
今国会で成立した国旗損壊罪の審議では、「立法事実」なる普段耳にしない用語が報じられた。AIに聞くと「法律や条例を設ける、あるいは維持する必要性や合理性を裏付ける、社会・経済・科学などの一般的事実」とのこと。これもピンとこないが、国旗損壊罪に例えれば「日の丸が公然と燃やされたりすることがしばしば起こる」といったような「事実」になろうか。
ならば反対論者の主張は、「そういった事実がほとんどないので、取り締まる法律は必要ない」ということになろう。だが、過去に起こらなくても将来に備えて法律を作っておく、という考えも成り立つのではと思い、AIに聞いてみたら案の定ある。それは「予防的立法」という「将来起こるかもしれない害や危険を未然に防ぐことを目的として、予め規制や刑罰を新設する法律」だそうだ。
ネットでは、某元文科省事務次官による「国旗損壊罪なんてできたら、白い紙の表と裏に赤い丸を書いて、破ってやる。それを毎日交番の前でやってやる」とのX投稿が炎上しているらしい。そこまで強がるなら、法律になる前にやってくれたら立派な「立法事実」になったのに、と筆者は残念に思う。
一方、11月に中間選挙を控える米国に目を転ずると、トランプ大統領肝煎りの「アメリカ有権者資格保護法:Safeguard American Voter Eligibility Act(SAVE法)」の成否が注目の的だ。この法律は、連邦選挙での有権者登録には市民権の証明を、そして投票には写真付IDの提示を、各々義務付けるもので、20年の大統領選で不正があったと主張しているトランプ氏が成立を待望している。
世論調査でもSAVE法には、共和党支持者で登録96%・投票95%、無党派層で登録83%・投票77%、民主党支持者でも登録72%・投票62%が賛成なので下院通過はほぼ確実だった。が、上院では60票を要するフィリバスター(議事妨害)に遭うこと必至につき、共和党ジョンソン下院議長はそれを回避すべく、SAVE法を国防総省への資金増額や農業支援等と抱き合わせて950億ドル規模の第3次予算調整案に入れ込むことで22日、賛成216票・反対214票の僅差で下院を通し、上院に送った。
今後、難航が予想される上院のことはひとまず措き、以下では16日のトランプ氏による外国やディープステートによる選挙干渉の暴露演説に歩調を合わせるように、そして22日のSAVE法下院通過を後押しするかのように、21日に明らかになったニュージャージー(NJ)州の非市民投票に係る『CNN』報道について考察する。
民主党シェリルNJ州知事は21日、同じ民主党マーフィー前知事時代に6,600人の非市民を有権者名簿に載せ、うち約400人が近年不適切に投票していたこと、及び前知事がそれを隠していたことを明らかにした。原因はソフトウェアの不具合らしいが、記事の書き手は「この事実は、共和党が長年続けてきた非市民の投票に対する反対運動の格好の材料となった」と記しつつ、事件の矮小化に余念がない。
記事は先ず「共和党はこれまで非市民の登録や投票について、虚偽や誇張 、憶測に基づいて主張してきた」とし、「だが民主党の州で実際にそのようなことが起きた。しかもその規模は相当なもので、近年の他の州と比べてもはるかに大きい」と書く。ならば「共和党の主張は虚偽や誇張 、憶測ではなかった」と恐れ入るべきだが、そうはしないところが『CNN』たる所以。
例えば、24年のオハイオでの597件の非市民登録で138人が投票した事件や、同じ年にアイオワでも有権者記録2,000件余りを精査したところ14%近い277人の非市民が登録され、うち35人が投票したこと記していながら、「共和党はしばしばその数を誇示するが、さらなる精査によって問題のあるケースの数は大幅に減少する」とする辺りもそうだ。
なぜなら、記事がこう続くからだ。曰く「NJの例は規模が大きいとはいえ、事実上、意味を持つほどの票数ではない」「400票は全てが1回の選挙で投じられたわけではなく」、これらの者は「民主党員、共和党員、無所属の有権者として登録されており、州全体に散在していた」うえ、「NJの有権者は220万以上だ」と。だから結果には影響しない、といいたいのだろう。
そして「NJの例は、特定の状況下では、非市民でも有権者登録され、投票することが可能であるということを改めて示すが、共和党が主張する有権者規制強化の運動(=SAVE法)に必ずしも当て嵌らない」から「トランプ氏が主張する、民主党のために選挙を不正操作しようとする意図的かつ大規模な企てを示すものではない」と強弁する。
更に、NJの誤登録者は「登録を試みたり、選挙不正を働こうとしたりせず、謝って有権者登録された非市民だと自ら明らかにした」から、「SAVE法に伴う市民権証明の要件は問題を解決しなかっただろう」と我田引水し、「非市民による投票を完全に無視することはできないが、それは広範囲に行われているのではなく、むしろ偶然によるもののように思われる」と結論するのである。余りに勝手な憶測に満ちた解釈で呆れる他ない。
なぜって、NJでは誤登録の非市民6,600人のうち400人が、オハイオでは597人の非市民登録者のうち138人が、アイオワでは精査した有権者記録2,000件中の約14%が非市民で、うち35人が投票したという歴とした「事実」がある。記事の書き手は「選挙に影響を与える数字ではない」というが、それこそ「むしろ偶然によるもの」ではあるまいか。
この先もこうした「偶然」が起こり続ける、と誰が断言できようか。だからこそ、大多数の米国民が党派を超えて「有権者登録時の市民権証明と投票時の写真付ID提示を義務付ける」至極当然なことの法制化に賛意を示すのだろう。これ即ち「予防的立法」である。上院で反対に回る中間選挙対象者は、民主党であろうと共和党であろうと、落選の憂き目に遭う確率が上がる。
最後に蛇足ながら、日本の選挙も投票所でのマイナカード提示で投票できるようになれば、国と地方合わせておそらく何十億枚にも上る、膨大な数の投票券の印刷・在庫・郵送などの工数が省けるのではなかろうか。民主党の反対理由はマイノリティはID持たない者が多いというものだが、米国でも病院や薬局ではIDの提示が要るそうだ。







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