10月4日付の朝日新聞に「スパコン『京』計算外」という記事が載っていた。6月に京から計算速度世界一を奪ったIBMは、1.5倍の速度を3分の1未満の費用で達成した。富士通がスパコン用半導体工場を作ったので開発費が高騰したが、その工場も台湾に売却されようとしている、というのが記事の趣旨だ。
朝日新聞は今さら何を言いたいのだろう。
京が仕分けられた際には、蓮舫議員の「2位で何が悪いんですか」という発言がメディアで一斉に批判された。学会の権威も声を揃えて続行を主張し、続行が政治判断された。しかし、京は一瞬しか世界一を取れなかった。
しかし、スパコンの計算速度が雑な指標に過ぎないことを、朝日新聞は知らないらしい。自動車が最高速度だけで評価されるのであればフェラーリが世界一だが、用途が限られるので、GMやトヨタの方が社会的評価は高い。スパコンもどんな計算に役立つかで評価されるべき。とりわけ開発費がサンクコスト化された今は、計算速度よりも有効利用が評価ポイントになる。
科学技術政策の是非を判断するのはむずかしいので、国民は権威にすがりつきたくなる。しかし、それが新しい挑戦を阻み、無駄遣いを生む場合がある。高騰した京の開発費を取り上げるのであれば、科学技術政策における権威主義の弊害について指摘し、行政の透明化と客観評価について言及してほしかった。
山田 肇 -東洋大学経済学部-