新卒一括採用については「ケースバイケース」という意見が多いようだが、それは現在の雇用慣行を前提にしてのことだろう。そもそも均質な人材をそろえる日本の雇用慣行は、生産性に貢献しているのだろうか。今年の経済財政白書に、ちょっとおもしろい調査があったので紹介しておこう。次の図は、日本の産業別の生産性(TFP)上昇率の平均と分散をみたものだ。
製造業・非製造業ともに、分散の大きい産業は平均も大きいことがわかる。分散は生産性の高い企業から低い企業までの多様性を意味するので、これは多様な企業のある産業ほど生産性上昇率が高いことを意味する。特に生産性上昇率の飛び抜けて高い電気機械が多様性も大きいことは、ITイノベーションにとって多様性が重要であることを示唆している。他方、多様性が最小の建設業の生産性上昇率はマイナスで、これは公共事業の比率が高いことが影響しているものと考えられる。
同じように、開業率・廃業率と生産性にも相関がみられる。白書は、こうした定型的事実を「ある産業において生産性の高い企業が参入し、低い企業は退出するという新陳代謝が活発であれば、産業内格差は拡大すると同時に、平均的な生産性の伸びも結果として高くなる」と分析している。これは他の経済現象にもみられる。たとえば所得格差の大きい国ほど生産性上昇率は高く、日本は世界的にみると格差も成長率も小さい。
したがって新卒一括採用のような形で人材の質をそろえることは、個別の企業にとっては望ましい場合もあろうが、マクロ的にみると組織の新陳代謝を阻害し、生産性を低下させる可能性が高い。民主党政権の進めている、派遣労働を規制して「正社員」だけにしようという規制は、日本企業の生産性をますます低下させるだろう。
追記:新陳代謝が成長率を高めることは、シュンペーター型成長理論でも予想されている。
コメント
TFP上昇率とその分散に相関関係があるかも知れませんが、因果関係を表すかは分かりません。
TFPの分散の大きさが、人的資本の多様性に起因するかも、分かりません。
生産性の低い企業が撤退すれば、その産業の生産性は上昇するでしょうが、原理的には底辺がいなくなるので産業内格差は狭まるかも知れません。
池田先生の論旨に賛成です。一概には言えないかもしれませんが、相関性は大いにあると思います。
競争市場では、必然的に生産性の競争も行われますから、生産性を向上できなかった企業は退出せざるを得ません。逆に、何らかの理由で競争環境が実現できていないと、生産性の低い企業が温存され、国際競争力は益々低下するでしょう。
革新を目指す為には多様性は非常に重要だと思います。生物が
高度に進化したのもDNAの多様性故です。遺伝子の中立進化説に基づき、突然変異自体はどの生物にも常に起こっています。数億年の間、姿が変わらないシーラカンスも遺伝子の突然変異自体は常に起きているのです。突然変異が進化に結び付いていない状態です。そして、ダーウィンのガラパゴス諸島での観察により、進化を方向付けるのは環境だと証明されています。
よって、遺伝子の中立進化説+ダーウィンの進化論により、生物が進化する為には、遺伝子レベルの変化と環境による個体の淘汰の相互作用が必要だと結論づけられます。
人間の組織に置き換えてみれば、上記のシーラカンスは多様性をイノベーションに結びつけていない組織、ガラパゴスの生物は多様性をイノベーションに結びつけた例だと思います。
組織が革新する為には、人材の多様性とそれを生かす環境、組織の両方が重要なのだと考えます。
*あくまで組織論で、ナチスの優勢人種説の
ように進化論と結びつけて間違い、かつ危険な主張をする
意図はありません。