松下幸之助さんは多くの偉大な業績を残されましたが、晩年の仕事で特筆されるべきは、やはり「松下政経塾」を作られたことでしょう。幸之助さんが1980年に私財120億円を投じて財団として作られた「松下政経塾」は、その後30年の間に、280人近くの卒業生を世に送り出し、現時点で、30人以上の国会議員と、60人以上の知事、市長、県議、都議が活躍中だと聞いております。
実業で成功した人が、晩年になって「国の為に貢献したい」という強い意欲を持ち、私財を投じて色々なことを試みることはよくあることですが、当初の思い入れ通りに結果が出ているというケースは稀であると思います。「松下政経塾」についても、その当時は、「松下さんが思っているようにうまくは行かないだろう」と見ていた人が多かったらしいのですが、結果は大成功だったわけで、「さすがは幸之助さん」と感服するしかありません。
単に多くの塾出身者が政治家になったというだけでなく、私のように外野席から見ていても、「あ、この人はいいな」と思う人には、塾の出身者が実に多いのです。民主党政権になって、原口総務相と前原国交相の二人の大臣が誕生していますが、共に期待されるところの多い大臣です。
日本では「政治家になろうとすれば、地盤、看板、カバン(金)の三つがそろっていなければならない」ということがよく言われます。それ故に、有力な政治家には二代目、三代目が多く、裸一貫から始め、下積みの「秘書」で苦労を積み重ねてきた人達には、「『秘書』故に汚い金の世界にどっぷり浸からざるを得なかった」という悲劇が付き纏いましたが、松下政経塾は、この壁をある程度突き崩してくれたように思えます。
松下政経塾の二期生で、民主党の衆議院議員からソフトバンクの社長室長に転じた嶋聡さんによると、その頃は塾生が一期あたり15人ぐらい居て、卒業には5年間を要し、初めの2年間が座学、後の3年間が実学だったそうです。(一週間に一度は幸之助さんご自身の講義もあったそうです。)現在は一期あたり6-7人で、3年で卒業ということですから、大分規模が縮小された感じですが、この規模でもよいですから、是非とも続けていって頂きたいものです。
しかし、一つ心配があります。財団というものは、基金が7-9%でまわせた昔はよかったのですが、最近のように2%でまわすのも難しいという状況になると、元本を食いつぶしていかざるを得なくなり、財務的に早晩立ち行かなくなります。こうなると、現在の塾もいつまで存続できるのか、少し心配になりますが、もし基金が底をつきそうなのなら、新たに「幸之助さんの理念に賛同する人達」の追加拠出を募集するという手もあるのではないでしょうか?
ところで、松下政経塾の場合は特異な例かもしれませんが、一般の大学院には、将来政治家たらんと志している人達向けの学部はあるのでしょうか? 政治学科というのがそれにあたるのでしょうが、「政治学」というのは特殊な学問のようですから、これを勉強したからといって、それだけで良い政治家になれるとはとても思えません。もっと生々しい実学的なものが必要であるように思えます。
そういう観点から言うと、東大の法学部が特に「有能な官僚」を育てるような教育をしてきたとも思えませんが、「受験勉強に耐えうるような素質と性格を持った人が官僚向きだ」と言われると、何となく納得は出来ます。しかし、「有能な政治家」と「有能な官僚」は勿論違いますし、今後は「有能な官僚」以上に「有能な政治家」が求められるのは間違いありませんから、「有能な政治家」を輩出するのに有効な「教育のあり方」ということについても、色々考えるべきことがあると思います。
これも前述の嶋聡さんから聞いた話ですが、幸之助さんは、最後に残った30人から入学を許される15人程を選ぶ最終面接を、自ら行っていたそうです。そして、その選考基準は、「愛嬌のある人(人に愛されるタイプ)」と「運の強そうな人」ということだったそうです。「頭の良さ」とか、「弁論の能力」などは、30人に絞り込む過程でチェックされているのでしょうから、成程、これは「政治家たるものの素質」として、核心をついた選考基準なのかもしれません。
さてさて、この幸之助さんの選考基準で現在の政治家をチェックしてみるとどうでしょうか? 小沢さんは少なくとも「人に愛されるタイプ」とは言えませんよね。「運が強い」かどうかも、今後の検察庁の取調べの結果を見てから判断するしかなさそうです。かつての田中角栄首相は、明らかに「愛嬌のある人」に該当し、相当強運の人でもありましたが、その衣鉢を継ぐ小沢さんには、それほどのオーラはなさそうです。
政界は、次第に「一瞬先は闇」の状態になりつつありますが、状況次第では、「松下政経塾」出身の最初の首相が、意外に早い時期に誕生することにならないとも限りません。そうなれば、幸之助さんも、草葉の陰できっと喜ばれることでしょう。
コメント
>小沢さんは少なくとも「人に愛されるタイプ」とは言えませんよね。
僕も「愛嬌がある人」には見えません。
しかし、田中角栄さんには可愛がられたんですよね。
我々の知らないところで結構愛嬌のある人なのか、それとも
愛嬌以外で先輩に可愛がられる魅力を持っている人なのか。
ある意味、鳩山さん以上に謎の多いかたです。
確かに、松下政経塾の出身者は、一本筋の通った方が多いのではないかと思います。
何らかの思想に基づき、断固としてそれを曲げない信念のようなものを感じます。
しかし、ときにそれは狂信として怖いものがありますが、短い人生で事を為すのには、それくらいが丁度良いのでしょう。評価は後からつきます。
小沢一郎も後進の政治家の育成には熱心な人ですね。
今回の「寮」も、松下政経塾の巨大な校舎や宿泊施設に比べればささやかだけど、目的は同じですよね。
あれ?
経営者が自分のフトコロから金を出して政治家を育てようとするとほめられて、政治家がそれをやろうとすると責められるのはなぜ?
いわく「政治資金で不動産を建てるべきでない」?
「手下を増やしているだけ」?
でも私企業の経営者が政治に個人的影響を及ぼす以上の害があるはずもない。
経済力がなければ何も行動を起せないのに、経済力を見たとたんに汚いものを見たような気がする。
大勢が悪いと言えば、自分で何が悪いのか確認する事も無く悪いと思う。
小沢一郎は変節漢なので大嫌いですが、この程度の国民には小沢一郎でももったいなさ過ぎるのかと思う今日この頃。
松下政経塾も非常に気味の悪いものですけど、今のところは、大して影響力を持っていないから叩かれていないのではないかと思います。
というより、松下政経塾は、個人の判断に対しての強制力はないのではないでしょうか。
それに対して、小沢体制は、現在、多大な影響力を持っているし、個人の自由な判断を妨げています。
松下政経塾という枠組みが、もし、何らかの強制力を発揮するようになれば、当然叩かれるようになると思います。
実業で成功して稼いだ人間と、政治資金を流用して多数派工作をしている人間という違いもありますけどね。