「雇用→経済成長」は“逆”なのでは?! ―前田拓生

前田 拓生

先日(9/5)、菅さんがテレ朝に出演し、自身の政策について話をしていました。その中でやはり気になるのが「雇用」についての内容。そこで小宮キャスターは「雇用→経済成長は“逆”なのでは」という質問をしました。経済学的にも「ごもっとも」であり、誰もが感じる“当然の質問”です。

菅さんの回答は・・・

例えば、介護の供給に国が支援して雇用を付けた場合、介護サービスが充実し、需要が増加し、経済成長をすることになる。

前田拓生のTwitterブログ

この点に関しては「雇用は大切だが、単なる“幻想”では経済は良くならない」でも述べたように、これでは持続的な経済成長は見込めません。単純な話、ある一定期間後に「介護の供給としての雇用における支援」を打ち切った場合、その後の雇用は確保できないのですから、この部分の経済成長はなくなってしまいます。つまり、介護等における社会保障関係の雇用を国が支援する形の「雇用促進策」は「コンクリートから人へ」と変わっただけであり、単なる財政支出に過ぎず、今までの失業給付と何ら変わらないのです。

ここでは「例えば」という話でしたから「他にもあるのか」と思い、その後も見ていましたが、私の聞いた限り、特に「他にある」ようには感じられませんでした。まぁ、「他にある」「ない」はともかく、そもそも「雇用→経済成長は“逆”なのでは」という質問に対する“第1の例え”が介護福祉関係の雇用増の話であること自体、菅さんの経済感覚のなさを浮き彫りにしているといえます。

「雇用」は大切ですが、現下の経済において、その雇用が一過性であるような政策では意味がないのです。消費性向が高い場合には「穴を掘って、埋める」という公共投資でも、その後、乗数効果が働き、当初の財政支出がいろいろに波及することで経済回復につながる可能性もあります。しかし、今の日本のように消費性向が低い状態では、財政出動をしても波及経路は限られるのであまり効果的ではない。というか、政府債務残高の問題を国民が意識し出してきている以上、さらに(将来不安からの貯蓄を増やす意味で)消費マインドを冷やす可能性さえあり、非常に危険な方法であるともいえます。

ただ、例えば国の支出による雇用支援策だとしても、それが成長性を見込まれる産業の「雇用」である場合には、当該産業が成長した後に支援を打ち切っても、当該産業の企業群は付加価値で雇用を賄えるようになることから、これなら問題はなく、むしろ「支援すべき」なのかもしれません。

ところが、菅さんは介護業界も「成長分野」と考えているようですが、これは(少なくとも社会保障費で賄われているような介護関係においては)付加価値生産という意味での成長分野ではありません。前掲のコラムにも書いたように、介護従事者の需要が増加しても、介護サービスからの収入は社会保険料によるものなので、社会保険料が増加するだけであるという点を理解すべきです。つまり、介護産業は今後も少子高齢化に伴って拡大をするでしょうが、その拡大で増加するのは社会保障費なので、家計全体の可処分所得で考えれば増加はないのです。したがって、この雇用における波及効果も含めての経済への刺激効果は限定的、または、多くの家計で社会保障費の負担増を予想して、逆に(貯蓄を増やすことから)消費が冷え込む可能性さえ考えられます。

なので、「雇用」よりも、まず「経済成長」をどうするのかを考えないと景気を上向かせるような政策にはならないのです。

そうは言っても、企業にとって雇用は「長期に及ぶコスト負担」を意味するので、そのコスト負担に耐え得るだけの売上予測が立たない限り、現状以上の従業員を増やそうとはしないはずです。まぁ、一時雇用として「派遣」が可能である業種であれば、そのような雇用は増加するでしょうが、一時的な雇用による景気刺激では、現状の景気対策にはならないわけですから、ここでは話を省きます。つまり、民間企業自身が、この混沌とした景気状態から脱出し、「これなら」という分野が見つかれば、その分野の雇用は増加させる可能性があるわけですが、将来性に対して自信が持てない状態では「従業員を増やす」ことはありません。

このような場合、ある一定期間、国が国庫負担で補助金を出し、雇用を促すことは効果的かもしれません。しかし必要なのは、「これなら」と思うような「経済成長分野」をつくり出すことなのであり、その後に「雇用促進」を考えないとうまくはいきません。

とはいえ、国が「これが経済成長分野です」というのは難しいでしょうね。「儲かる」という分野は、やはり、民間の方が「鼻が効く」わけですから、国が「ここが良い」と思うようなことは、民間ではすでに行っているはずなのですから・・・

したがって、「この分野が良い」というのは民間に考えてもらって、国がやることは規制を緩和して「自由に分野を選べる」「参入が自由にできる」ようにすることなのです。民間に自由に行動させれば、その中から「儲かる」という分野を探し出し、そこに資金を投入して事業を推し進めるはずなのです。新規事業が容易に立ち上げることができるような社会であれば、雇用も生まれ、産業自体も活性化するので、景気も上向いてくるでしょう。

まぁ、「どのような規制緩和が効果的か」となると、いろいろと議論があるでしょうし、段階を踏んで実行していかないといけないものですから、非常に難しいのも確かです。でも、だから、そこが政策になるわけであり、雇用促進のためにも「どのような規制緩和をするのか」を焦点にすべきだと思います。

このような部分がなく、いきなり「雇用が大切」だけでは、何の政策でもなく、「何がしたいのはわからない」という批判が出るのは当たり前です。

小沢さんと菅さんの代表をめぐる戦いはヒートアップしていますが、「雇用」だけを、しかも、それを軸にしての「幻想のような経済成長」の話だけで政策論争をしみても、そこからは何も生まれては来ません。世論調査では菅さん支持が多いようですが、経済に関する政策的な点だけでみた場合、菅さんを支持できる要素は、現在のところ、皆無だと思います。