
結論から言う。専門性がなくても、年収は上がる。
いきなり何を言い出すのかと思われるかもしれないが、これは実体験から出た確信だ。
「転職は人生の一大イベント」「専門性を極めないと稼げない」──そんなふうに考えていた時期が、私にもあった。というか、かなり長い間そう信じ込んでいた。
「ゆる転職 リスクを抑えて年収1000万円を目指せる生き方」(外資系うさぎのちょこさん著)ダイヤモンド社
でも違った。地方のIT企業、外資系、コンサル業界。いろんな現場で会ってきた人たちの中に、ひとつの会社に長くいたわけでも、突出した専門性を持っているわけでもないのに、年収を上げて、自分に合った働き方を手に入れている人間はごろごろいた。
RPGに例えるとわかりやすい。勇者でも魔法使いでもない。ごく普通の村人。この本を手に取ってくださった方の多くも、たぶんそうだろう。大企業勤務でもなければ、特別な肩書があるわけでもない。私もそうだった。
ゲームなら、村人が魔王を倒すなんて無理ゲーだ。でも現実はゲームじゃない。経験値の積み方を工夫すれば、パーティーの末席くらいには滑り込めるチャンスがある。十分にある。
ただし、だ。戦士や僧侶と同じ戦い方をしたら負ける。当たり前だ。村人には村人の戦い方がある。
筆者(私自身)の話をさせてもらう。バブルの末期に就活をした世代だ。就職には困らなかった。知名度の低い上場企業なら、会社説明会の場で内定が出た。そういう時代だった。
で、私が選んだのは議員秘書だ。偉そうなことを言うつもりはない。ただ、日本の中枢は政治だと思った。だから政治の現場に飛び込んだ。内定をもらった実績があるんだから、ダメなら民間に行けばいい。そんな甘い計算もあった。
数年後、議員が落選した。世の中はすでに氷河期の真っ只中である。「議員秘書やってました」が転職市場でどれだけ不利か、想像がつくだろう。いや、不利どころか、面接官が困るのだ。何をどう評価していいかわからない、という顔をされる。
後日聞いた話だが、ある面接では私が一人で1時間近くぺらぺら喋っていたらしい。面接官は一言も挟めなかったそうだ。まあ、落ちた。当然だ。
レベル1の村人が、いきなりフィールドに放り出された状態。まさにそれだった。
転機はお世話になった方々への挨拶まわりだった。「コンサルの会社があるんだけど、行ってみないか」と紹介してもらった。面接では、コンサルの知識なんかアピールしなかった。できるわけがない。
代わりに「自分がいかにお金になるか」だけを訴求した。体感的に、「お金の匂いのする人間」は採用されやすい。政治の世界で学んだ、数少ない実用的な知恵だ。
これが「ゆる転職」の原体験になった。頑張って、スペシャリストと同じ土俵で戦うのではなく、自分の持ち札で勝てる場所を選ぶ。
環境選びとスキルの掛け合わせで、再現性のある仕組みをつくる。「何もしなくてもラクして年収1000万」なんて話じゃない。ちょっとしたコツと、ある程度の頑張りは要る。でも、フルコミット一択の時代は終わった。
村人のまま、魔王を倒しに行く方法はある。戦い方を変えればいい。それだけだ。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)









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