イラン・ハメネイ師の後継者選びが始まった

世界に約14億人の信者を誇るローマ・カトリック教会は昨年5月、フランシスコ教皇の死を受け、教皇選出会(コンクラーベ)を開催し、米国人のロバート・フランシス・プレボスト枢機卿(現レオ14世)が新教皇に選ばれたことはまだ記憶に新しい。そして今日、イスラム教シーア派の盟主イランで最高指導者ハメネイ師が2月28日、米・イスラエル軍の空爆で殺害されたことを受け、新たな指導者の選択が急がれている。コンクラーベと比べ、どのようにして新しい精神的指導者が選ばれるか、その舞台裏は外部の世界には少々不透明だ。

ラマダンの始めを祝福するイランのべゼシュキアン大統領、イラン大統領府公式サイト、2026年2月18日

イラン護憲評議会の報道官は1日に国営テレビで、「ハメネイ師の死去を受け、新たな最高指導者の選出を迅速に決定する。法律に基づき、戦時下の状況を鑑み、可能な限り早期に任命されるだろう」と述べた。

ハメネイ師の顧問を務めていたモハメド・モフベル氏によると、マスード・ベゼシュキアン大統領、ゴラム=ホセイン・モフセニ=ジェヒ司法長官、そして護憲評議会メンバーのアヤトラ・アリレザ・アラフィー氏の3人が、移行期間の責任を負うことになるという。この3人トリオが、88人の有力聖職者で構成される専門家会議が後任を任命するまで、ハメネイ師の職務を引き継ぐ。モフベル氏は、「憲法に基づき、専門家会議は直ちに新しい指導者を選出し、発表しなければならない」と述べた。

パリ亡命中のホメネイ師が帰国し、イランでイスラム革命が発生、1979年に現在のイスラム聖職者支配体制が始まった。ホメネイ師の死後、高位聖職者から成る委員会は1989年、2代目の最高指導者にハメネイ師を選んだ。その後、約37年間、イランはハメネイ師時代を過ごしてきた。

イランではハメネイ師は単に精神的指導者だけではなく、内政、外交、社会政策までほぼ全分野で最終決定権を有する立場だった。そのハメネイ師がイスラエル空軍の空爆で死亡した。最高指導者が空席のままでは、イラン全般の指導メカニズムが停滞してしまう。

アラクチ外相は1日、アルジャジーラに対し、「1、2日中に最高指導者の選出が見られるだろう」と強調、「イスラム共和国の体制は指導者の危機に対処できるよう設計されており、個人に依存しない。後継者は、88人で構成される専門家会議によって決定される。専門家会議は8年ごとに国民によって選出される高位聖職者で構成されている」という。

専門家会議メンバーは、ローマ教皇を選出できる有資格者、80歳未満の枢機卿に当たる。カトリック教会の場合、バチカン市のシスティ―ナ礼拝堂で開かれるコンクラーベで投票が実施されるが、イランの場合、88人の専門家会議メンバーからどのようにして指導者が選ばれるかは不透明だ。

公式に指名された後継者はいないが、ハメネイ師は昨年、イスラエル軍の空爆を予想し、自身の後継候補者を指名したといわれている。後継候補として挙げられていた人物には、ハメネイ師の息子モジタバ氏と、共和国建国者の孫であるハッサン・ホメイニ氏が含まれている。その他の有力な聖職者には、治安部隊長アリー・ラリジャニ氏の弟であるサデグ・ラリジャニ氏、専門家会議メンバーのモフセン・アラキ氏、そしてテヘランの指導者アフマド・ハタミ氏がいる。

ちなみに、イスラエル軍は1日、「次期指導者候補者の数人を空爆で殺害した」と報じた。イスラエル側は次期指導者候補者を可能な限り殺害する意向と見られる。ということは、88人の専門家会議メンバーの中で進んで指導者に選出されることを願う勇敢な聖職者が出てこないかもしれない。そうなれば、次期指導者の選出が後れ、イラン指導部が混乱に陥ることは必至だ。

ヘグゼス米国防長官は2日、ダン・ケイン統合参謀本部議長との共同記者会見で、「イランにおける政権交代は戦争目的ではない」と述べたが、トランプ米大統領はイランの体制転換を願っている節がある。トランプ米大統領は、イランへの地上部隊派遣を全面的に否定していない。ニューヨーク・ポスト紙に対し、トランプ大統領は「地上部隊派遣を恐れてはいない」と述べている。体制交代を実現するためには空爆だけでは十分ではないからだ。

イラン指導部は迅速に次期精神的指導者を選出し、新しい指導者のもと国民の結束を強化し、現政権の存続を図るか、米・イスラエル両国軍のイラン攻撃で現支配体制が根本から破壊されるか、時間の戦いだ。

トランプ大統領はイラン国民に政府転覆のために行動を起こすべきだと発破かけているが、イランの反体制派は分裂しており、統一された指導者は不在だ。

イラン問題専門家は「国家指導部内部の蜂起なしでは政権交代はあり得ない」と解説している。しかし、エリート層にも革命防衛隊(IRGC)にも、まだ亀裂は見られないという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年3月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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