中国の首を真綿で絞める「ドンロー主義」

今月28日、右派のケイコ・フジモリ氏ペルー大統領に就任する。アルゼンチンのミレイ氏やエルサルバドルのブケレ氏ら中南米の保守系大統領が、彼女に祝意を寄せた。トランプ政権のルビオ国務長官もこれを祝うと共に、政権は安保・投資・貿易分野でペルーとの協力深化を期待しているとした。

ペルーに限らず、この地域では親米政権の誕生が続いている。昨年12月半ばには「チリのトランプ」ホセアントニオ・カスト氏が、12月末にはホンジュラスでトランプ氏が支持したナスリ・アスフラ氏が、コスタリカでは2月初めに親米右派のラウラ・フェルナンデス氏が、そしてコロンビアでも6月下旬に右派のアベラルド・デラエスプリエジャ氏がそれぞれ大統領の座を射止めた。

さて、米国は昨年12月4日、25年版「国家安全保障戦略」(以下、「NSS」)を公表したが、これについて筆者は本欄に2本論考を寄せた。1本は12月11日の「高市答弁への中国過剰反応の裏にある米国の25年版『国家安全保障戦略』」、他は26年1月5日の「ベネズエラ攻撃を予告していた米国の25年版『国家安全保障戦略』」だ。

表題の通り前者では主に「NSS」のアジア戦略について触れ、後者では「ドンロー主義」と称される西半球戦略を分析した。が、「国家安全保障戦略」の名が示す通り、そのアジア戦略と西半球戦略には通底する対象がある。それから半年余り、今まさにそれが「中国」であることが鮮明になったと感じる。つまり西半球を固めることにより、真綿で中国の首を絞める戦略だ。

周知の通りベネズエラの石油埋蔵量は世界有数。チャベス政権下ではその過半が米国向けだったが、マドゥロ政権になって中国が最大の輸入国となり、これにインドやEUそしてキューバが続いていた。が、そのマドゥロ夫妻がこの1月3日、急襲した米軍によって米国に連行された。この事件では、中国の防空網が役に立たないことが天下に晒され、中国の権威が大いに失墜した。

これを契機としてベネズエラ原油の輸出先が激変し、この5月をみるとベネズエラから出荷された原油の輸出先は米国が最大で日量約55.8万バレル、次いでインドが42.7万、欧州が16.9万バレルとなった(6月1日『ロイター』)が、そこに中国やキューバの名は見当たらない。

側杖を食って深刻なエネルギー危機に陥ったキューバに対しロシアは3月末、「人道支援」で約10万トンの原油を積んだタンカーを送り込んだ。米国はこれを黙認したが、そこにはいずれキューバを親米化させるつもりのトランプ大統領とルビオ氏の深慮遠謀が恐らくある。

2月28日に始まった米国とイスラエルによるイランへの奇襲でも、中国は難しい立場に立たされた。制裁下にあったイラン原油の約9割は中国向けで(中国の原油輸入量の10-15%)、軍事的結び付きもある(どちらも「包括的戦略的パートナーシップ」に基づく)が、米中はより重要な関税交渉の最中だからである。

中国は昨年まで、ベネズエラ産原油の8割を輸入し、輸入量の約4%を占めていた(12月16日『ロイター』)から、ほんの4ヵ月間の米国の軍事作戦によって、中国は原油輸入量の15-20%を失ったことになる。前記『ロイター』電はイラン攻撃の前だったから、「中国の原油備蓄は豊富な上に国内の需要が弱い」ので「影響は当面限定」と記していた。

中国の原油ソースにはロシアがあるし、ホルムズ海峡も開き始めたから「影響は当面限定」かも知れぬ。が、「NSS」が「ドンロー主義」を、「米国の安全保障上の利益に沿った、常識的かつ強力な米国の力と優先事項の回復」であり、「西半球に対する目標」に「積極的に関与し、そして拡大する」と記していることに注目する必要がある。

ベネズエラはその典型だが、冒頭の保守政権の誕生もその一環だ。筆者は台湾の反応も注視する。いま台湾と国交のある12ヵ国のうち、7ヵ国が中南米だからだ。即ち、グアテマラ、パラグアイ、ハイチ、ベリーズ、セントビンセント、セントクリストファー・ネーヴィス、セントルシア。他の5ヵ国は大洋州のツバル、マーシャル諸島、パラオ、アフリカのエスワティニ、そしてヴァチカンだ(外務省サイト)。

ホンジュラスは03年3月に台湾と断交したが、新大統領は親台湾派と報じられており、この先13番目に復帰する可能性がある。過去を振り返れば、チリとは70年12月、ペルーとは71年11月、アルゼンチンとは72年2月、ベネズエラとは74年6月、コロンビアとは80年2月、コスタリカとうは07年6月に断交するまで、台湾と国交があった(台湾の国交樹立外交の軌跡三宅康之関西学院大教授)。

これら7ヵ国すべてが台湾との国交を回復(=中国との断交)すれば、台湾の国交樹立国は19ヵ国になり、蔡英文政権下で7ヵ国減らし、15ヵ国になる前の22ヵ国に近づくことになる。三宅論文を読むと、セントルシアの様に97年に断交し、07年に国交回復するといった国も散見される。関連して、大洋州のソロモン諸島も、24年4月に発足したワレ政権が中国との関係見直しを表明している。

今後も中国の札束外交・戦狼外交に嫌気が差したところへ、「ドンロー主義」が手を差し伸べるなら、それが起こらないとは誰も言い切れまい。キューバですらそうなるかも知れぬ。元を質せば70年代前半までは、後の独立国を除く大半の国家が台湾との国交関係を持っていたわけだし。

台湾にはこのところ、6月30日のグアテマラ保健相、7月1日のパラグアイ外相と中南米ではないがマーシャル諸島外務・貿易相など、国交のある国の閣僚が相次いで訪れ、強固な外交関係の確認に余念がない。国交樹立国の維持・拡大は台湾の死活に関わる。「ドンロー主義」は間接的にそれを支援するのである。

トランプ氏がラシュモア山で「共産主義は米国の自由に対する致命的な脅威」と演説するのを聞きながら、25年版「NSS」とそこに記された「ドンロー主義」に絡めて、ベネズエラ・イランの原油と中南米諸国の保守政権誕生が、直接間接に中国の首を徐々に絞めかねないとの筆者の希望的観測を書いた。

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