金融機関はなぜ不正な中小企業を支え続けるのか

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日本の中小企業をめぐっては、法令違反、ガバナンス不全、慢性的な低収益といった問題を抱えながらも、金融機関からの融資が継続されているケースが少なくない。

経営が改善していないにもかかわらず、資金供給が続くこの構造は、生産性向上や産業再編を阻害する要因の一つとなっている。なぜ金融機関は、経営構造に問題を抱える企業への融資を止められないのだろうか。

第一の理由は、金融機関の評価指標が過去の実績に強く依存している点にある。融資判断では、担保、不動産価値、過去の返済履歴といった定量指標が重視され、将来の事業競争力や経営体制の健全性は評価しにくい。結果として、経営構造に課題があっても、返済実績が維持されていれば「問題なし」と判断されやすい。これは、金融機関のリスク管理制度が事業モデルの転換を評価する仕組みになっていないことを意味する。

第二に、既存債権の保全というインセンティブ構造がある。すでに融資残高を抱える企業が経営不振に陥った場合、追加融資や条件変更によって事業を継続させる方が、貸倒れを顕在化させるよりも短期的には損失を抑えられる。結果として、抜本的な事業再編よりも、現状維持型の金融支援が選択されやすくなる。この構造は、金融機関自身が再編を先送りする合理的動機を持っていることを示している。

第三に、地域金融の役割が雇用維持と強く結びついている点も大きい。地方において中小企業は主要な雇用主であり、倒産や事業縮小は地域経済に直接的な影響を及ぼす。金融機関は単なる資金供給者ではなく、地域経済の安定装置としての役割も期待されているため、企業の退出を促す判断を下しにくい。結果として、経営改善よりも雇用維持が優先され、構造改革が後回しにされる。

第四に、金融と経営支援の制度分離も問題である。金融機関には「事業性評価融資」の重要性が繰り返し求められてきたが、実際に経営構造を変えるための専門人材や権限は十分に付与されていない。経営改善計画の策定支援は行われても、取締役会構成の見直しや事業ポートフォリオの再設計といったガバナンス領域に踏み込む制度的権限はなく、金融機関が事業再編を主導することは難しい。

この結果、日本の中小企業金融は「延命支援」と「成長支援」を同時に担わされる矛盾した役割を負うことになる。本来であれば、成長可能性の高い企業にはリスクマネーを供給し、そうでない企業には再編や退出を促す役割分担が必要である。しかし現行制度では、金融機関がその線引きを行うインセンティブも権限も持たない。

さらに、政策側の期待も一貫していない。金融機関には「地域経済を支えよ」と求める一方で、「生産性向上を支援せよ」とも求める。しかし生産性向上は必然的に企業数の減少や雇用移動を伴う。政策がこのトレードオフを正面から認めない限り、金融機関は現状維持型行動を選び続けることになる。

問題は、金融機関が不適切な判断をしていることではない。制度と評価軸が、事業構造転換よりも現状維持を合理的選択にしている点にある。この構造を変えない限り、どれほど「成長支援」を唱えても、金融は中小企業の生産性改革に本格的には寄与しない。

中小企業金融を改革するためには、融資判断にガバナンス評価や事業ポートフォリオ評価を組み込み、再編や事業譲渡を前提とした金融支援を制度的に位置づける必要がある。また、金融機関単独では担えない再編機能を、政策金融や専門再生機関と連動させる仕組みも不可欠となる。

生産性の低い企業が温存され続ける限り、賃金は上がらず、価格決定権を持つ企業も増えない。金融はその構造の中心に位置している。中小企業金融の役割を「資金供給」から「産業再編の媒介」へと再定義しない限り、日本経済の停滞は解消されないだろう。

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