
高市自民党が単独で衆院の3分の2を掌握し、参院で否決されても「自民党だけで再可決」して法律にできる状況が生まれた。あくまでも理論上の話だが、歴史から比喩を出すと、これは党が国家を所有したのと同じである。

その唯一のよい効果は、アカデミアやエスタブリッシュメントで “だけ” 主流な言論を、誰も信じてないし、なんならむしろ「逆が正しい」と思われている現実を、あからさまにしたことだろう。
なにせ、歴史学者の「頂点」のようにメディアが扱ってきた人が、いま言うことがこれだ。

加藤陽子・東京大教授
投開票日は全国的に雪が降り、豪雪地ではお年寄りや障がいを持つ方などが投票に行きたくとも行けない事態も起こりました。日本史において雪は、桜田門外の変や二・二六事件を想起させます
朝日新聞、2026.2.13
(強調は引用者)
AIだってもっとマシな例を想起するよ。
あの選挙を見て、検索するワードが「雪」だけな識者ってヤバいやろ。
みんな覚えてるかな? 5年半前の2020年秋には、この人を「うおおお学術会議の会員にするべき!」と叫ぶのが知性の証明みたいに振る舞う学者たちが、SNSでドヤってたことを(笑)。
過去を現在と適切に類比する点で、AIよりできの悪い人物を代表者に担いだ果てが、これだ。歴史学の「要らない学問」ぶりがこうまで晒されるのは、昔の同業者として、慙愧に堪えない。

そうは言っても歴史は続くので、誰かが書き継がなければならない。
前回紹介した『正論』4月号では、高市自民党の圧勝をもたらした中道改革連合の大敗について、そもそも立憲民主党の凋落を決めた「歴史の画期」に遡って論じた。これこそが正しく、選挙の後に歴史家がやるべき仕事だ。

とはいえ、ぼくが言うと信じない人もいるので、きちんとした政治学者の分析をまず引こう。

柔軟さを失った理由の一つは、ジェンダーや人権の問題でラディカルな立場の議員の存在もあったと思う。……左派の磁場というものは凄まじい。未成年者との性交をめぐる発言から、男性議員を離党・辞職に追い込んだこともある。
寛容なはずのリベラルを掲げながら不寛容になり、国民の素朴な肌感覚と乖離してはいなかったか。
『週刊ポスト』2.27&3.6号
(段落を変更)
言及されているのは、2021年の夏に起きた本多平直議員の一件である。あくまでも刑法の改正時に過度な厳罰化や冤罪を生まないかを懸念した想定問答が、あたかも「変態性欲」のように歪めて拡散された果ての事件だった。

立憲主義を掲げるリベラルな政党が、国家が刑罰を強化することの副作用について、ブレインストーミングを省略するなどありえない。実際に人権派弁護士などのコアな支持層は、当時からSNSで性急な処分を批判していた。
なのになぜ、(本人も弁護士の)枝野幸男代表ら当時の執行部は、一方的に本多氏を追放したのか。さぁみなさん行きますよ、「実証」に基づき歴史の扉をいま、オープンッ!!
延期された東京五輪を控えた21年の春は、日本のSNSにおけるキャンセルカルチャーのピークだった。「女性の理事は話が長い」の失言で森喜朗氏が五輪組織委会長を辞任に追い込まれ、女性差別的と見なされた歴史学者がネット署名の圧力で職を追われる「オープンレター事件」も起きていた。
敵だと見なした相手をオンラインで集団的に攻撃するキャンセルカルチャーを主導したのは、立民(や共産)の支持層と重なるSNS上のリベラル派だ。多くは無名・匿名の有象無象だが、中には知られた識者もおり、とりわけフェミニズムと親和性が強い。
『正論』2026年4月号、74頁
(算用数字に変更)
こうした支持層を、『正論』の寄稿では「トクリュウ・リベラル」と命名している。匿名・流動的な形でわらわら押し寄せ、私刑を振るい暴力と脅迫で要求を満たしては、散り散りに霧消して姿を消す、恐るべき集団だ(震)。
……が、匿流強盗団の中でもこの人たちだけは、すぐ捕まる。
なぜなら、自らメンバーリストを勤務先つきで公開し、オンラインで1年間も放っておいたからだ。控えめに言って、頭が悪い(失笑)。

こんなネットの有象無象に支持基盤の軸足を移し、SNSでよしよしされて勝てる気になったことが、21年秋の衆院選で立憲民主党を敗北させた。要は、自ら「トクリュウ化」した支持層に食い物にされ、自滅したようなものだ。
同党をキャンセルされた本多氏は、翌22年の『文藝春秋』6月号で真相を明かしている。上記で検索してもらうとわかるが、党内で法案を練る場で同氏を非難した島岡まな・阪大教授は、オープンレター署名者である。
有名な話だけど、冒頭で引用した加藤陽子・東大教授も、オープンレターズである。どんな顔をしてリベラルの壊滅と、高市圧勝をメディアで憂えているのか、(いちおう)面識のあるぼくにもちょっと想像できない。

なにより、いま本多氏の手記を再読して苦みが走るのは、オープンレターの発端だった「鍵アカウント内での発言を持ち出す」のと同様の行為が立憲民主党内でも行われていた事実と、それを主導した人の名前である。

性交同意年齢引き上げに強い思いを持った寺田座長がこのWTをスタートさせ、引き上げ派には今度こそとの思いがあったはずだ。少数派ながら理詰めで問題提起を続け、議論の流れにも影響を与えていた私は、邪魔な存在だったのだろう。
寺田座長は、私と同様の主張をしていた他の議員の発言についても、勝手に悪意ある要約をしてネットに掲載するなどしていた。これに私は、「そのやり方はおかしい。反論があれば会議内でするべきだ」と主張していた。
しかし寺田座長は、慎重派の意見を意図的に外に漏らすことで、自分に有利に議論を進めたいとの思惑を隠していなかった。
『文藝春秋』2022年6月号
「寺田座長」とは、民主党政権で首相補佐官(菅・野田内閣)を務め、リベラル派の未来のホープとされた寺田学議員だ。2025年には「妻の政治活動を優先するため」、主夫になるとして政界引退を表明し、周囲を驚かせた。
それはひとつの夫婦のあり方として、いいことだろう。が、こちらがその奥さんだ(苦笑)。
旧民主党のほか、元は社民・共産にも支援される野党統一候補だったが、「女性だから」として高市政権支持に転じ、いまは自民党会派である。
こうして、オープンレターズ周りのトクリュウ・フェミニストに依存したリベラル政党は、なにも残さずに滅亡した(涙笑)。彼らが肥やしたものはすべて、「史上初の女性首相」に攫われた。
いやぁ、よかった。これでオープンレターは、永遠に日本史に刻まれる。
そして匿流強盗団がハゲタカ的についばんだSNSに残ったのは、攻守を反転させた地獄のような荒野だ。もっともっと、その火力は強まるだろう。
そう。署名を残し、生涯逃げ場のない彼らの骨が、黒焦げになり粉々に焼け落ちるまで。
キャンセルカルチャーの弊害が知られたいま、SNSでも「キラキラしたリベラル」の評判は悪い。参政党や高市自民党を悪魔化し、「騙される有権者は愚かだ」と罵り続ける彼らこそ、すっかり社会で浮いている。
自分を見下しながら「票だけよこせ」と驕る識者に、ついていく人などいない。
中道改革連合の再生は、立民支持層を蜃気楼にしたトクリュウ・リベラルとの絶縁からだろう。
前掲『正論』4月号、76頁
なお、濱川栄氏は非署名者の模様
参考記事:


(ヘッダー右がレターの署名者・島岡まな氏、左は呼びかけ人・津田大介氏。2021年6月、本多議員への処分を論じるポリタスTVより)
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2026年3月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。







コメント