企業不動産は誰のためにあるのか:事業・財務・承継という三つの問い

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(CREが変える経営財務 ③)

企業が保有する不動産は、誰のためにあるのだろうか。

経営者のためか。創業家のためか。会社のためか。あるいは、まだ名前も知らない後継者のためか。

一見すると自明な問いに見える。しかし、企業不動産をめぐる経営判断の多くは、この問いが曖昧なまま放置されていることから歪み始める。

前回は、企業不動産には簿価・税務評価・実勢価格・担保価値という複数の価格が並存することを整理した。

企業不動産はどう評価すべきか:簿価・時価・収益価値の違い
(CREが変える経営財務 ②)企業が保有する不動産には、複数の「価格」が存在する。固定資産税評価額、相続税評価額、公示地価、実勢価格、取引価格——それぞれ異なる数字が並ぶ中で、経営者はどの価格を拠り所にすべきなのか。この問いに対して、多くの...

では、その複数の価格を踏まえたうえで、企業は不動産を何のために保有し、誰のために活用すべきなのか。ただし、「誰のためか」という問いは、単に利害関係者を特定する問いではない。その不動産が、企業のどの価値に貢献しているのかを問うことでもある。

本稿では「事業」「財務」「承継」という三つの軸から考えてみたい。

不動産は経営者個人の資産ではない

中小企業では、企業不動産と経営者個人の資産感覚が混在していることがある。本社ビル、工場用地、倉庫、駐車場、賃貸不動産。それらは会社名義であっても、創業者にとっては長年の事業の歴史が刻まれた資産であり、「会社の財産」と「自分の財産」の境界が溶けていることは珍しくない。その感覚自体を否定する必要はない。

しかし、会社が保有する不動産である以上、それは本来、個人の所有感覚だけで判断されるべきものではない。企業不動産は、企業価値を高めるために存在する経営資源である。この前提を外すと、不動産判断は感情と慣習に流されやすくなる。

「先代から引き継いだから残す」「売るのはもったいない」「いつか使うかもしれない」——こうした言葉は理解できるが、それだけでは経営判断として機能しない。

事業のための不動産

第一に、企業不動産は事業のためにある。工場、物流施設、本社、店舗は、売上と利益を生み出すための装置である。しかし重要なのは、「事業に使っているから保有すべき」と短絡しないことである。

立地は適切か、規模は過大ではないか、将来の事業戦略と整合しているか——これらを問い続けなければ、不動産は事業の資産ではなく、事業の惰性になる。事業不動産は「持つこと」ではなく、「事業にどう機能しているか」で評価されるべきである。

財務のための不動産

第二に、企業不動産は財務のためにもある。担保価値や含み益は、企業の信用力や資金調達余力を支える要素になり得る。安定した賃料収入は、キャッシュフローを補強する。

しかし同時に、収益を生まない遊休地は固定資産税と管理コストを発生させ、資本効率を低下させる。簿価は低くても時価が高い不動産は含み益という財務余力を生む一方、売却時には税負担が顕在化する。財務の視点では、担保価値・収益性・流動性・税務影響・資本効率を総合的に判断する必要がある。

不動産は、財務を支えることもあれば、財務を重くすることもある。この両面性を見ないまま保有判断を続けることは、経営リスクを内包することになる。

承継のための不動産

第三に、企業不動産は承継にも影響する。中小企業の事業承継では自社株評価が核心的な問題になるが、その評価に影響する要因の一つが会社保有の不動産である。長年保有してきた含み益の大きな土地は、評価方式によっては株価評価を押し上げ、後継者の税負担を重くすることがある。

つまり、不動産は承継を支える資産であると同時に、承継を難しくする資産にもなり得る。特に問題となるのは、事業にも使われず、収益も生まず、ただ保有されているだけの不動産である。こうした資産は会社評価を高める一方、後継者にとっては引き受けにくい負担として残る。

承継において重要なのは税負担を下げることではない。承継後の会社が健全に経営を続けられる資産構造になっているかである。企業不動産は、承継戦略の一部として位置付けなければならない。

誰のためか、という問い

ここまで見てくると、企業不動産は単一の目的で存在しているわけではないことが分かる。ある不動産は事業を支え、ある不動産は財務を支え、ある不動産は承継に影響する。そして、もはやどの役割も果たしていない不動産もある。

だからこそ、企業不動産を考える際には、「これは誰のための不動産か」という問いを立てる必要がある。経営者個人の安心感のためか。会社の事業成長のためか。後継者への円滑な承継のためか。この問いに答えられない不動産は、経営資本としての役割が曖昧になっている可能性が高い。

企業価値向上のための資産である

企業不動産は、経営者個人の資産でも、会社が漫然と持つ固定資産でもない。それは、企業価値を高めるための経営資源である。事業を支え、財務を安定させ、承継を円滑にし、将来の成長を支える。そのように機能して初めて、企業不動産は意味を持つ。

問われるべきは、不動産を「持っているか」ではない。誰のために、何のために、どのように機能しているか、である。企業不動産を経営資本として捉えるとは、この問いを避けずに考えることにほかならない。

次回は、こうした判断がなぜ機能しないのかを論じたい。テーマは「なぜCRE戦略は失敗するのか」——不動産判断と経営判断が分断される構造的な理由である。

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