
(前回:E-ledgersの「世界一斉スタート」という無理ゲー)
E-ledgers/E-liabilityが任意のプロジェクトなら何の問題もありません。学者が研究対象として深堀りするのも、やりたい会社がサプライヤーに迷惑をかけずに自らやるのも、どうぞご自由に。しかし怖いのは、これが大企業による取引条件となった場合です。
「来年度からE-ledgerを提出してください」
「製品単位のCO2一次データが必要です」
「第三者保証が必須です」
すぐに製品単位のCO2データなんて算定できません。炭素会計の専用ITシステムを買わされる。担当者を教育する。ガス、燃料などのエネルギーデータを集計する。製品別にCO2を割り当てる。第三者監査・第三者保証を受け、必要なエビデンスを提出する。重大な誤りが指摘されたら集計をやり直す。……これらをクリアして第三者保証書を得られたらようやくCO2伝票として顧客へ渡すことができます。
CO2を1グラム減らす前に、これらの業務が急増します。しかも一度対応したら最後。これが毎期、毎年続くのです。
E-ledgersが取引条件となれば、立場上優位な大企業がサプライヤーへ取引減少をちらつかせる事態も考えられます。大企業ならコンサル会社や監査法人へ数千万円を支払うことができても、中小・零細や町工場には極めて困難な対応を強いられます。
仮に、上記の作業をすべてクリアしてCO2データを算定できたとします。そして交渉の末に製品のCO2排出量に応じた適正な炭素価格の上乗せができたとします。しかしながら、CO2を計算するために投じた人件費・ITシステム導入費・監査費用等まで価格転嫁できるでしょうか。
……日本の下請け構造を知っている人なら答えは明白です。
ただでさえエネルギー価格高騰や人手不足に苦しむ日本の中小・零細事業者にとって、炭素簿記の強制は利益圧迫以外の何ものでもないのです。要求の方法や負担の程度によっては、独禁法が禁じる「優越的地位の濫用」や取適法(旧・下請法)における「買いたたき」など、新たな下請けいじめに発展する可能性があります※)。
※)米国ではこうしたネットゼロ、ESGの強制を「気候カルテル」「独禁法違反」「消費者保護法違反」「利益相反」の疑いがあるとして、複数州の司法長官が調査、召喚を実施しています。2023年頃から始まった調査の結果、GFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)、NZBA(Net-Zero Banking Alliance)などの脱炭素アライアンスが組織再編や活動停止に至りました。金融機関に続き、2025年からはCDP、SBTiといった民間の脱炭素イニシアチブに対する取り締まりも始まっています。サプライチェーン上の脱炭素強制も構図は同じなのです。
さらに皮肉なのは、大企業ほど行動規範やESG憲章等で、「公正な取引」「人権尊重」「責任ある調達」など立派なことを世の中に対して宣言している点です。

筆者は以前から、サプライヤーへの脱炭素要請やスコープ3算定の強制が優越的地位の濫用に抵触しないのかと問題提起してきました。E-ledgersは、その要求をさらに製品単位へと細分化させる可能性があります。
もう少し続きます。
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