日銀は9月利上げで「超円安」を止められるのか

  • 円は購買力平価などからみて、異常な割安水準にある。日米金利差だけでなく、日本企業・家計の海外投資や円キャリー取引が円安を長期化させている。
  • 政府が日銀を支配して低金利を維持する「金融抑圧」は円安を招く。市場がそれを予想する限り、為替介入だけでは流れを変えられない。
  • 焦点は9月以降の日銀が高市政権の金融抑圧を押し切って利上げできるかだ。金利正常化が遅れれば、1ドル170円まで円安が進む可能性もある。

ドル円は一時1ドル=164円近辺まで下落し、日米の協調介入によって155円台まで戻ったものの、その効果は長続きせず、足元では再び159円前後まで円安が進んでいる。市場は日銀が9月に利上げすると予想している。

しかし円はファンダメンタルズから見ると異常に安い。IMFによると、購買力平価(PPP)では1ドル=97円である。おなじみのビッグマック指数では、円は購買力に対して50.4%も過小評価されている。これはベトナムやエジプトと同じクラスである。なぜ円はこれほど安いままなのだろうか。

金利差が縮小しても円高にならない

普通に考えれば、答えは日米金利差である。現在、日銀の政策金利は1.0%。これに対してFRBの政策金利は3.5~3.75%で、実質金利でみても1.5%以上の差がある。円を借りてドル資産を買えば大きな金利差を稼げるため、円キャリートレードが続く。

日米金利差は縮小しているが、円高にならない。FTによれば、金利差から計算される水準と比べても円は割安であり、満期の長い金利で比較するほどその乖離は大きい。つまり現在の円安は日米金利差だけでは説明できない。

その背景には、円安が自己増殖するメカニズムがある。日本企業は海外で稼いだ利益を必ずしも円に戻さず、家計も海外株や海外投信を買う。機関投資家も高い利回りを求めて海外へ資金を出す。その結果、日本の経常黒字が昔ほど単純な「円買い」につながらなくなった。

日本は2025年末で561.8兆円という巨額の対外純資産を持つ世界有数の債権国であり、外国から金を借りられなくなって通貨が暴落している国ではない。むしろ日本人が大量の外国資産を保有し、その資金が円に戻らないことが円安を長期化させている。

日銀はもっと利上げできる

そこで問題になるのが日銀である。7月末の金融政策決定会合で、日銀は政策金利を1.0%に据え置いた。しかし高田創審議委員は1.25%への利上げを提案した。8対1で否決されたものの、日銀内部でも追加利上げを求める声が出ている。

しかも日銀自身が、2026年度後半には生鮮食品を除く消費者物価上昇率が「明確に2%を上回る」と予想している。その理由の一つとして、最近の円安による耐久財などの価格上昇まで挙げている。

物価上昇率が2%を超える局面で政策金利が1%なら、実質政策金利はなおマイナスである。もはや日本は「デフレだからゼロ金利が必要」という経済ではないが、日銀は政治的配慮から利上げをためらっているように見える。

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コメント

  1. yuzo.seo より:

    この議論の出発点である「購買力平価」についてちょっと考えてみたいと思います。
     
    「なぜ円はこれほど安いままなのだろうか」への答えとして、池田氏はまず「日米金利差」をあげるのですが、それだけでは説明がつかないとして「日本企業が海外で稼いだ利益」が「円に戻らない」ことをその理由として挙げておられます。そして、円に戻らない理由は、明確に述べられていないものの、日銀が金利引き上げに及び腰であることを批判されている。ということは、「日本の低金利」がその理由であるように読み取れるのですが、これでは最初の疑問に戻ってしまいます。
     
    正解を先に書いてしまいますと、海外で上げた利益が日本に戻らない理由は、国内に投資機会が乏しいからなのですね。これは、かつての円高時代と同様、日本での生産がいまだ割に合わないという理由によるのでしょう。
     
    かつては、国内工場で作られた製品を輸出して稼いできたのですが、貿易摩擦もあり、発展途上国の生産体制も整ったことから、輸出主導で稼ぐことも難しくなりました。そうなれば、内需に頼るしかないのですが、国債発行残高が積み上がっていることから、公共投資に頼ることも難しい。結局、国民の消費支出が頼みの綱なのですが、これには一人あたりの稼ぎで制約を受けるのですね。一人あたりの稼ぎは、一人あたりのGDPでおよそ評価できるでしょう。
     
    一人あたりGDPのドル換算値を日米中印で比較した結果は以下のURLなどをご参照ください。https://ecodb.net/exec/trans_image.php?type=WEO&d=NGDPDPC&c1=JP&c2=US&c3=CN&c4=IN&s=1980&e=2026
     
    これを購買力平価(PPP)で比較すると次のURLのようになります。https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=PPPPC&s=1980&e=2026&c1=JP&c2=US&c3=CN&c4=IN&c5=&c6=
     
    面白いことは、PPPで評価すると各国間の差が縮まるのですね。なぜそんなことになるかと言えば、人件費に差があるからなのですね。人件費の安い国は物価が安い。何分、モノの値段のかなりの割合は人件費が占めておりますので。そうなりますと、人件費、つまり国民の所得をそろえた比較が、もっと実態を反映しているのでは、という疑問がわきます。これには、一人あたりのGDPで、各国の一人あたりGDPを評価すればよいのですね。
     
    もちろん結果は表示するまでもありません。すべての国でこの値は1になる。一人あたりのGDPを一人あたりのGDPで割るのですから、そうなるのはあたり前なのですね。PPPによる評価というのは、そのようなおかしな評価を多少なりとも(かなりの程度)含んでいるということに注意しなくてはいけません。
     
    結局のところ、PPPに対してドル建てで過小評価されている通貨は、その国の経済力が弱く、大多数の国民所得も低い、ということを意味するのですね。国民所得が低いから人件費が低い。だから物価も安い。国内の物価が安いということは、通貨の評価が国内では高いということを意味するわけです。一方で、海外は人件費が高く、輸入品は割高になる。
     
    そのような背景がありますから、為替市場の評価とPPP評価が乖離しているからといって、金利を操作してドル円をPPP評価に近づけることは、大きな危険があります。この乖離の原因が、国内の産業の低迷にあるのであれば、自国通貨安や低金利がその救いになっているのであって、金利を上げて通貨高にすれば、国内の産業はさらに低迷してしまうのですね。
     
    無理な自国通貨高の招く問題は、兌換法を採用したアルゼンチンやドルペッグ制のタイで発生し、自国通貨高が国内産業を破壊した結果、通貨危機に至っております。我が国は、このようなリスクを避けなければいけません。
     
    PPP(購買力平価)といえば、実際を正しく評価しているように聞こえるかもしれませんが、それが通用するのは世界を股にかけて移動している人に対してであって、国内で生活している一般の人にとっては、収入の差も物価に反映されなくては実情に即しているとは言えない。
     
    給料が安いなら、モノも安くなければやっていけない。そして人件費が安いなら、安く作ることもできるのですね。ビッグマックが安いのも、単に人件費が安いから、というだけの話ではないですか?