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前回、企業不動産を「事業不動産」「準事業不動産」「投資不動産」「非事業不動産」の四つに分類できることを示した。この整理によって、自社が保有する不動産の役割は初めて可視化される。

では、その先に問うべきは何か。
それらの不動産は、企業の資本効率にどのような影響を与えているのか。この問いである。
「不動産が多いと資本効率が下がる」という通説の罠
企業が不動産を多く保有すると資本効率が低下する——。この見方は広く共有されている。投資家はROICやROAを重視し、重厚な固定資産を持つ企業を「資本効率の悪い会社」と評価しがちだ。
しかし、この議論にはある種の粗さがある。
資本効率の本質は、「どれだけ資産を持っているか」ではない。「その資産がどれだけの利益を生んでいるか」である。
例えば同じ100億円の総資産を持つ2社があったとして、一方が10億円の利益を生み、他方が2億円しか生まない。この差こそが資本効率の差であり、問題の本質は資産の量ではなく、資産の「稼ぐ力」にある。不動産においても、この視点は変わらない。
非事業不動産だけが問題である
とはいえ、不動産が資本効率を下げやすいという指摘に一定の合理性があることも事実だ。
不動産は多額の資金を必要とし、流動性は低い。そして前回の分類でいう「非事業不動産」——遊休地や未活用資産——は、利益を生まないまま資本だけを占有する。これは資本効率を押し下げる典型例であり、批判の矛先が向くとすれば、まずここである。
問題は不動産を保有すること全般ではない。本来稼げるはずの価値ある不動産を寝かせたままにする、すなわち稼がない不動産を、稼がせないまま放置していることだ。
事業不動産は「稼ぐ装置」である
一方、事業不動産はまったく性格が異なる。
工場、物流施設、本社ビル——これらは単なる土地や建物ではない。製品を生み出し、売上を構成し、利益を創出する中核的な経営資源である。収益力の高い製造拠点であれば、その不動産は「高い利益を生み出す装置」として機能している。この場合、不動産は資本効率を下げるどころか、企業の稼ぐ力を支える基盤となる。
投資不動産もまた同様だ。賃貸ビルや賃貸マンションは、製造業のような高い利益率を生むわけではないが、安定性と予見可能性という固有の価値を持つ。事業不動産が「高収益型」であるとすれば、投資不動産は「安定収益型」であり、いずれも「稼ぐ不動産」であることに変わりはない。
準事業不動産の「見えにくい価値」
見落とされがちなのが、準事業不動産の評価である。
社宅や福利厚生施設は、直接的な収益を生まない。表面的には資本効率を押し下げる要因に見える。しかし実態は単純ではない。社宅があることで人材確保が可能になり、福利厚生が従業員満足度を高め、結果として生産性が向上する。間接的に企業収益に貢献するルートが存在するのだ。特に地方拠点においては、この間接効果は無視できない規模になることがある。
準事業不動産は、単純な収益だけでは測れない「見えにくい価値」を持つ資産である。これを一律に「非効率」と断じるのは、経営の解像度を下げることに等しい。
本当の問題は「分類せずに持っていること」だ
ここまで整理すると、論点は明確になる。
不動産が資本効率を下げるかどうかは、不動産の種類と使い方によって決まる。問題は不動産を持つことそのものではない。分類せずに持っていることだ。
事業不動産、準事業不動産、投資不動産、非事業不動産——それぞれ役割も収益構造もまったく異なる。にもかかわらず、これらを一括して「固定資産」として扱ってしまうと、活かすべき資産が活かされず、見直すべき資産が放置される。これが、多くの企業における不動産マネジメントの実態である。
企業にとって重要な問いは、「不動産を持つか、持たないか」ではない。「保有する不動産を、どう使うか」である。
役割に応じた判断——事業不動産の収益性を高め、投資不動産の安定収益を維持し、準事業不動産を戦略的に活用し、非事業不動産を見直す。この思考回路こそが、CRE(企業不動産戦略)の出発点となる。
不動産は「重たい資産」ではない。使い方次第で、企業価値を高める戦略的経営資源となる。
次回:不動産は「持つ」べきか、「手放す」べきか
では、企業はどのような基準で不動産を保有し、あるいは手放すべきなのか。すべてを持ち続けることが正解なのか、売却して資本を再配分すべきなのか。次回は「持つ・貸す・売る」という意思決定の基準について論じる。







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