アレックス・カー氏が『日本景観論』の中で、電線や看板に溢れた日本の風景を痛烈に批判したが、ひょっとするとこの街は、雑然とした電線や看板も包み込んでしまうのかもしれない。
山梨県の富士吉田市。
富士山とともに暮らす街だ。
全ての道は富士山に通ず。ここでは、全てが富士を拝むように設計されている。
古いものも新しいものも、綺麗なものも汚れたものも、どっしりと構える富士山は、全てを受け入れる。
齊藤智彦さんも富士山の、富士吉田の魅力にとりつかれた一人だ。
海外で彫刻を学んだあと、再度日本でまちづくりを学ぶために通ったSFC(慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス)在学中に移住。
古い建物の改修などを精力的に行う。
「15年間も使っていなかった製氷設備を見ると、逆にわくわくする。創作意欲を掻き立てられるんです。地元の人々も、どうしようもないと思っている建物だからこそ、何をしても許される。」
(富士吉田市で開催された地方創生実践塾のメンバーを案内する齊藤智彦さん)
斎藤さんは、ひょっとすると怪人二十面相かもしれない。東京の仕事もこなしながら、地元の財団を運営し、建築コンペを企画し、移住者の受け入れ窓口となり、リノベーションしたバーにも立つ・・・。
そんな富士吉田の齊藤さんを訪ねて、全国からさまざまな方が集う。
「移住者を受け入れるために大切なことは、子育て環境の充実。だからこそ僕たちは、事務所の一階を保育所にリノベーションすることにしました。オフィスのすぐそばに子供たちがいるのはとても楽しいしかん、まちづくりに一番大切だと考える子育て世代、保護者の生の意見をダイレクトに聞くことができます。」
「歩いて回れる範囲を集中的にリノベーションしました。分散してしまうと魅力の相乗効果を作りにくい。集中させることで、地元の人も変化を感じやすいし、外から来た人も案内しやすいんです」
斎藤さんは、まちづくりの実践家として、成功の秘訣を論理的に話すだけではない。
「最近、するとなるの違いを感じています。町がこうなりたいというのをあと押ししたい。自分がこうやりたいでは、続かないような気がします。」
ときどき、感覚的・哲学的な言葉がにじみ出る。なかなか一言では言い表せない。でも、それが一番の魅力かもしれない。また遊びに行きたくなるのだ。
<井上貴至(長島町副町長(地方創生担当)プロフィール>
<井上貴至の働き方・公私一致>
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学生・卒業生への熱いメッセージです!
<井上貴至の提言>
杯型社会に、求められること
編集部より:この記事は、愛媛県市町振興課長(総務省から出向)、井上貴至氏のブログ 2017年6月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。