「冷やしかにラーメン」の大規模食中毒事件で考える、わが国の衛生管理

麻布十番のお祭りの蟹ラーメンのお店で、サルモネラ菌などを原因とする大規模な食中毒事件が起きてしまいました。

この事件は、飲食業をやるのは非常に難しいなぁと思いつつ、改めてわが国の食品衛生基準を見直す機会になったのではないでしょうか。

私も親類に料理人が何人かおりますので、飲食の修行の厳しさをよく存じ上げています。

ANN NEWS より

日本の飲食業を支えてきた厳しい修行

特に日本の場合は、他の国よりも職人技を極めるために修行期間が長く、異常に厳しいです。皿洗いや清掃などの下働きから始め、10年以上かかることも珍しくありませんが、それは徹底的な衛生管理や店の経営の仕組みなどを、給料をもらいながら学べる仕組みだからです。体で仕事を覚えるのは、生ものを扱うことが多い日本では特に重要です。

私はアメリカ・欧州に住んで30年ほどになりますが、他の国の飲食業はここまで厳しい修行をやりません。

特にアメリカとイギリス、オランダといったアングロサクソンの国は、もともと食にこだわりが低いですから、飲食業は極めて工業的で、日本のようにさまざまな工夫を凝らした個人店があるというわけではありません。

アメリカなど、ちょっと郊外に行けば本当にファーストフードしかなくて、食べることを考えると、毎日鬱になります。

しかし、そうなってしまった理由は、やはりそれらの国は多様な人々がいるからです。

多様化が促す飲食業の「工業化」

外国人や宗教が異なる人も多く、前提となる衛生管理の基準や、品質期待値、仕事のやり方などがバラバラなため、どんな人が作っても同じようなものになるように、マニュアル化を進め、プロセスも合理化しなければなりません。したがって、コストや安全性を考慮した場合、工業化したファーストフードだらけにするほかないわけです。

私の著書『世界のニュースを日本人は何も知らない』で紹介したように、多様化には大変なコストがかかります。

これは私が仕事をしてきたIT業界でも全く同じです。

日本のシステム業界は、属人的なスキルが多く、ある意味、職人技的な仕事のやり方をするので、実は非常にレベルは高いのですが、誰でも仕事ができるように工夫したひな形やプロセスの適切化がうまくありません。要するに、システムの工業化です。

さすがに製造業の世界では、これは昔から実績があって、海外展開もしていますから、徹底的にやっているのでありますが、IT業界や日本のサービス業界、飲食というのは、まだそこまでは徹底してやっていません。

人手不足で揺らぐ従来型の衛生管理

しかし、日本でも人手不足が顕著になり、これだけ多様な人が飲食業にも入ってくるようになると、もうこれまでのように長い修行をやって、衛生管理基準や経営のやり方を仕込むということができなくなります。

しかも、日本語もわからない人もかなり入ってきますから、教えるのも大変です。

そうなりますと、予想としては、今後、日本の飲食の世界では、食中毒などの事故が起きる可能性が高まるということです。

そのような事故を防ぐには、お店側が徹底したマニュアル化をするほかないのですが、なかなか個人店だと難しいです。

そして非常に重要なのは、政府の役割です。

現在の監査基準では、このような多様化する状況には対応することができません。

監査強化と標準化で事故を防ぐ

アメリカやイギリスのように先んじて多様化した国の先行事例に従って、監査の頻度を増やす、抜き打ち検査をやる、検査員が覆面調査を行う、違反企業に対しては巨額の罰金を徴収し、悪意のある業者やスキルの足りない業者の参入を防止する、さらに透明性を高めるため、ウェブサイトなどで実名をどんどんさらすということが重要になっていきます。

食中毒事件をローカルニュースでどんどん報道するのも重要です。イギリスだと、どこの店にいつ検査が入って、どんな状況だったかまで実に細かく報道され、地元民は結構知っています。危ない店を避け、命を守るためです。イギリスは社会が多様ではなかった時代には、こんな報道は頻繁ではありませんでした(そもそも外食も少なかったですし)。

さらに、業界標準での衛生基準や訓練の枠組み、テンプレート等の標準化を進めていく支援をするというのも重要かと思います。

こういうテンプレート化に関しては、アメリカが非常にうまく、例えば字があまり読めなくても、色やイラストでわかるようになっています。

日本でも、どうしたら事故を防ぐことができるかという視点で、こういった作業を進めていっていただきたいものです。

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