ATPはガソリンだと習ったが本当にそうか?

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(前回:水を食べる? 最初はどうかしてると思った

学校で習ったことを疑うのは、骨が折れる。

生命のエネルギーとは何か。答えは決まっている。糖や脂質の化学エネルギーがATPという「通貨」に変わり、それが分解されて体が動く。ATPは体を走らせるガソリン——そう教わったし、そう覚えた。テストにもそう書いた。丸をもらった。

この説明、間違っていない。念のため言っておくが、まず間違っていない。「宇宙のエネルギーが」なんて言われて眉に唾をつけたくなる人は、とりあえずここに立っていればいい。私も長らくそうだった。今も片足はそこに残している。

ところが本書は、その先にもう一枚、扉があると言う。開ける前に、三つの思い込みを床に置いてこい、と。

一つ、ATPそのものがエネルギー源だ。二つ、エネルギーは栄養素の内側から出てくる。三つ、代謝とは燃焼である。——どれも学校で刷り込まれた三点セットだ。これを、いったん手放せという。正直、手放すのは怖い。長年信じてきたものほど、そうだ。信じるより疑うほうが、よほど体力がいる。

で、本書が指さすのは「水」である。体の中の水は、コップの水とは違うらしい。細胞膜やタンパク質みたいな表面に触れると、水分子が整列して秩序をつくる——と、考えられている。そして整った秩序は、やがてほどける。整う、ほどける、また整う。この途方もない数の小さな循環が、体の中で止まらず回っている、というのだ。

満ちれば欠ける。潮と同じだ。陰と陽、プラスとマイナス、白と黒。整うときにエネルギーを蓄え、ほどけるときにそれを放つ。筋肉が縮むときも、神経が信号を送るときも、細胞が分かれるときも、その裏では水がひそかに整列とゆるみを繰り返している——本書はそう見る。

すると、ATPの立ち位置も変わってくる。ガソリンではなく、点火キー。エネルギーそのものではなく、水の秩序を切り替える「スイッチ」だ、と。なるほど、と一瞬うなずきかけて、いや待て、と踏みとどまる。この繰り返しである。

……ここまで書いておいてなんだが、これはまだ定説ではない。学界の合意でもない。眉に唾、大いに結構。私自身、鵜呑みにする気はない。ただ一つだけ言えるのは、「ATP=ガソリン」というあの分かりやすすぎる図式に、私が二度と無邪気には戻れなくなった、ということだ。知らなければよかったのに。困ったものである。学校の先生、責任を取ってくれとまでは言わないが。

※ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

水というたべもの』(有馬ようこ 著)ホリスティックライブラリー出版

<書籍評価レポート>

■ 採点結果
【基礎点】  37点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】  19点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】  21点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【77点/100点】
■ 評価ランク ★★★ 標準的な良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
枠組みの独創性:「水を飲む」ではなく「水を食べる」という視点の転換、そしてグルジェフの〈三つの食べもの〉と現代生化学を接続する着想は、既存の栄養観を書き換える強い独自性を持つ。凡百の健康実用書には見られない切り口である。

常識への揺さぶり:「ATP=体を動かすガソリン」という学校教育の定番図式を、「水の秩序を切り替えるスイッチ」として捉え直す挑発的な問題提起は、読者に思考の再検討を迫る力がある。

日常への接地:朝の一杯の水・塩・果物・深呼吸・朝日という具体的習慣に落とし込む構成は、抽象論に終わらせず読者の生活に接続させており、実用書としての着地が明快である。

知的刺激の持続:評者が「二度と無邪気には戻れない」「その水を意識してしまう」と述べているとおり、読後に問いが残る書物であり、消費されて終わらない引きの強さがある。

【課題・改善点】
科学的裏付けの未確定:EZ水・構造水・「ATP=スイッチ」説はいずれも学界の定説ではなく、懐疑的な専門家も多い。魅力的な独創性が、実証の弱さと表裏一体である点は看過できない。

分量過多と完読性:総ページ数600ページは通常の実用書の約3倍にあたり、通読を前提とすると負担が大きく、最後まで読み切れる読者はごく限られる。訴求層を自ら狭めている。

断定と実証の距離:評者自身が「まだ定説ではない」「半信半疑」と繰り返さざるを得ないほど、主張の強さに確証が追いついておらず、説得性の面で読者の判断に委ねる部分が大きい。

■ 総評
本書は、水を「食べもの」として捉え直す独創的な枠組みと、グルジェフの思想を現代生化学に架橋する着想において、他に代えがたい独自性を備えた一冊である。ATP観の再定義に代表される挑発的な問題提起は読者の常識を揺さぶり、日常の習慣への落とし込みによって実用書としての接地も確保している。
一方で、EZ水や構造水といった中核概念は科学的に未確定であり、600ページという分量が完読の壁となって訴求層を狭めている点は否めない。独創性の高さと実証の弱さが同居する挑戦的な良書として、テーマに強い関心を持つ読者に向けて位置づけるのが妥当である。

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