朝日新聞異質論・・・いま防衛力削減を主張する意図?

岡田 克敏

「衣の下から鎧(よろい)が見える」
11月14日と同19日の朝日新聞社説にはそんな印象があります。そしてその鎧はいささか不気味なものに見えます。

 横浜で菅首相とオバマ大統領が日米同盟の深化をうたう新しい共同声明のとりまとめで一致したことを受けて、朝日社説(11/14)は「領土をめぐる中国、ロシアの強硬姿勢の背景として、普天間問題による日米関係の揺らぎを指摘する声は多い」と、一般の見方を紹介しながら以下のように主張しています。

「ただ、世界の成長を牽引する中国は、今や日米双方にとって経済的にも政治的にも重要なパートナーだ。同盟の深化は中国に対抗するためではない」としています。


 また19日の社説は新防衛大綱に関するもので、首相の諮問機関が専守防衛の理念を支えてきた基盤的防衛力構想を否定し、脅威対応型への転換と九州・沖縄地区の戦力増強、離党防衛強化などを主張したことに反論する形で次のように述べています。

「無用の摩擦を生み外交の妨げにならないか。とりわけ平和国家としてのブランド力を失うことにならないか。(中略) 英国やドイツは国防予算の大幅カットや、兵員や装備の削減に踏み切ろうとしている。日本も人員縮小や給与体系などの見直しに踏み込んではどうか

 14日の社説、「普天間問題による日米関係の揺らぎ」と述べていますが、これは普天間問題によるというよりも米国と中国に対する等距離外交という鳩山政権の基本的な姿勢によるものと理解するのが適切です。VOICEに掲載された鳩山論文がニューヨークタイムズ転載され、米国内のリベラル派勢力からも反米的と見られて騒ぎになりましたが、これは鳩山政権の姿勢を示すものです。米国との溝は鳩山政権の性格によって必然的に生じたものであり、普天間問題によってたまたま起きたというような表現は誤解を生みます(意図的な気がしますが)。

 「(日米)同盟の深化は中国に対抗するためではない」という主張は、日米関係の脆弱化が中ロの強硬姿勢を招いたという大多数の認識を否定するものです。「対抗するためではない」理由として「中国は、今や日米双方にとって経済的にも政治的にも重要なパートナーだ」ということが挙げられていますが、同盟関係の条件は経済的・政治的重要度だけでなく、相手が信頼に値する国かどうかがもっとも重要です。しかしここではそれを無視しています。

 19日の社説では英国やドイツを例にとり、日本の防衛力縮小を狙っているのは明らかです。しかし05年の国防費のGDP比は英国2.3%、ドイツ1.4%、フランス2.5%、米国4.0%などに比べ日本は最低水準の1.0%ですから、ベースがまったく異なります。また軍事的脅威が減少している西欧諸国に対し、軍事力を急拡大させている中国や核兵器の配備を企む北朝鮮に隣接する日本とは環境が大きく異なります。これらの条件の差異を無視し、都合のいい理由だけを挙げて防衛力の削減を主張するのは実に不誠実な態度です。

 尖閣事件から明らかになったものは、国際関係は依然としてパワー・ポリティクスが基本であるという事実でしょう。憲法前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とありますが、何をするかわからない国々への対処の必要性が改めて認識されたと思います。

 にもかかわらず、上記の社説からは朝日新聞が鳩山流の等距離外交と防衛力縮小を目指していることが読み取れます。管政権は「友愛」象徴される鳩山政権の夢想路線から米国重視、防衛力強化の現実路線へと転換したようですが、朝日はこれらがお気に召さないようです。あの「友愛」首相ですら首相になってから抑止力の重要性を学ばれたというのに。

 20年間毎年2桁で軍事費を増加させ、攻撃型兵器である空母をも保有しようとしている中国に対し、日本の防衛力は縮小すべきである、そして中国に対抗するために日米同盟を深化させてはいけないと理解できる主張はなんとも理解に苦しみます。もしこれが中国の利益のための主張ならば大変よく理解できるのですが。

 これらの主張は憲法前文にあるような理想論・建前論や社民党の非武装中立論に通じるところがありますが、その非現実性は中学生にもわかるレベルだと思います。とすればあえてこの非現実的な主張を社説に掲げる狙いは何か、ということになります。もしかすると、衣の下の鎧は中国製?

 一方、21日の朝日朝刊の社会面トップは「日本漁船 遠のく尖閣」「燃油高 足延ばせず」「魚値下がり採算とれず」の見出しで尖閣を取り上げています。ページの約3分の2を使った記事は尖閣諸島周辺は漁場として採算が悪く、あまり価値がないという内容です。今わざわざ尖閣諸島の価値が低いと思わせる記事を大きく掲載する意図はなんでしょうか。尖閣は守るほどの領土ではないよ、というメッセージかと勘ぐりたくなります。

 かつて朝日の若宮啓文元論説主幹は、竹島はもともと漁業のほかに価値が乏しい無人島だ、いっそのこと韓国に譲ってしまったら、と書き批判を浴びた実績があるので、この勘ぐりもまんざら荒唐無稽とはいえないかもしれません。

 朝日新聞社には、防衛力を縮小しても日本の安全に支障はない、中国に対抗し得る米国との同盟がなくても大丈夫だというご主張の根拠を是非ともお示し願いたいものです。

コメント

  1. m_akkie より:

    まあ朝日新聞が中国よりなのは昔からではありますが、最近は尖閣ビデオ問題で仙谷官房長官の主張そのままの流出はけしからん一点張りの社説を掲げたり、民主党政権の広報紙化してますね。政府が隠してる情報は今回のようなビデオでも一切国民に知らせるなと主張する新聞がリベラル紙を自称するなんて冗談としか思えません。

  2. ksmethod より:

    では、「中国の脅威」とやらに対抗するには防衛費がいくら必要か算出根拠を示して述べてください。
    国家財政が危機的な状況にある中で、防衛費削減だけは罷りならんというのは理解不能です。
    あなたは防衛費を削減した途端、中国からミサイルが飛んでくるとでも思ってるのでしょうか?
    思ってるんでしょうけど。

  3. harappa5 より:

    >ksmethodさんへ

    防衛力を、自分の手で弱体化させ、結果、尖閣諸島や沖縄が中国領になったら、誰が責任を取るのでしょうか?バランスを取りながら、緻密な議論が必要だと思います。

  4. hogeihantai より:

    >3

    領土は経済的な利用価値の方がそれを維持する費用より大きい時、保有するメリットがある。尖閣近辺には常時4隻の巡視船を配備し、自衛隊の艦船まで配備しようとしている。尖閣の地主には年間2千万円以上の借地料まで支払っている。

    明治政府は尖閣を含む先島諸島を、清との交易での最恵国待遇の代償として割譲すると提案している。領土問題は国民の琴線に触れる微妙な問題であるが、当時の政府は現在のような衆愚政治とは縁が無かったので、領土より経済的利益を優先しようとしたのです。今と明治政府を比べれば、どちらが大人の判断か明白です。

  5. harappa5 より:

    > hogeihantai様へ

     私は、尖閣諸島を保有する事での経済的価値の方が、維持する費用よりも大きいと思います。
     理由は、海洋資源です。尖閣諸島周辺の漁業権、天然資源の豊富さを理解すれば、経済的価値が、非常に高いと思います。
     次の理由は、次は、沖縄を喪失する可能性がある事です。彼らは、尖閣諸島の次は、沖縄を狙っています。ニコニコ動画で中国在留のジャーナリストが、中国人は、軍事力で領土が決まる。もし、国力、軍事力が増大すれば、領土を広げて当然だ、と市民レベルで認識していると話していました。

  6. m_akkie より:

    つまり、朝鮮を併合し、遼東半島の割譲を狙った明治政府は大人なのか。

  7. srx600_2 より:

    >> hogeihantai

    あなたはなぜ中国か尖閣列島を自国領土と主張するのかご存知ですか。
    70年代前半、尖閣周辺で石油の存在が明らかになり、それを目当てに領土の主張を始めたんですよ。
    この事は、当時の国務院総理の周恩来氏も公の場で認めています。

    今現在、尖閣の戦略的重要性はさらに増しています。
    中国は太平洋進出のためのシーレーン確保に躍起になり、尖閣諸島の奪取は核心的利益と位置付けています。

    この問題は東アジアだけには留まりません。ASEAN各国、インド、韓国、モンゴル、中国近隣の多くの国が、対中国で領土あるいは政治における重大な係争を抱えています。
    そして尖閣が、その最前線に位置するのです。

  8. hogeihantai より:

    >6
    明治政府の理解では、朝鮮半島、台湾、遼東半島、南樺太は経済的価値が大きい。尖閣は価値無しという事です。

    >5
    私は島嶼の自治体の予算を数箇所調べてみました。経済的に、漁業、農業、観光等、地元の産業で自立しているところは皆無で上部の都道府県の出資金や国の交付税、公共事業でなんとか生活しているところばかりです。自主財源率は本土の自治体に比較し極端に低い。島嶼近海の「豊かな漁業資源」とはどの島でも冗談に過ぎません。漁業だけで生活できる島などは日本に存在しないのです。

    尖閣の次は沖縄とのことですが、米軍がいるのに出来るわけがありませんよ。

    >6
    尖閣周辺の地下資源なぞ取らぬ狸の皮算用です。問題のガス田でも日本が掘削して本土に運んできては全く採算に合わない程、少量の埋蔵量なのですよ。「資源があるある」と騒いでれば食っていける特殊法人が有るのです。役人の天下り先の口車には簡単に乗らないことです。

  9. courante1 より:

    ご意見をお寄せいただきありがとうございます。
    文化大革命の時代、他のメディアが悉く中国から追放される中、朝日のみが北京支局の継続を許されました。朝日はそのために筆を曲げたわけです。朝日の中国寄り姿勢は長い歴史と伝統に支えられています。文革礼賛の報道もそんな中から生まれたのでしょう。

    尖閣や北朝鮮の問題にもかかわらず、頑に非現実路線を固守し、800万部の影響力を行使すれば、それは政治にも影響を与えて、議論を混乱させるばかりか、日本を危険な方向へ導きかねないと懸念します。朝日が鳩山政権の誕生に大きく寄与したように。

    また新聞という公共財に類するものが中立を装いながら特定の思想を組織的に広めることの是非についても議論があってよいと思います。
     岡田克敏(記事の筆者)

  10. srx600_2 より:

    >> 8
    明治政府の話をしても意味が無い。

    wikipediaより抜粋
    尖閣周辺には1969年および1970年に国連が行った海洋調査では、推定1,095億バレルという、イラクの埋蔵量に匹敵する大量の石油埋蔵量の可能性が報告された。

    嘘をついてまで書きこむ意味あるんですか?

  11. bobby2009 より:

    harappa5さん

    >私は、尖閣諸島を保有する事での経済的価値の方が、維持する費用よりも大きいと思います。

    経済合理性で選択するという考え方には賛成でしょうか。もし中国が、海底資源の推定価値に等しい代価を支払うなら、委譲してもかまいませんか?

    >次の理由は、次は、沖縄を喪失する可能性がある事です。

    無人島と沖縄を単純に比較する事はできないと考えます。ところで沖縄は琉球王国という独立国家であったものを武力で併合したのであり、形式的に琉球王国は清の属国であったようですから、歴史的に考えて、沖縄が中国へ「返還」される事が異常とはいえない。もし沖縄にいる琉球民族の世論が中国を選択したらどうしますか?

  12. bobby2009 より:

    尖閣諸島の「魚釣島」の中国名は「釣魚島(あるいは釣魚台)」です。このネーミングを見ると、片方が先に命名し、もう片方がその名前を自国風に読み替えたと解釈するのが単純かつ合理的な解釈かと思います。

    どちらが先に名前をつけたかを明らかにすれば、「もともとどちら側の島であったか」という事の手がかりになるかもしれません。

    1900年5月に黒岩恒という人がこの島の冒険をしているようですが、彼が書き残した島の地図には「釣魚嶼」と中国式と思われる島名が使われているのは非常に興味深いですね。

    【釣魚嶼の地図】
    当該地図は島の写真のすぐ下
    http://senkakusyashintizu.web.fc2.com/page058.html

    ところで明治以前に琉球は日本ではありませんでした。当時の琉球人はこの島を何と呼んでいたのでしょうか?

  13. harappa5 より:

    >bobby2009様へ

    >経済合理性で選択するという考え方には賛成でしょうか。もし中国が、海底資源の推定価値に等しい代価を支払うなら、委譲してもかまいませんか?

    基本的に、経済合理性で、判断すべきではない、という立場です。領土は、取引の対象ではありません。切り売りの対象でもありません。

    >無人島と沖縄を単純に比較する事はできないと考えます。

    中国側で、既にそのような声があります。武力で、領土を拡大させる危険性は、否定できません。タイミングと中国の意志決定プロセスの組み合わせ次第で、沖縄を失う危険性を予め理解すべきです。

  14. harappa5 より:

    >ところで沖縄は琉球王国という独立国家であったものを武力で併合したのであり、形式的に琉球王国は清の属国であったようですから、歴史的に考えて、沖縄が中国へ「返還」される事が異常とはいえない。

    琉球王国は、薩摩藩に服属していた事実を理解すべきです。岡田英弘さんの本によると、首里城には、日本側を接待する部屋と中国側を接待する部屋の両方があるそうですが、琉球王朝が微妙な立場にいたと理解しています。

    同じ民族でも政治的な理由で、別の国があるという例は、幾らでもあります。オーストリアとドイツ、北朝鮮と韓国、中国と台湾、同じアングロ・サクソンでも、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド等のように数多くの国に分かれている場合もあります。
    まず、沖縄の県民は「日本人」である。しかし、政治的な理由で、形式的に中国の支配を受け、歴史的背景により、別の国であった。ナショナリズムの時代に、琉球王国が日本に組み込まれ、現代に至ると解釈しています

    私は、日本人は、一つの国家・政府の元に服属すべきであるという立場ですから、別の政府・国家を作ろうとする内外の野心には、徹底的に反対します。

  15. hogeihantai より:

    bobbyさん

    日本名の尖閣は1600年代に英国人が「発見」し命名した島名のPINNACLEを訳し明治になって釣魚から変更したものです。日本で最も古い記録は1785年頃、林子平(はやししへい)が残した地図で、中国大陸と同じ色で彩色されており、琉球王国とは区別されています。この地図では尖閣でなく釣魚島となってます。林がどういう思想を持っていたか調べれば、国境線には細心の注意を払ったことが分かるはずです。

    琉球王国が自国領とした文献資料も一切ありません。琉球は清に朝貢してましたが、それをもって今の中国が領有権を主張できるなら韓国、ベトナム、ネパールも中国領と主張できますね。沖縄が日本の領土になったのは島民の意思からではありません。明治になって政府がかってに琉球王国を廃止し琉球藩とし日本領としたからです。

    私は尖閣が中国領と主張してるのではありません。しかし日本政府が強く主張するような「日本固有」の領土とも思えないのです。

  16. bobby2009 より:

    harappa5さん

    >琉球王国は、薩摩藩に服属していた事実を理解すべきです。

    薩摩藩に実効支配されるずっと以前から清に朝貢していたのが事実であれば、日本が中国から琉球を「掠め取った」と言われても返す言葉がないのではありませんか?

    >日本人は、一つの国家・政府の元に服属すべきであるという立場ですから、別の政府・国家を作ろうとする内外の野心には、徹底的に反対します。

    中国人も同じ事を言いながら、韓国・日本・琉球・ベトナムは、元の政府に服属するべきだと言ったら、どのように反論されますか?

  17. bobby2009 より:

    hogeihantaiさん

    >私は尖閣が中国領と主張してるのではありません。しかし日本政府が強く主張するような「日本固有」の領土とも思えないのです。

    根津修二さんが、「交渉術」から尖閣諸島・北方領土を考えるで述べられていますが、お互いが「正等な権利」を正面からぶつけると解決の糸口がありません。

    もともとどちらの領土であったを追求するのは無意味です。あらゆる土地は、もともとはどの国の領土でもないですから。

    政治家は国民の実質的な利益を高める方法が共同統治や買収や譲渡であるのなら、その理由を国民に説明して理解を得るべきであろうと思います。それこそが政治家の本当の仕事とおもうのですが。