギーは食べ物だが、カロリーとエネルギー効率を考えると大変コスパが良く、ロボットがこれを上回るのはすぐではないだろう。
そうなると、人口減少はやはり社会構造を大きく変化させるシナリオは既定路線といえる。AIに絶望して完全に仕事をやめてしまうのは、まだまだ早すぎると思うのだ。
人命インフレで起きる社会のマクロ変化
人が希少資源になると、社会構造は大きく変わる。
労災や過労死は「個別の悲劇」ではなく「国家的な経済損失」と再定義され、ブラック企業は人材確保ができず淘汰される。また、資源戦争の次に来るのは、若く有能な人口の奪い合いである。
SNSではまるで「日本は少子化の代表選手」のような感覚を受けるが、韓国(0.7台)、中国(実態1.0未満)と比べ、日本(1.2前後)は東アジアでは相対的なまだ持ちこたえており、治安と文化を武器に「選ばれる国」になる余地を残している。だが平均年齢は高く、移民の受容力も高いとは言えないので年齢構成は厳しい。
また、人口増加が続く米国は出生率1.6で、人口や経済発展は移民に支えられている。
人命インフレが続けば、世界中で若い働き手が奪い合いになっていく。特にインフラ周りの体力仕事は高齢者は難しいので、競争も苛烈になる。
求められる人、そうでない人
人口減少で人命は一律にインフレする。だが、非常に残酷な現実として求められる人とそうでない人は大きく分かれるだろう。
その最大の起点は「生産できる側」かどうかということだ。人命に上下はない!とお叱りを受けそうだが、どの国も若い労働力は欲しがるが、80歳の高齢者を積極的に受け入れする国はないことからもそれが分かる。結局、国家も企業も実利で動いているので、求められるのは「生産できる人」なのだ。
また、現在は「子供は負債」という意見もあるが、「育児は投資」という感覚に変わっていく。国家にとって子どもを持つことは最大級の社会貢献という認識となり、公的支援は大きくなるだろう。
これは言い方を変えれば、生産という社会貢献が出来る人材は手厚い厚遇を受けられる一方、そうでない人は冷遇されるという対応に格差が生まれることを意味する。
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人命がインフレする社会は、一見すると人権が尊重される優しい社会に見える。しかしその本質は、「ただ存在すること」ではなく、「どう存在するか(生産への寄与)」が厳しく問われる社会である。
現在はまだまだ人口が分厚いので、セーフティーネットがあるわけだが、支える人が減れば状況も変わってくるだろう。「働かない自由」という意見もあるが、強烈な物価インフレでやがて難しくなり働かざるを得ない未来が来ると思っている。望む望まないに関わらず、人が減るというのは強い圧力が伴うのだ。
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