トランプ米大統領や高市首相、中央銀行総裁といった政策当事者自身も政治、経済情勢の展開を読めなくなっています。苦し紛れか、意図的に嘘をつくことも多く、専門家やメディアには本音を読み解く責任があります。
日銀はやっと政策金利を0.25%上げ、1.0%としました。1ドル=160円を超す円安でインフレを加速する情勢です。日銀副総裁が記者会見で「原油価格の上昇を起点に価格転嫁が早いスピードで進み、消費者物価の上昇に波及していく」と述べました。日銀の対応は遅すぎるのです。

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「日銀は模範解答」と持ち上げる専門家集団
「模範解答です。今後の利上げも示唆し、市場に波乱を起こさせない安全運転の解答でした」と述べる専門家がおりました。なんで模範解答なのと思いました。なんで当局者の本音にもっと切り込まないのか。
高市政権の本音は、インフレ状態のほうが消費税、法人税収が増えるから歓迎という「インフレ・ホクホク」にあります。メディアも大方の専門家も、政権に遠慮しているのか「インフレ税」という端的な表現を使わない。「インフレ税」が欲しいから利上げに難色を示してきたと指摘してほしい。
日経新聞は「影の日銀総裁はベッセント米財務長官」(18日朝刊)という舞台裏の解説記事を掲載しました。「5月11日、訪日した長官が片山財務相に『いま金利を上げた方が将来の上げ幅は小さくて済む』と助言した」というのです。利上げをしたくない高市政権にクギを差したのです。やはりそうでしたかと思わせる記事でした。
日本のインフレが加速し、将来、急ピッチの利上げに迫られると、米国債市場にも影響が及ぶことを懸念しているのです。米中首脳会談の直前に訪日したのは、高市政権に圧力をかけるためでした。情けない。日本自身が決めるべき利上げも自分で決められない。
アベノミクスの失敗と明言しなくなった日本
もう一つ、メディアにも専門家の言動にも欠けているのは10年にわたる異次元金融緩和(アベノミクス)の後遺症についてです。国債発行残高が1100兆円を超え、その半分を日銀が保有しているという世界に例を見ない異常な財政状態について言及しても、「負の遺産」をもたらしているのはアベノミクスの失敗のせいだと明言しない。「もう終わったことだ」というのでしょうか。
新聞社説では「追加利上げに向けては、影響の分析を深めることが欠かせない」(読売)、「政権が日銀の正常化に難色を示せば、市場のインフレ懸念を刺激しかねない」(日経)と指摘しています。さらに踏み込んで「金融、財政正常化で身動きがとれなくなっているのは、財政ファイナンス(日銀による国債購入)、円安によるインフレを生んできたアベノミクスの罪である」と断言すべきなのです。高市政権に対する遠慮は目に余る。
注目したいのは、米FRB(中央銀行)のウォーシュ新議長の今後です。トランプ大統領下でも、中央銀行の独立性を守る意思が強いようで、さらにマネー市場との対話方法、情報発信の見直しを含む組織改革を進めるという。高市政権、植田日銀総裁も学ぶべきでしょう。
情報がなくても当局者の意図を読み解け
驚いたのは新議長の情報発信の簡素化の方針に対する日本のメディアの懐疑的な反応です。「金利を据え置いた今回の決定に関する声明文では、文言を半分にし、政策の先行きを示すフォワードガイダンスも削除した。情報発信の簡素化を市場は不安視している」(読売)と懸念しています。
日経社説も新議長に「市場が情報を得られず混乱を招くようでは困る」と、注文をつけています。両紙ともおかしいと思う。中央銀行からの発信がなくても、金融当局の政策、市場の動向を読み解くのが市場関係者、メディアの役割です。懇切丁寧な説明を頼りにしていると、市場の反応が一本化し、多様な反応が得られなくなる。市場の役割とは、多様な動きがぶつかり合うことで生み出される結果が「市場の解」なのです。
今回の日本の利上げは、かなり前から日銀が示唆しており、ほとんどのメディア、市場関係者は金融政策会合の決定を織り込み済みでした。情けない。日銀に事前の情報発信を期待する、フォワードガイダンスを待つようでは、市場の機能は果たせない。この両紙の社説には失望しました。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年6月20日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。







コメント
記事の指摘は鋭い。
しかし「政府は税収が増えるからインフレを歓迎している」「米財務長官に圧力をかけられたから利上げした」とまで言い切るのは、証拠が足りないと感じました。
確かに、インフレは名目税収を増やします。「結果として政府が得をする面がある」ことと、「得をするためにわざとそう仕向けた」ことは、まったく別の話です。前者は事実として指摘できますが、後者は推測にすぎません。
アベノミクスについても同じです。
長期の金融緩和で日銀の国債保有が膨らみ、金利の正常化が難しくなった点は、厳しく検証すべきだと思います。
けれども、日本の政府債務はアベノミクス以前から増え続けていました。
今の問題をすべてアベノミクス一つの責任にしてしまうのは、原因の単純化だと思います。
金融政策の責任と、財政政策の責任は、分けて考える必要があります。
### いちばん反論したい点
そして、いちばん反対したいのは、日銀が事前に利上げを示し、市場がそれを「織り込み済み」だったことを「情けない」と切り捨てている部分です。
金融政策の目的は、市場参加者との「当てっこ競争」に勝つことではありません。
政策の変更をあらかじめ予測できるようにして、不要な混乱を避けることにも、ちゃんとした意味があります。
今回のように、円安が進む不安定な状況で、パニックを起こさずに利上げを実現できたのなら、それはむしろ評価されてよいはずです。
もちろん、記事が言うように、細かすぎる情報発信は危険です。
市場が中央銀行の一言一句に依存しすぎると、みんなの判断が同じ方向に偏ってしまいます。
しかし逆に、情報を絞りすぎれば、一部の関係者だけが有利になり、政策の説明責任も弱くなります。
FRBの新議長の声明が簡潔になったことは事実ですが、「簡潔」と「不透明」は同じではありません。