高市首相が訪米した。SNSを見ると、国際政治学者の方々が言葉を尽くして高市首相を激賞している。テレビなどでも、学者や評論家が「素晴らしい成果だ」と最大限の賛辞を送っているという。
選挙の前にも、こうした現象が見られた。しかし、現実の評価を度外視し、パフォーマンスのレベルで外交の成否を論じることには大きなリスクがある、と私は感じる。
高市首相の訪米が成功だった理由は、「ホルムズ海峡に自衛隊を送れ」とトランプ大統領に怒鳴られるかと思ったが、怒られなかったからだ、という。自衛隊を送らないのに怒られなかったのだから、すごい成果だ、というわけである。

日米首脳会談2026年3月20日 トランプ大統領と高市首相 同首相Xより
しかし、少し立ち止まって考えてみてほしい。現在、ホルムズ海峡に軍艦を送っている国は一つもない。送ると言っている国すらない。アメリカ自身ですら行っていない。イランの攻撃能力を考えれば、軍艦を送った程度でタンカーを守れるわけではない。そのような作戦は実施が極めて困難であるため、実際には誰も行っていないのである。
しかもイランは、「イスラエル・アメリカ・その同盟国」の国籍の船舶の通行を認めないとしつつ、その他の国籍の船舶の通行は認めている。そのため、中国、インド、トルコ(NATO加盟国ではあるが)などの国籍の船舶がホルムズ海峡を通過していることが確認されている。
もし現在、軍事行動を前提としてホルムズ海峡に軍艦を送り、イランとの交戦状態をこの海域に作り出せば、こうした非米国同盟国の船舶の通行まで妨げてしまうことになる。結果として、かえって海峡の交通量を減らしてしまう可能性が高い。
こうした客観的事情を無視して、「自衛隊をホルムズ海峡に送らないのにトランプ大統領に怒られなかったのはすごい」と評価するのは、トランプ大統領の恫喝型の「ディール」の術中にはまった見方だと言わざるを得ない。
実行が困難な要求を、まず弱い立場の相手に強い口調で突きつける。そしてそれを取り下げ、あたかも譲歩したかのように振る舞う。
これは、たとえば強盗が「100万円出せ」と言った後で、「まあ1万円で許してやってもいい」と言ってくれたので、ありがたく1万円を差し出す、というような話である。
他の国々は、このような見え透いたディールの枠組みには簡単には乗らない。しかし日本では、トランプ大統領が恫喝的な要求を取り下げてくれたという理由で、むしろ安堵してしまった。そしてアラスカの原油の共同開発・備蓄や先行投資など、アメリカへの資金投入の話を大きく約束してきた。
もちろん日米同盟は重要である。しかし同時に、アメリカだけを見ていればすべてがうまくいく、という時代ではないこともまた明らかである。
アメリカは国力を低下させるなかで、焦りから自ら管理できない戦争にのめり込み始めている。一方、日本もまた国力を低下させている。その焦りの中で、日本はアメリカ一辺倒の、視野の狭い外交の隘路に入り込みつつあるように見える。
日本は第二次世界大戦後、長くアメリカに従属してきたとも言われる。しかし、ここまで疑問なく「アメリカ一辺倒の外交で全てうまくいく」と政治家、官僚、学者、評論家、ジャーナリストが思い込んでいる時代が、果たして過去にあっただろうか。
私は、日本がこのような姿勢のままでこれからの時代を乗り切っていけるのだろうか、という疑問を強く抱いている。
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【参照記事】
- 日本駐留米軍が中東の戦争に派遣:日本人が知っておくべきこと 篠田 英朗
- 戦争に興奮する学者・評論家たち 篠田 英朗
- 宗教戦争の様相を呈するアメリカ・イスラエルのイラン攻撃 篠田 英朗
- イスラエルと米国のイラン攻撃を見て日本人が考えるべきこと 篠田 英朗
- 野党は「穏健」勢力として生き残れ 篠田 英朗









コメント
篠田先生のご指摘、本質を非常に鋭く突いていると感じます。
ホルムズ海峡への自衛隊派遣要求が「実行困難な恫喝」であり、その撤回を「外交成果」と評価する構図への疑問は、冷徹な論点として傾聴に値します。またイランが「米・イスラエル・同盟国籍」以外の船舶通行を認めており、軍艦派遣がむしろ交通を阻害しかねないという指摘も、見落とされがちな重要な視点です。
ただ、「代替ルートの現実性」という観点が議論から抜け落ちている点は補足したいと思います。ホルムズ依存度を下げる手段は既に複数存在しており、その実効性を踏まえた上でなければ、危機の深刻度も外交判断の適否も正確には評価できないからです。
たとえば——
– **ペトロライン(サウジ東西原油パイプライン)→ヤンブー港**:IEAも言及する最大の迂回幹線で、稼働中かつ輸送量5〜7mb/d規模。ただし紅海周辺の安全保障が変数。
– **喜望峰回り**:主要船社が既に採用する現実的な海上バックアップ。輸送量は十分だが、UNCTADが指摘するとおり航海日数・コスト増が確実な課題。
– **豪州・東南アジア等からのLNG**:日本のLNGにおけるホルムズ経由は全体の約6.3%とも言われ、LNGに限れば構造的な非依存化はかなり進んでいる。
– **米国産原油・LNG→パナマ運河→アジア**:ポテンシャルは大きいが、パナマの船型・スロット制約がボトルネック。
– **ロシア極東(サハリン2等)**:距離・コスト面では有利だが、制裁・政治リスクが現実の「供給継続性」を左右する。
これらを総合すると、原油よりもLNGの方が相対的にホルムズ依存度が低く、危機対応の回路が多いと言えます。
逆に言えば、原油面での依存解消はなお難易度が高く、その意味でホルムズをめぐる外交的緊張を軽視することもできません。
「アメリカ一辺倒への批判」と「エネルギー安全保障の具体策」は車の両輪であり、
後者の議論なしに前者だけを語っても、政策論としては片手落ちになりかねない——そう感じています。
(追伸。原発さっさと動かせ→自民党)