政府は「ナフサは足りている」「在庫と代替調達で供給は継続できる」と説明している。ところが現場では、塗料、接着剤、シンナー、包装資材、住宅設備、医療用チューブなどが不足し始めている。
カルビーがポテトチップスのパッケージを白黒の2色印刷に切り替えるというニュースは、その象徴である。なぜ政府の説明では「足りている」のに、町工場や塗装業者、住宅設備メーカーの現場では「足りない」のか。

マクロとミクロの食い違い
答は単純である。政府が見ているのはマクロの総量だが、現場が必要としているのはミクロの資材だからだ。ナフサは原油を蒸留して得られる石油化学の基礎原料である。「産業の血液」と呼ばれる重要な基礎原料である。プラスチック、塗料、接着剤、合成ゴム、包装フィルム、医療用チューブ、住宅用の塩ビ管など、私たちの生活のあらゆる製品に使われている。
ただし、ナフサはそのまま家庭や工場で使えるわけではない。ナフサからエチレンやプロピレンなどを作り、そこから樹脂、溶剤、塗料、接着剤、フィルム、チューブへと加工される。
政府が「ナフサは足りている」と言うとき、それは原料全体の量を見た話だが、現場の塗装業者が欲しいのはシンナーや塗料である。住宅設備メーカーが欲しいのは接着剤や塩ビ管であり、医療機器メーカーが欲しいのは滅菌チューブやカテーテルの材料である。
つまり「原料はある」と「現場で使える製品がある」はまったく別の話なのだ。小麦が穀倉に十分あっても、明日の朝に必要なパンが店頭に並ぶとは限らない。それと同じで、ナフサや樹脂ペレットが統計上存在していても、それが塗料や接着剤にすぐ変わるわけではない。
サプライチェーンはボトルネックで止まる
もう一つの問題は、日本の石油備蓄の中身である。日本には250日分を超える石油備蓄があるとされる。しかし、その中心はガソリン、軽油、灯油、重油などであり、ナフサは備蓄義務の対象外だった。民間のナフサ在庫はもともと薄く、通常在庫は短期間分しかない。
つまり、政府が「石油はある」と言っても、それは必ずしも「ナフサ由来の塗料や接着剤がある」という意味ではない。ここに、政府説明と現場感覚の大きなズレがある。政府はマクロの数字を見る。原油はある。備蓄もある。代替調達も進めているので「足りる」という。
しかし現場はミクロで動いている。必要な日に、必要な規格の、必要な量の塗料が届かなければ仕事にならない。住宅設備メーカーも、接着剤が1種類足りないだけでシステムバスを出荷できない。医療機器も、チューブや包装材がそろわなければ製品にならない。サプライチェーンはボトルネックで止まるのだ。
ガソリン補助金がナフサ不足を悪化させる
さらに厄介なのは、政府のガソリン補助金である。政府はガソリン価格を抑えるため、ガソリンなどの燃料に毎月5000億円以上の補助金を出している。これは石油取引額の1/3に及び、石油のサプライチェーンに大きな影響を及ぼしている。
原油価格が高騰するなかで、燃料には補助があるが、ナフサなどの原料には補助がない。精製会社から見れば、確実に利益の出るガソリンをつくり、ナフサの生産を減らすインセンティブになる。結果として、ナフサ由来の石油化学製品にしわ寄せがいくのだ。
ナフサ由来の資材が不足すると、流通の現場では割当配給が始まる。限られた在庫を誰に回すか。商社や卸は当然、取引量が大きく、長年の関係があり、支払い能力も高い大口顧客を優先する。その結果、中小の塗装業者、町工場、部品メーカーには資材が回りにくくなる。
政府が「資源配分のゆがみ」を作り出している
今回の問題を単純な「ナフサ不足」と呼ぶと、少し誤解を招く。正確には、総量不足と同時に、資源配分のゆがみが起きている。政府がやるべきことは、まず資源配分をゆがめているガソリン補助金を廃止し、価格メカニズムを機能させることだ。
それでも買い占めなどによるゆがみは残るので、それを「見える化」する必要がある。どの資材が、どの地域で、どの業種に、どの程度不足しているのか。大企業には回っているが中小企業には回っていないのか。医療や重要インフラを優先した結果、どの分野にしわ寄せが出ているのか。商社や卸の在庫はどこで滞留しているのか。
政府が「ナフサは足りている」と言うのは、マクロの数字としては間違いではないが、「足りている」と現場に「届いている」は違う。この違いを理解しないかぎり、政府の説明は現場に届かない。白黒になったポテトチップスの袋は、日本のサプライチェーンが色を失い始めていることを示すシグナルなのだ。







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