ドローンの戦争は「雨」も降らさない

このnoteを始めて最初の8月に、こんな記事を出した。当時はさすがに、ウクライナとガザのWで戦争が進行中の「いまが底だ」と思っていたのだが、ご存じのとおり、米国とイランの停戦が破れた今年はもっと最悪である。

ウクライナとガザのさなかに、8月15日をどう迎えるか|與那覇潤の論説Bistro
年に一度の「戦争を振り返るシーズン」も、実に79回目。不幸なことに、ウクライナとガザの双方で、続く戦争が進行する中で迎える夏である。 昨秋から気にかけてきたが、ウクライナはついにロシア領内へ侵攻する冒険的な賭けに出た。またイランがイスラエル...

アメリカのように高価な最新兵器を持つわけではない、イランの戦い方は廉価なドローンの大量投入だと言われ、ロシアもまた同国から技術を移入し、対抗してウクライナもドローン戦術を採るようになったとされる。

それが戦争のあり方を大きく変えたのは、事実のようだ。ウクライナ軍に同行し、実際に戦地を足で歩いて書かれた記事によると――

ウクライナ軍に付きまとうドローン攻撃、徒歩でかわす兵士 前線へ続く「命の道」でCNNが同行取材
穴だらけになり、焼け焦げた車両が散乱する「命の道」。頭上にはドローンよけのネットが張り巡らされている。最前線のウクライナ部隊へ補給物資を届けるこの道路は、ドネツク州のドルジュキウカとコスティアンティニウカを結ぶ、まさに生命線だ。

ドローン戦は前線の常識を一変させた。装甲車両は格好の標的とされ、足かせにもなる。兵士の集団は狙われる。……ドローンの音が聞こえたら茂みに駆け込まなければならない。茂みがあれば身を隠すことができ、ドローンは飛べない。
(中 略)
ドローンをよけるためには、集団で安全を確保しようとする人間の本能に逆らい、互いに離れて散り散りになる必要がある。一人でいれば、ドローンを操縦するロシア兵の関心は薄れる。

CNN、2026.5.21
(強調を付与)

ドローンを操る側も、その攻撃を避ける側も、かつてなく個人単位でバラバラに戦うのがいまの戦争らしい。安全な日本でスマホを手にSNSをリポストして「私も参戦!」気分になっているのは、その矮小な戯画だが、象徴的な景色ではある。

戦争の形態を変えた1人称視点(FPV)ドローン 「ウクライナ戦争では死傷の主要因」と指摘する専門家も(ロイターの解説、日本語字幕付き) 
軍事用ドローンの役割を大きく変えたのがウクライナ戦争である。中核的な兵器へと進化を遂げ、現在では数千機の無人航空機(UAV)が偵察や砲撃の誘導、標的攻撃に用いられている。2025年、ウクライナ戦争で最も効果的な兵器の一つが、小型で低コストの...

そんな現在との対比で、古い戦争の歌を思い出した。正確には戦争の歌だと “言われた歌” だ。

1970年にCCRという、米国の渋いバンドが歌った Have You Ever Seen the Rain?は、直訳だと「お天気雨を見たことがあるかい?」と訊くだけなのだが、そんなくだらない曲があるはずがないので、みんな深読みしたのだ。

現在はメンバーの証言もあって、お天気雨は「満ち足りた日々が終わる兆し」の隠喩だとされており、新しく作られた公式なPVもその解釈を採っている。が、発表時はそうでなかった。

タイトルの  the Rainという定冠詞がそもそも、「あの雨」みたいな仄めかしを思わせて不気味である。で、発表された1970年がベトナム戦争のさなかだったために、自ずと独自の解釈を生んだ。

米軍が当時、濫用したナパーム弾は、あたかも水流のような独特の形で炎を上げることがある。「あの雨」とはそれを指すものだとする、反戦歌としての聴き方が、長らく定番になったのである。

そう聞けば(ぼくも含めて)リアルタイムじゃない世代でも、あぁ、あれか、という風に、歴史番組で見た画像を思い出すだろう。そうした共通のシンボルの存在が、かつては戦争を扱う議論を実のあるものにしていた。

そんなニュアンス重視で、いま歌詞を訳すと、

(1番)
Someone told me long ago
ここに来た時に言われたよ
There’s a calm before the storm, I know
嵐の前は静かになるんだって
It’s been comin’ for some time
もう、その意味をぼくは知ってる

When it’s over, so they say
終わった後にみんな言うんだ
It’ll rain a sunny day, I know
「晴れの日に降る雨」があるって
Shinin’ down like water
炎が水のように降ることもある

Asia-Pacific Journalの論考より。
なおナパーム弾の大量投下の嚆矢は
東京大空襲だった

(サビ)
I wanna know,
教えてほしい
Have you ever seen the rain? ×2
君も「雨」をこれまで見たのか
Comin’ down on a sunny day?
晴れた日に降ってくるその雨を

(2番)
Yesterday and days before
昨日もその前もずっと
Sun is cold and rain is hard, I know
太陽は寒々しく雨だけが激しかった
Been that way for all my time
ここに来てからずっとそうなんだ

‘Til forever, on it goes
終わるのかどうかもわからない
Through the circle, fast and slow, I know
緩急があるだけでずっと続いてく
It can’t stop, I wonder
止められないのかって思うけど

となる。そして問題は、ドローンが主力の “個人化” された戦争は、こうした 「象徴の共有」さえもたらさずに、ただ傍観者たちを無責任なまま好き放題に騒がせ、引き裂いてゆくことだろう。

かねがね書いているとおり、なにせ開戦の当初は興味を持たないのは「ありえない」、センモンカと同じ主張以外「あってはならない」と煽りながら、戦争がダラダラ続き自分が飽きるや、

ある編集者への手紙|與那覇潤の論説Bistro
以下は2024年12月23日に、ある編集者に送ったメールの全文である。とくに返信のないまま1週間が経ったため、目次と強調を附して公開する。 1. 今年を閉じるにあたって 爾来ご無沙汰しています。世界が大きく動いた2024年も終わりつつありま...

コロナもウクライナも、もう「今はホットイシューではないので」、そんな〔なにが正しかったかの〕検証は載せてもバズらない。

強調を変更

と、ヘラヘラ言い放つ “意識の高い媒体” の編集者もいるくらいだ。ちょうどいま校正が佳境の、秋に出す『なぜ「まちがえた」と言えないのか』では、そんなクズがはびこる世相の理由を、

国民が不安に憑かれパニックに陥るほど、「これが正しい!」と断じる言論のニーズは高まる。だがそれ一色にメディアを染めようとする者は、ほんとうに正しさを信じてやっているのか?

特定の論調のみに偏する態度は、「なにがバズるか」を先読みしやすい環境を愉しみ、効率よくアガリを取り立てる発想からも生じうる。

新刊「あとがき」より

のように、はっきりと記しておいた。

最初に掲げた2年前のnoteに書いたとおり、戦争を “推し活ビジネス” として消費することでクラスター弾のように乱射された言葉の数々は、戦争が終わった後になにも残さないが、かといって戦争を語り継ぐ必要は消えない。

その困難を乗り越えるのはもう学問ではなく、かつて世代を超えて共通の体験を作り出した、こうした文化的な素養だろう。安逸な銃後で「専門家」が無責任になり、趣味も悪くなる例は、この間ずいぶん見させてもらった。

在神戸ウクライナ名誉領事館を表敬訪問してきました!|東野篤子
本日は、在神戸ウクライナ名誉領事館に筑波大学教授でウクライナ研究会副会長の東野篤子先生が来館。隣の松口正記念ウクライナ研究センターもご覧頂きました。今後の研究や日宇の諸問題について意見交換しました。 pic.twitter.com/9hGD...

最後に、いまいちばんよく聴く、この曲の日本人によるカバーを。2023年のパフォーマンスらしいが、歌い方から察して、”古い解釈” も踏まえて弾いているように思える。そんな系譜が続くことにこそ、かすかな希望がある。

参考記事:

Have You Ever Seen The Rain / 雨を見たかい(CCR / クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)1971 : 洋楽和訳 Neverending Music
この名曲を和訳記事にするのもずいぶん時間がかかりました! 僕はおそらく確かこの曲を聴く前に、音楽雑誌かラジオで「CCRの“雨を見たかい”はベトナム戦争を歌った歌なんだ」という解説を見ました(聞きました?)。実際にこの曲は米国にて放送禁止にも...
「彼らはクリスマスだと知っているのだろうか?」|與那覇潤の論説Bistro
バンド・エイドをご記憶だろうか。救急用品の名前にかけてあるけど、「バンドが助ける」の意味でBand Aid。1984年の12月、エチオピア食糧危機の救済のために、当時の英国ポップス界の人気者が集まり、”Do They Know It's C...

(ヘッダーは、2024年2月の朝日新聞より)


編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2026年8月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください

 

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