南太平洋島嶼国で起きていることに動揺する中国

8月3日の『日経』は、中国人民解放軍の潜水艦が7月6日に発射した弾道ミサイル(SLBM)が島嶼国ツバルの排他的経済水域近くに着弾した件に関連し、「太平洋島嶼国、揺らぐ『非核』の結束 中国SLBM非難で足並み乱れ」との見出し記事を報じた。筆者はこの記事を、「果たしてそうだろうか」との違和感を以って読んだ。

記事は、中国に配慮するキリバスやナウルなどが、PIF(豪州や島嶼国が加盟する太平洋諸島フォーラム)としてミサイル発射への非難声明を出すことに難色を示しているとする。だが、記事には台湾と国交のあるツバルとパラオは勿論、豪州・NZ・ソロモン諸島、そして7月中旬に台湾の代表処の閉鎖を発表したパプアニューギニアの非難声明や発言が各々記されている。

が、筆者には、島嶼国の「足並み乱れ」というよりは、4月以降この地域を巡って豪州・日本・米国が連携して行っていることに動揺した中国が、これら3ヵ国と島嶼国への牽制を狙ってSLBMを発射した結果、むしろ島嶼国の反発を強めてしまったように思える。

豪州の「NDS」と高市訪問

始まりは豪州政府が4月16日に公表した「2026年 国家防衛戦略」(2026 NDS:National Defence Strategy」である。同文書には、国防計画担当者の決意の強化、そして単独あるいは日米等の主要なパートナーや同盟国と連携して、豪州の能力を構築するというコミットメントが反映されている。

これに呼応して高市首相は豪州訪問前日の5月2日、「豪州の『国家防衛戦略』と日本との二国間関係の強化」と題する豪州紙『AFR』への寄稿文を公表した。そこでは先ず、「今年は日豪友好協力基本条約(NARA条約)署名50周年の記念すべき慶節」と記し、続けて日本が「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を提唱してから10年を迎えることを述べる。

次に、経済安保の観点から、両国が自律性・強靱性を高めるための協力を更に強化していく必要性に触れ、4月に豪州を含む地域の関係国の参加を得て日本が主催した「AZECプラス・オンライン首脳会合」で、重要鉱物やエネルギーの安定供給確保を目的とした「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ(パワー・アジア)」を発表したと記した。

そして、日本が提供する「もがみ」型護衛艦をベースとする豪州海軍の汎用フリゲートプログラムこそ50周年を象徴する画期的な協力となるとし、かつて戦火を交えた恩讐を越えて共に米国の同盟国である日豪の安全保障・防衛協力を一段と高めるとする。最後に、12年前に豪州連邦議会で安倍元首相が行った、日豪が新たな「特別な関係」へ歴史的な脱皮を遂げたことを称えた演説に触れ、その関係を一層拡大すべく、日豪関係の新たな未来をアルバニージー首相と共に描いていきたい、と結んでいる。

一方の「NDS」では、「拒否的抑止」である豪州国防軍(ADF)の防衛戦略は、豪州沿岸からより遠距離において敵対国を継続的に脅威に曝す能力を備えた戦力を獲得・展開することにあり、それゆえ同戦略では、豪州への「北方からの接近路」を守る、東南アジア南部や南太平洋にまたがる島嶼国群を「主要な軍事的関心地域」としているのである。

豪州はそのために、「ジャカルタ条約」(豪州・インドネシア共同安全保障条約)、「プクプク条約」(パプアニューギニア・豪州相互防衛条約)、「ナカマル協定」(豪州・バヌアツ二国間安全保障協定)を各々結ぶことで、この地域での安全確保を図ってきている。

そして「NDS」は、上記戦略の信頼性を確立すべく、豪州海軍の戦力を強化するという包括的な計画の一環として、AUKUSに基づく原子力潜水艦の取得や、英国や日本(先述の「もがみ」型護衛艦)からのフリゲートの調達といった主要プロジェクトを含む、軍事力の持続的な拡充について概説する。

さらに、豪州は(日本と同様)、陸(精密打撃ミサイル(PrSM))、海(海軍用トマホークミサイルとSM-6ミサイル)、空(統合打撃ミサイル(JSM))の各部隊に配備される新たな長距離打撃能力の獲得に注力する。最終目標は、より機動性が高く、実戦においてより高い殺傷力を持つ「統合的で 集中的な部隊(Integrated, Focused Force)」を配備することにある(以上、「豪州の『国家防衛戦略』と日本との二国間関係の強化」

4月から5月初めまでに起きた、これら日豪間の連携強化は北京を相当に動揺させたはずだ。そして5月7日、汚職疑惑などで批判を浴びていたソロモン諸島の親中派マネレ首相が不信任決議案を可決され、退陣に追い込まれた。後継に選ばれたワレ首相は7月、アルバニージー豪首相高市首相に立て続けに会談し、高市氏に「外国との関係のリセットに励んでいる」と述べた。

すると8月8日の『日経』は「ソロモン諸島、米と海上保安協力 政権交代で『親中』脱却進む」とのシドニーからの『時事電』を配信した。記事にはこう記されている。

7月に訪米したワレ氏は、沿岸警備隊や国務省の高官と会談して海上保安協力で合意。帰国後の同月28日、首都ホニアラに寄港した米巡視船の甲板で協定に署名した。ソロモンは約160万平方キロに及ぶ排他的経済水域(EEZ)の警備に米巡視船を利用できる。ソロモンは港湾整備への支援についても米国と協議している。

ソロモン諸島 benedek/iStock

ソロモンはソガバレ政権下の2019年に台湾と断交して中国と国交を樹立。22年に中国と安全保障協定を結び、中国の軍事拠点構築につながりかねないとの懸念が内外に広がった。ワレ氏は外交の「リセット」を掲げ、就任後にオーストラリアやニュージーランド、日本などを訪れて過度な対中依存の見直しを図っている。

ワレ氏は訪米後の記者会見で「中国は貿易パートナーだ」と述べ、関係を維持するものの安保面では距離を置く姿勢を示した。中国軍が7月にソロモンのEEZ近くに弾道ミサイルを落下させた際には強く非難した。一方、野党党首に転じたソガバレ元首相は米国との海上保安協力に「主権侵害の恐れがある」として反対している。

8月3日の「足並み乱れ」記事などなかったかのように『時事電』を配信する『日経』にも呆れるが、南太平洋島嶼国のこうした事情も知らず、小林鷹之自民党政調会長が7月19~25日に予定していたパプアニューギニア、ソロモン諸島、フィジーの3カ国訪問を、延長国会の会期中の海外渡航に反発し「バカンスだ」などと批判して中止させた、野党の外交音痴にも唖然とさせられる。

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小林政調会長の3島嶼国の訪問には、5月初めの日豪首脳会談のフォロー及び豪州の「NDS」に基づくこれら島嶼国との防衛戦略に日本が連携してゆく意図がある。日本の間の抜けた野党は気づかなくとも、その意図を明確に認識している中国は、豪日米並びに台湾と国交のあるツバル・パラオ及び今後台湾と国交を結びそうなソロモン諸島などの島嶼国を、SLBMの発射によって牽制したのである。

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