リトル広州:中国に侵食されるタイの東部経済回廊

リトル広州

(タイ政府が推進する最重要メガプロジェクトである)タイ東部経済回廊内に位置するラヨーン県プルワクデーン郡では、中国資本による投資が激増し、チョンブリー県シーラチャー郡の「リトル大阪」になぞらえて、「リトル広州」と呼ばれるようになっている。

これは現地の英字紙、The Nationに載っていた記事であるが、タイの有名なビーチリゾート、パタヤの近くにあるシーラチャーには、筆者も何度か行ったことがある。

レムチャバンというタイ最大の貿易港が近いこともあって、周辺にはたくさんの日系企業が進出していて、そこにできた日本人向けの夜の繁華街が「リトル大阪」なのであるが、別に日本人ばかりというほどでもないし、治安も特に問題はない。

一方、「リトル広州」というと、どこか異国情緒があって聞こえはいいのだが、筆者は行ってみたいとも思わない。というのも、数世代前に移住してタイ国籍やタイの文化に馴染んだ「華人(中国系タイ人)」の街であるヤワラートに対し、「リトル広州」は近年になって中国本土から移り住んできた中国人(新華僑)が多く住むエリアで、彼らの傍若無人な態度にはいつも辟易するからだ。

実際、バンコクにおいても、同じ中華系でありながら、華人と新華僑は仲がよくないのだが、同様に、数世代にわたって横浜の中華街周辺に住む華僑と、最近日本に移住してきた中国人との間にも、相容れないところがあるのだろうと思う。

既に問題続出

1.経済変化と急激な地価高騰

  • 土地価格の上昇:道路沿いの土地は1ライ(約1,600㎡)あたり4,000万バーツ(約1億6,000万円)以上に達しており、場所によってはさらに高騰している。
  • 産業と生活圏の拡大:工場建設にとどまらず、中国人労働者・住民を対象とした飲食店、小売店、住宅などのサービス分野へも中国資本が進出。

2.顕在化している懸念と課題

  • 工業団地外の土地購入:監視や管理が行き届きにくい工業団地外の土地を買い占めて事業展開するケースが増加しており、環境問題のリスクが高まっている。
  • 電力・水資源の圧迫(データセンター問題):特に中国のデータセンターの進出(10社以上)に伴い、大量の電力と水資源が消費されるため、地域住民や既存の工場への供給圧迫が懸念されている。
  • 雇用の不創出と地元競合:中国系工場では自動化・ロボット導入が進んでいるため、地元住民の雇用があまり増えず、さらに輸入製品や中国系事業者の拡大が地元中小企業の脅威となっている。

先月の上海AI会議で、タイのアヌティン首相は習近平主席に「タイはASEANのAIハブを目指し、データセンターやデジタルインフラへの投資を加速する」と約束したのだが、実態は水資源の乏しい中国にここぞとばかりにたくさんの土地を買収され、大量の電力と水を使う中国資本のデータセンター建設が進んでいるわけである。 一方、このラヨーン県プルワクデーン郡では、特に自動車・自動車部品、金属加工、電機・機械、物流分野の日系企業が非常に多く集積していて、将来的に電力や水不足の影響を受ける可能性も高い。

後手に回る行政

行政および地域組織(商工会議所)の動き

  • 新しい都市計画の策定:タイ都市計画・営繕局(DPT)は、地域住民の生活エリアと工業エリア(紫ゾーン)を明確に分離し、過度な乱開発を防ぐためのより厳しい都市計画案を作成中。
  • データセンターの法規制化提案:ラヨーン県商工会議所は、データセンターを「工場法」上の新規規制カテゴリ(第108分類)として追加し、法的な監視下に置くことを提案。
  • 県知事トップの審査委員会設置案:投資許可の判断を単なる建築基準や土地の用途区分だけに頼るのではなく、インフラ(水・電力・交通)や環境への影響を総合的に評価する「県レベルの審査委員会(県知事が議長)」の設立。

ということで、リトル広州の存在感が大きくなるにつれ、タイの役所も急いで対策を検討し始めたのであるが、正直なところ、いくら規制を作っても、いったん入り込んでくれば、彼らが「はいそうですか」と素直に従うとは思えない。

むしろ、「リトル広州」は瞬く間に「ビッグ広州」に成長し、やがて中国人たちはそこが自分たちの国であるかのように振る舞い始め、中国の植民地のようになっていくのではないかと思うのだが……。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント