「限界費用ゼロ」の常識が変わるAIの世界

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「AIを使った方が、人間を使うより安い」
「AIはデジタルだから無料だ」

こう考える人が時々いますが。これはやや雑で危険な考え方です。

デジタルの世界は、長い間「限界費用ゼロの世界」でした。

ちなみに「限界費用」を広辞苑で調べると「生産量を1単位だけ増加させることに伴う総費用の増加分。限界生産費。」とあります。

従来のデジタルサービスは、基本的に「デジタル財やデータを、ネット経由で配布する」というもの。

Google検索もFacebookも、クラウド側のデータを加工し、ユーザーに表示するサービスです。

ネット回線とサーバーは必要ですが、1トランザクションで必要なサーバー処理量は少ないので、ユーザーが10倍に増えても、総コストはほとんど増えません。

つまり増えた分のユーザーコスト(限界費用)は、非常に低くて済みます。

これがAIになると変わります。

AIがユーザーの質問に回答するには、巨大データセンターで大量の計算を行いますし、電力も大量に消費します。

このため電力確保は、データセンター運営の生命線です。最近巨大テック企業が設置するデータセンターで、大規模発電所を併設するケースが増えているのもこのためです。

2024年時点でデータセンターは世界の電力消費の1.5%を消費しており、しかも電力消費はこの5年間で年率12%成長しています。

AIデータセンターの運営には膨大な電力を発電し続ける必要があるので、1トランザクションあたりの限界費用は、GoogleやFacebookのような従来型のデジタルサービスと比べると、数十倍高くなります。

つまりAIは「限界費用ゼロの世界」ではなくなるので、従来のデジタルサービスのビジネスモデルが通用しなくなるのです。

従来のデジタルサービスは、最初はある程度の固定費の投資が必要です。しかし限界費用はほぼゼロなので、ユーザー数が増えても、変動費はさほど増えません。一方で売上はユーザー数に比例して増えます。

粗利益は売上−変動費です。ユーザー数が増えると、粗利総額は増え続けます。損益分岐点を超えた時点で利益が生まれ始めて、さらにユーザーが増え続けると巨大利益を生み出す、というのが勝ちパターンでした。

しかしAIでは、ユーザーが増えても粗利は単純には増えません。

米国のベンチャーキャピタルAndreesen Horowitzは、「SaaSの粗利60-80%だったが、AIの粗利は50〜60%にとどまることが多い」と述べています※1)

こうした変化で、AIはどうなるのでしょうか?

■ まず、AIでは無料モデル(フリーミアムモデル)に強い利用制限がかかるようになります。無料だと、ユーザーが増えると赤字になるからです。

■ AIの定額サービスには、上限の利用制限が設定されるようになります。

また大量にAIを使う企業向けでは、従量課金(トークン課金)サービスに変わっていきます。

つまりAIは「使っただけ払ってください」というサービスになりますので、私たちの常識も変える必要があります。

これまでの限界費用ゼロが前提だったデジタルサービスの常識は「リソースは潤沢にある前提で考えろ」でした。

私たちがネットに常時接続するのも、グーグル検索やSNSを無制限に使うのは、こうした常識に基づいています。

しかし「使った分だけ、高い限界費用が発生する」AIでは、この常識が通じません。

上手に使い、適正コストで成果を挙げることが求められるようになります。

AIの処理の単位を「トークン」と呼びます。
1トークンごとにコストがかかるのです。

実は同じAIのアウトプットを出す場合でも、トークン消費量が30倍変わるケースがありますし、AIの精度には上限もあって「使えば使うほどいい結果が出る」とは限りません。

つまりAIは使い方次第で、コスパが全く変わるのです。

さらにAIに頼まずに、人間でやった方が安くて済む場合もあります。

たとえば「メールに一言返信する」といった単純作業は、AIを使わず自分でやった方が速いですよね。

あるいは複雑な人間関係が絡む利害調整などは、人間関係を熟知する人ならば一瞬で判断できますが、AIはこういった利害調整は苦手です。

また膨大な試行錯誤が必要な作業は、AIに1回お願いするだけで、その後はAIは膨大なトークンを消費して延々と試行錯誤を繰り返して、コストが膨れ上がります。

賢いAIの使い方ができないと、AI費用を浪費するだけで成果が出ない状態になりかねません。

AIのコスパは急激に下がり続けています。しかし電力のボトルネックがある以上、今後も下がり続けるかは定かではありません。

今後私たちは、どの業務に、どのAIモデルを、どの程度のコストをかけて、人間と役割分担しながら使うかが求められるのです。

【参考情報】
※1)“The New Business of AI (and How It’s Different From Traditional Software)” Andreesen Horowitz


編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年7月7日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。

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