最高裁で負けても出生地主義を制限するトランプの終わりなき戦い

トランプ大統領は8月6日、米国の出生地主義を制限する新たな大統領令2本に署名した。主な標的は米国で子どもを産み、その子に米国籍を取得させることを目的に入国する「出産旅行」である。

Bloomberg

しかし出生地主義をめぐっては、わずか5週間前の6月30日、連邦最高裁がトランプ政権に明確なノーを突きつけたばかりだ。

最高裁で負けたのに、また大統領令

米憲法修正第14条は、米国で生まれ、米国の管轄下にある者を米国市民とすると定めている。トランプが2025年1月に出した最初の大統領令は、両親のどちらも米国市民または永住権保持者でない場合、その子どもに自動的な市民権を認めないという広範なものだった。

これに対して最高裁は6月30日、出生地主義は憲法上の権利だと判断した。ロバーツ最高裁長官は、修正第14条制定者が市民権の約束を「この国で自由人として生まれたすべての人」に広げたと説明した。(Reuters)

トランプはいったん、この判決について最高裁に再審を求めると表明したが、代わりに登場したのが今回の新しい大統領令である。今回は対象を狭め、出産旅行のほか、外国政府職員の子どもや「敵性外国人」に分類される人物の子などの市民権を制限しようとしている。

トランプは最高裁で勝ちたいのか

ここで一つ疑問が出てくる。トランプは本当に、この問題で最高裁に勝とうとしているのだろうか。米国の法律専門家からは、今回の大統領令も最高裁の判断との整合性に大きな疑問があり、再び訴訟になるとの見方が出ている。ACLU(米国自由人権協会)も法廷で失敗する運命にあると予測している。

それでも大統領令を出す。この行動を純粋な法律論だけで理解すると、トランプ政治を見誤る。トランプにとって大統領令とは、行政を動かすための文書であると同時に、政治的メッセージでもあるからだ。

「外国人が米国に来て子どもを産み、その子が自動的に米国市民になるのはおかしい」という説明はわかりやすい。他方で反対派は「憲法違反だ」と反発する。すると移民問題が再びニュースになる。そしてトランプ自身が、その議論の中心に戻ってくる。

敗訴まで選挙運動にする

これはトランプが繰り返してきた政治手法である。裁判所に止められれば、「選挙で選ばれていない裁判官が大統領を妨害している」と支持者に訴える。議会が動かなければ、「ワシントンの政治家が国境を守ろうとしない」と主張する。メディアが批判すれば、「既成メディアが移民問題の現実を隠している」という。

この意味では、大統領令は行政手段であると同時に、一種の選挙運動になっている。特に中間選挙を控える現在、移民は共和党が民主党との違いを最も鮮明に打ち出しやすいテーマの一つである。

トランプ氏にとって重要なのは、出生地主義そのものを廃止できるかどうかではない。「自分は米国の国境と市民権を守ろうとしている。それを裁判所や民主党が邪魔している」という構図を維持することに政治的価値がある。

問われているのは出生地主義だけではない

米国は、大統領だけで統治される国ではない。議会が法律をつくり、裁判所が憲法との整合性を判断する。大統領もその制約を受ける。特に憲法上の権利を大統領令だけで変更できるなら、三権分立そのものの意味が薄れる。

最高裁で負けても政策を修正して再挑戦すること自体は、民主政治では許される。しかし司法判断を受けるたびに大統領令を少し書き換え、同じ境界線を何度も押し続ければ、やがて問題は個々の政策ではなくなる。

どこまでが大統領の権限で、どこからが憲法による制約なのか。トランプが始めた出生地主義をめぐる「終わりなき戦い」は、その境界線を試しているのである。

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