野党は「日本のイスラエル化」に結束して反対せよ

戦後という時代も80年を越え、高市政権が “脱・戦後” へと爆走しているのを、誰もが知っている。だが問題は、走った果てにどこまで行くかだ。

あまり意識されないが、日本の戦後と180度逆の軌跡を歩んできた国は、イスラエルである。ぼく自身、最初に気づいて発言したのは、昨年の参院選のころに細谷雄一さんと共演した際だった。

冷戦後の「自由のインフレ」が、デフレに転じつつある(BSフジに出ました)|與那覇潤の論説Bistro
昨秋に亡くなった際にも書いたけど、ポスト冷戦期に出た西尾幹二さんの『全体主義の呪い』(1993年)という本が好きである。西尾先生本人を好きかというと、色々あって微妙なんだけど、まぁそれはどうでもいい。 ベルリンの壁が崩れ、「自由」を手にした...

確認するまでもないが、日本は憲法を押しつけてくれる(?)くらい、民主化に熱心なアメリカの庇護の下で新たな国を作り、1952年に独立を果たす。このとき隣国はものすごい戦争のさなかだったが、基本は知らんふりだ。

逆にイスラエルは、すでに内戦状態に近かったパレスチナの統治をイギリスが放り出して、1948年に独立を宣言し、その翌日から(周辺国全部が攻めてきて)いきなり戦争である。国のかたちが逆を向かない方がおかしい。

イスラエルが秘密裏に核武装し、軍事大国化を完了したのは1968年ごろと見られる。一方で日本は同じころから、集団的自衛権の「行使は違憲」の解釈を定着させ、いわゆる “一国平和主義” の国是を確かなものにしていく。

篠田英朗氏の有名な『集団的自衛権の思想史』を引きつつ、例によってなんでも書いてある本でも描いたように、

平成育ちによるはじめての決定版平成史『平成史―昨日の世界のすべて』與那覇潤 | 単行本 - 文藝春秋
平成育ちによるはじめての決定版平成史 『知性は死なない』『中国化する日本』で知られる歴史学者による、小泉純一郎から安室奈美恵まで網羅した30年間の見取り図。『平成史―昨日の世界のすべて』與那覇潤

ベトナム戦争に「巻き込まれる」ことへの懸念が革新勢力を高揚させていたこの時期、佐藤栄作政権は内閣法制局(高辻正己長官)と協働して、むしろあらゆる集団的自衛権の「行使自体が違憲」とする憲法解釈へ舵を切ってゆきます。

米軍基地から北ベトナムへの爆撃機が日々発進中だった沖縄の返還を見越して(72年に実現)、「日本の参戦は絶対にあり得ない」と国民に確約するための措置でしたが、そのことは必然的に、石原〔慎太郎〕さんを自民党でも最右翼の異端」へと追いやってゆきました。

そうして参入した昭和の国政で揉まれ、一度は傷つき敗れ去ったはずの身体が、平成なかばの都政にふたたび召喚された。こうして「患者」が甦る一方で、逆に言語の使い手たる「分析医」のほうが自死に至ってゆく。

178頁(強調と改行を追加)

最後の段落は、1999年の4月に石原慎太郎が都知事になり、7月に江藤淳が自殺したことを指しているが、ここで始まった戦後には「異端だったものの主流化」の果てに、いまの高市政権がある。

国が亡び、父が消えたあと、人はどう生きるのか:『江藤淳と加藤典洋』序文③|與那覇潤の論説Bistro
戦後80年の今年4月、特使として米国との交渉に臨む赤沢大臣が、トランプ大統領との対面に感動して「格下も格下」と自称し、MAGAキャップ姿の写真も撮られて、物議をかもす騒ぎがあった。 「大臣は格下じゃない」立民・徳永エリ氏、「格下」発言に苦言...

戦後の日本人は自国の軍事的な強権化を不安視し、国連はじめ多国間での調停に期待するが、イスラエルはまるで逆である。自国の軍事力だけを頼みにし、国際法も国際機関も一切信じない。

集団的自衛権の問題が示すとおり、戦後日本の平和主義とは「アメリカの戦争に巻き込まれない」ことだが、イスラエルが平和と見なすのは「自国の戦争にアメリカを巻き込んで」、彼らにとっての脅威を除去することだ。

イラン攻撃「ほぼ全員がトランプ氏の直感に従った」、ネタニヤフ氏が説得・ベネズエラ成功で自信…反対バンス氏のみ
【読売新聞】 【ワシントン=阿部真司】米紙ニューヨーク・タイムズは7日、米国が対イラン軍事作戦に踏み切るまでの経緯を伝えた。トランプ大統領はイスラエルの説得で攻撃に傾き、政権内で明確に反対を訴えたのはバンス副大統領のみだったとしてい

高市首相が自衛隊派兵に前のめりだったとする報道の、真偽が確定するのはまだ先だろうが、「うおおおッ、”脱・戦後” するには俺たちのSANAE!」な世相を放置して、行くところまで行けば日本だってイスラエルになる。

そんな噂まで飛ぶ宰相がバカなのかは(たぶんそうだけど)、問題の本質じゃない。戦後を転覆しようとする「異端」のエネルギーがコントロールを失い、逆の極端にぶち当たり大破するまで、止まれない時代の構造こそが最大の罠なのだ。

高市首相、月刊誌報道「完全な誤報」 「自衛隊派遣検討」も否定:時事ドットコム
「完全な誤報だ」。高市早苗首相は7日の参院予算委員会で、今井尚哉内閣官房参与にホルムズ海峡への自衛隊派遣を止められ、「羽交い締めにされた。許せない」と解任の意向を政府関係者に漏らしたとする月刊誌「選択」の報道を否定した。立憲民主党の杉尾秀哉...

…と、戦後史の視野で語り下ろす番組が、ニュースの争点のYouTubeに上がっている。事態の本質をえぐるためにこそ、違う角度の分析を採り上げてくれるのは貴重で、このご時世ありがたい。

なんせ文藝評論家を自称しつつ、専門外のことは「TVに出てる人を信じるしかありません」と勝手に白旗を上げる例まであるのが、令和である。特に後半では、そうではない「戦後という教養」の豊かさを伝えているので、ぜひ見てほしい。

いま「核使用」に最も近い国はどこで、日本はどう向きあうのか|與那覇潤の論説Bistro
イラン戦争の混迷はいよいよ、ぼくら日本人のなじんだ世界の "終わり" を証明したようだ。TVで見る専門家たちの多くが、米国(とイスラエル)が軍事力で圧倒する展開を前提に論じてきたが、事実としてそうなっていない。 ぐだぐだと続く停戦交渉でも、...

動画で訴えるのみではない。前にも紹介した『公明』7月号のインタビューでも、同じ観点から中道改革連合に直接、アドバイスを送っている。

タイトルは、まさに「”原理主義を抑える” 中道政治の本懐をいまこそ」。

ニセモノの民主主義が、定数削減で国会を「パンなきサーカス」に変える|與那覇潤の論説Bistro
その気になれば衆院での再可決を使って、自民党だけでなんでも決めれる勢力図を先日「党が所有した国家」に喩えたが、いよいよそれが牙をむく気配がある。ご存じの、定数削減の問題だ。 衆議院比例代表45議席の定数削減 野党5党がそろって反対(2026...

ウクライナに戦車や戦闘機を送れば、日ロ関係は断交同然となり、ロシア産の原油やLNG(液化天然ガス)を輸入する道が断たれた可能性もある。そうならなかったのは、戦後の平和主義が武器輸出を禁じてきたが故の「ビギナーズ・ラック」でしょう。

その恩恵を中東発の石油危機のいま受けているのに、「左の平和主義はやめるのが右の仕事」と思い込むのは、保守政治でもなんでもない。冷戦が終わり複雑化した国際情勢には適合しない、かつての左右のロールプレイ(役割演技)を、無自覚に続けるだけの「ゾンビ戦後」の政治です。
(中 略)
もし集団的自衛権をフルスペック化していたら、トランプ大統領から事前に打診が来て、爆撃に加わってくれと言われたかもしれない。日米同盟を尊重しつつ、そうした日本が「イスラエル化する未来には、はっきりノーを言う。中道がその姿を見せるのを、多くの人が待っています。

『公明』2026年7月号、23-4・28頁

絶対護憲の主張のように「戦後のままでいるべき」という立場もあるし、それはそれでいい。だがもっと重要なのは、たとえ “脱・戦後” が必要でも、イスラエルまで行ったらあかんやろという感覚にこそ、広範なコンセンサスがあることだ。

最左派のれいわ新選組が反イスラエルなのは有名だし、極右と呼ばれがちな参政党も、イラン戦争に関しては支持しないと明言してきた。「日本をイスラエルにするな」こそが、野党がまとまれる最大の結節点なのだ。

参政党・神谷代表、イラン巡るトランプ政策は「党としては反対」米のイラン攻撃は「大義大きくない」 - スポーツ報知
参政党は22日、国会内で記者会見を行い、神谷宗幣代表(48)が米トランプ大統領のイラン政策に反対の意向を改めて示した。

そうした大きな航海図を与えてくれるのが、目の前の速報に一喜一憂せず、(相対的にはそれでも短いが)戦後という時間軸を採って現在を捉え返すことで生まれる、歴史というものの意義だ。

その道を進むなら、”脱・戦後” の針路を適切に調整できる。なんなら極限まで暴走する政権を、民意に基づき交代させることも可能になる。

トランプの戦争を支持しない日本人は、どんな野党を育てるべきか。|與那覇潤の論説Bistro
米国とイスラエルのイラン攻撃に対する、日本の世論がはっきりしてきた。幸いなことに反対派が圧倒的な多数だが、興味深いのは2003年にイラク戦争が始まった際との比較である。 イラン攻撃「不支持」82% 首相姿勢「評価せず」51% 朝日世論:朝日...

逆に、SNSでイラッと来た “違う立場” すべてに当り散らし、「うおおおッ、アイツをキャンセルする俺ら意識タッカー!」するだけの面々がまとわりつくかぎり、野党やリベラルは歴史のゴミ箱に向けてまっしぐらに進む。

それでも、日本のリベラルは「キャンセル」を選んだ|與那覇潤の論説Bistro
かねて話題の「自国の国旗損壊罪」の創設に関して、国民民主党の玉木代表が、久しぶりにリベラルなことを言っている。 「もっと日本人信じたら」「賛成しかねる」 国旗損壊罪に玉木氏 | 毎日新聞 国民民主党の玉木雄一郎代表は2日の記者会見で、自民党...

さぁ、いま、どちらを選ぶか。

もちろん答えは、はっきりしている。すでに正解は出ており、ずっと誤答を続けた戦犯が、自らのメンツで「まちがってないかもしれない」と引責を繰り延ばしているだけだ。彼らの損切りが間にあうか、時間との競争である。

参考記事:

イランにアメリカが敗れるとき、第二次世界大戦の「長い戦後」が終わる。|與那覇潤の論説Bistro
イラン戦争の帰趨はまだ不透明だが、それがアメリカの凋落を世界に晒したことはまちがいない。みんなすぐ忘れるから思い出しておくと、3月6日の時点では、トランプはお得意の「無条件降伏」をSNSで要求していた。 トランプ氏、イランに「無条件降伏」要...
ウクライナ戦争は「もうひとつの戦後日本」だったのか|與那覇潤の論説Bistro
憲法記念日にはあらゆるメディアが、1日限定の「護憲・改憲」操業に入るわけだが、読むべき中身はほぼない。その理由もはっきりしている。 「平和憲法を守れ」という知識人は、平和憲法を守ろうと思っている読者が必ず読む『世界』という雑誌にみんな書いて...

(ヘッダーは1948年、第1次中東戦争に向け訓練するイスラエルの民兵。Googleより)


編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2026年7月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください

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